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ワークショップなんかこわくない -ワークショップ参加マニュアル

 国際学会に併設さ5れるワークショップに参加すると、たいへん勉強になります。また、大学院生の方は、学術振興会の特別研究員の申請書に「国際学会での発表」の欄がありますので、学振をとるためにも、ぜひとも国際学会で発表しましょう。

 臨床系の学会では,「学会」と「ワークショップ」は全く別のものです。「学会」は,アカデミックな研究の発表の場であり,シンポジウムや個人発表など,研究の成果を発表する場です。シンポジウムは、非常に質が高く、1人40分くらい、4~6人が同じテーマで発表し議論しますので、たいへん勉強になります。プロジェクターを使ってスライドを提示するので、英語の苦手な人にも理解しやすいでしょう。事例研究はあまりなく、ほとんどは多数例研究や治療効果研究や実験研究です。

 これに対して,「ワークショップ」は,臨床のスキルを学ぶための研修会であり,臨床家を育てる場です。研究の場ではありません。事例などを豊富に提示して,臨床家にわかりやすい形で研修がおこなわれます。

 ワークショップに参加する方のために、Q&A方式でまとめてみました。

Q01. ワークショップとは何ですか?
A01 ワークショップとは、臨床のスキルを身につけるための研修会です。臨床家を育てる会であって、研究の場ではありません。ビデオで事例などを提示して,臨床家にわかりやすい形で研修がおこなわれます。認知行動療法のワークショップは、初心者向け・中級者向け・上級者向けといった具合に、対象が限定されていますので、臨床経験に合ったコースを選べます。

大きな学会に併設しておこなわれるワークショップは、われわれ日本人には参加しやすいでしょう(科研費とか研究費などを使いやすいでしょう)。講師も、学会では研究者としての厳しい攻撃的な顔をしていますが、ワークショップでは,ニコニコと笑顔で、ユーモアたっぷりに教育してくれます。論文で知っている研究者の臨床家としての顔を見ることができます。
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Q02. 参加するのに資格はいりますか?
A02 とくに参加資格はありません。
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Q03. ワークショップの講師はどんな人ですか?
A03 ワークショップの講師は、臨床経験もワークショップ経験も豊富な臨床家ばかりです。ワークショップの講師については、プログラム委員会で審査し、これまでの臨床歴・ワークショップ歴・研究歴などを検討し、優れた人だけにお願いしてあります。
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Q04. 英語のワークショップでも理解できるでしょうか?
A04 確かに早口の英語だと理解できないこともありますが、視覚的補助を用いるので、だいたいのところは理解できます。
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Q05. どんなメリットがありますか?
A05 ワークショップには次のようなメリットがあります。

  1. 明日から臨床の現場で使えるような臨床スキルを身につけられます。
     本で読んでも、臨床のスキルはなかなか身につきません。また、専門の大学院に入ったり、訓練コースに通ったりする方法もありますが、時間がかかります。そこで1日で即席に臨床家を育てるのがワークショップです。また、臨床の上級者が、日頃の臨床を考え直したり、新しいスキルを身につけたりするのがワークショップです。筆者自身は臨床の力はそれほどありませんが、ワークショップに出ると、明日からでもこの技法を臨床で使えるという気にさせてくれます。ベテランも初心者も、それなりに学ぶところがあると思われます。
  2. 世界の最先端の心理療法の情報が手に入ります。
     治療の仕事をしていない人にとっても、治療についての知識を身につけることができます。世界の心理療法の最前線がどのようになっているかを肌で感じるだけでも意義があります。日本の心理臨床の雰囲気とはあまりに違うので、驚かれるかたも多いのではないでしょうか。また、生きた英語の訓練の場にもなります(1日英語を浴びていると確実に英語力はアップします)。
  3. 日本に認知行動療法を根付かせるために必要です。
     今や認知行動療法は、世界の臨床心理学の中心になっています。しかし、日本では、認知行動療法について知っている人は、まだ少ないのが現状です。世界標準から20年以上遅れています。ワークショップを開けるだけの人材も限られていますので、認知行動療法の実際について知ることはなかなか難しいわけです。そこで、直接、世界の学会に出かけていってワークショップを受けることが最も手っ取り早い方法です。日本から集団で参加するようになれば、日本のレベルも確実に上がります。その中から、日本でワークショップを開けるような人材が育っていただきたいと思います。
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Q06. ワークショップではどんなことをするのですか?
A06 ワークショップは次のような要素からなっています。

