認知行動療法を学ぼう世界の大学と病院を歩く丹野研究室の紹介駒場の授業
home世界の大学と病院を歩く第1回アジア認知行動療法会議(香港中文大学)毛利伊吹 平成18年5月29日(月)~ 平成18年5月30日(火)

第1回アジア認知行動療法会議(香港中文大学)毛利伊吹 平成18年5月29日(月)~ 平成18年5月30日(火)

 アジアにおける認知行動療法への認知度の高まりと今後の普及拡大を感じさせる会議であった。参加者200人台と規模はさほど大きくないが、日本をはじめ各国で中心的な役割を果たしている顔触れがそろい、この会議への期待の高さとその重要性とが伺えた。
 今回、各国の現状を垣間見ることができたが、アジアにおいて今、最も認知行動療法が根付いているのは香港であろう。アジアに先んじて、認知行動療法はまず欧米で発展、浸透したが、香港はイギリスとの深い関係を背景に、アジアの他国に先駆けて普及してきた。香港における認知行動療法への需要の高さを裏付けるように、今回、インターネット上でアクセスできるプログラムを用いて、パニック障害の当事者が自分自身で認知行動療法を行うという研究が報告されていた。現在はまだ試験的な段階ではあるが、このような利用法を含め、心理臨床におけるインターネットの利用は今後も、多岐に渡って広がって行くことが予想される。また、香港の総合病院で勤務する臨床心理士の方から話を伺う機会があり、臨床心理士が精神科のみならず身体科の医師との連携においても中心的な働きを担っているということであった。日本では、糖尿病など身体的な疾患における心理的なケアの重要性が指摘されながらも、現時点では心理に理解のある看護士個々人の努力によって補われているのが現状であり、心理職が有効に関われていない。今後、日本の臨床心理士が他科との連携を行なうシステムを考えていく際に香港から学ぶ点は多いように思われた。
 一方、中国本土になると事情は大きく異なっている。中国では近年の社会や経済の劇的な変化が生じており、自殺や薬物依存といった問題がクローズアップされ、メンタルヘルスの重要性が高まり、認知行動療法の基本的なスキルの系統だった導入が求められている。
 韓国における、小児期や思春期に関わる認知行動療法の歴史を三期に分け、その略史が紹介された。まず1980年から1990年は第一期、認知行動療法の導入であり、1991年から2000年の第二期は、各種の心理的問題に対する認知行動療法プログラムの発展、そして、認知行動療法の専門家機関の設けられた2001年以降が第三期とされていた。韓国でも急速な社会変化に伴い、小児期や思春期における心理的問題が増加し、認知行動療法の発展が求められている。しかし、メンタルヘルスの問題を否定的に捉え、援助を求めたがらないという全般的な傾向があり、心理的健康への理解が一般に行き渡っているとはいえないようである。
 近年日本において、エビデンス、即ち、データに基づいた医療を重視する傾向は精神科領域でも例外ではなく、エビデンスを有した心理療法である認知行動療法に寄せられる期待は大きい。しかし現在は、それに応えられるだけの専門家の数が十分ではない。認知行動療法習得のための研修の場を求める声は強く、ここ数年、日本認知療法学会、日本行動療法学会の方々の努力もあり、その機会は増加しつつある。まずは、認知行動療法の専門家を養成する体制を早急に整えることが重要であろう。体制が整備されれば、日本も香港とともにアジアの認知行動療法をリードする役割を担う可能性があり、さらには、アジア各国より日本で認知行動療法を学ぶ人の流れも生まれることが期待される。
 今回、会議の合間にアジア各国、そして日本の先生方とも交流を深めることができ、こえも大きな収穫の一つであった。このような場で培われた人と人とのつながりが次の新しい流れへとつながって行く。再来年、タイで行われる第2回アジア認知行動療法会議では、その成果がまた見られることと思う。