  1. 講義を聞く
     ほとんどの時間は講義です。90分単位で、休憩をとりつつ進めていきます。内容はわかりやすく、具体的なアセスメントの仕方,技法の使い方,注意点などがゆっくりと具体的に話されます。講師は,参加者の顔をひとりずつ見ながら,ゆっくりとていねいに話します。質問を歓迎し,質問をなるべく多く出すように話します。参加者に気を使っていることがよくわかります。
  2. 視覚的補助
     ほとんどはOHPやプロジェクター(パワーポイント)などの視覚的補助を使います。これもたいへんわかりやすく作られています。たまに、視覚的補助がなく、講師が英語でただしゃべりっぱなしのものもあります(この場合は日本人にはきつい)。
  3. 配付資料(ハンドアウト)を読む
     教材などを配付資料として配るのが普通です。中には、プロジェクターやOHPをそのまま配付資料として配ることもあります(これをもらうだけでも元はとれたと感じます)。講師がワークショップの準備に膨大な時間を使っていることがわかります。
  4. 事例の提示を聞く
     多くのワークショップでは、ビデオやOHPで事例を提示します。とくに事例にこだわらないワークショップもあります。
  5. エクササイズをすることもある
     途中で、小さな集団になったり、隣の人と1対1になって、ロールプレイをしたりすることも、たまにあります。ロールプレイで,アセスメントの仕方や応答の仕方を実習し、臨床スキルを効果的に習得します。また、渡された配付資料を使って、感じたことを書くなどのWritingエクササイズもあります。瞑想やリラクセーションなどのPhysical Facilitiesがあることもあります。
  6. ワークショップの評価をする
     このワークショップが適当な内容だったかを、参加者が評価し、用紙に記入します。このワークショップの目標はうまく伝わったか、プレゼンテーションの仕方は適切だったか、情報は新しいものだったか、研究的すぎないか、理論的すぎないか、臨床的すきないか、などについて、事細かに評価します。それを最後に提出します。
  7. 参加証明書をもらう
     最後まで参加して、署名をすると、参加証明書Certificate of Attendanceがもらえます(とてもうれしいもので、日本のオフィスに飾っておきたいと思います)。その国の臨床心理士の研修の得点となるわけです。これは日本の臨床心理士の研修得点と同じです。
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Q07. 参加するためには、どのような手続きが必要ですか?
A07 事前の手続きPre-Registrationか、当日の手続きOn-Site-Registrationのどちらかがあります。

  1. 事前の手続きPre-Registrationは、学会のホームページから、申し込み用紙を印刷し、それに必要事項を記入して、学会宛に郵送するかFAXします。すると、確認の手紙かメールが来ます。お金は、クレジット・カードから引き落とされます。インターネットでのオンラインの申し込みはまだしていないようです。だいたい学会の2ヶ月~半年前くらいが申し込みの締め切りとなります。
  2. 当日の手続きOn-Site-Registrationも可能です。ただし、事前の手続きよりも値段が高くなります。また、希望するワークショップが満員で予約できないこともあります。できるだけ、事前の申し込みをお勧めします。
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Q08. どんなワークショップを選べばよいですか?
A08 ワークショップはだいたいは一定レベルを保っていますが、たしかに「はずれ」もあります。これまでの体験から、良いワークショップを選ぶための手がかりを示します。

  1. 世界的に著名な人は、ワークショップもたくさんやっているので、だいたい優れています。あまり知られていない人のワークショップは、当たりはずれがあります。
  2. 「1日ワークショップ」は密度が高くておすすめです。一方、「半日ワークショップ」は玉石混淆で、当たりはずれがあります。
  3. 「学会発表スタイル」のワークショップは、OHPなどの視覚的補助を使うのでわかりやすいです。「講演スタイル」のワークショップは、視覚的補助がなく、講師が英語でただしゃべりっぱなしで、日本人には理解しにくいことがあります。認知行動療法系のワークショップは、学会発表スタイルが多いのに対し、カウンセリング系(論理療法とかカウンセリング系)のワークショップは、講演スタイルのことが多いようです。
  4. 訓練のプロのワークショップは、たいへん慣れていて、わかりやすいことが多いです。認知行動療法の訓練を構造化して、初心者にもわかりやすいようにしてあるからです。これに対して、大学の研究者系のワークショップは、当たりはずれがあるようです。また、臨床施設の人が、自分の施設でおこなっている臨床を報告する形のワークショップもありますが、概して一般的情報量の少ないものが多い気がします。
  5. 講師がひとりのワークショップはよいですが、講師が2人以上のワークショップは、連絡不足のことがあり、話に一貫性がなかったりすることがあります。
  6. 無料のワークショップもたまにありますが、期待はずれも多いようです。有料のワークショップのほうが、ためになることが多いです。
  7. 当然ですが、自分の興味のある対象についてのワークショップは面白く聞けますが、興味のない対象についてのワークショップには興味が持てません。
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Q09. ワークショップの最終的な目標は何でしょうか?
A09 欧米のワークショップで勉強することは、初期の暫定的な目標です。臨床家を日本に呼んでワークショップを開いたり、認知行動療法のマニュアルやビデオ教材やアセスメント・ツールなどを系統的に紹介していくことが望ましいと思います。今の日本では、ワークショップを開けるだけの人材も限られていますが、何年か後には、日本語でワークショップを開ける人材がたくさん育っていることでしょう。前述のような、認知行動療法のプロのトレーナーが日本にも育ってくるのが一番すばらしいことでしょう。
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Q10. ワークショップで困ったらどうしたらよいでしょうか?
A10 ワークショップに出ると、時々困ることもあるかもしれません。
 最初に参加者の自己紹介をするワークショップもあります。これは、ごく簡単な紹介なので、名前と所属を述べればよいだけです。
 一番の問題は、エクササイズです。小さな集団になったり、隣の人と1対1になって、ロールプレイをしたりすることがたまにあるので、その場合、英語ができない日本人は困惑してしまいます。筆者はあるワークショップで,時差ボケのためついつい居眠りをしてしまったところ,気づいたら,ロールプレイが始まっていて,孤立してしまったことがありました(トラウマになりかねないほど)。ロールプレイで、周りの人の言葉が理解できず、何もしゃべられないという体験をすると、自分が無能になってしまったような気がして、かなりしんどいものです。
 こうしたロールプレイに対しては、いろいろな対策を考えておくとよいでしょう。
  1. 前もって、ロールプレイのエクササイズがあるかどうかを調べておきます。ロールプレイがあるのは、中級・上級者向けのワークショップであることが多いですし、説明文にも「ロールプレイをする、エクササイズをする」といったように書かれていることも多いのです。開始前に、講師に聞いておいてもよいでしょう。
  2. 1対1だとかなり難しいので、別のふたりのロールプレイを観察させてもらうようにするとよいでしょう。「I am not good at hearing in English, so please observe your role-play?」などと言うと、たいていの場合はわかってくれます。開始前に、講師にこういう事情だと説明しておいてもよいでしょう。
  3. 簡単な内容のロールプレイであれば、だいたい何とか参加できることも多いようです。
  4. どうしても、何をやってよいのかわからず、孤立してしまうこともあります。講師が助けにきてくれることもあります。しかし、どうにもならなければ、部屋を退席して、しばらくしてロールプレイが終わった頃にまた入室しても良いようです。ロールプレイは5~30分で終わり、また講義形式に戻ります。
  5. 時差ボケを最小限に留めて、ワークショップ中に眠くならないようにしておくとよいでしょう。
  6. 日本人の誰かといっしょに参加して、ロールプレイを日本人同士でおこなうといった手もあります。
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Q11. 以前にワークショップ参加した日本人は、どんな体験をしたでしょうか?
A11 2001年にサルコフスキスとバーチウッドが東京大学駒場キャンパスでおこなったワークショップについては、以下の本を参照。丹野義彦編『認知行動療法の臨床ワークショップ:サルコフスキスとバーチウッドの面接技法』(金子書房,2002年)
 また、日本人の体験者の報告として、丹野研のホームページをごらんください。
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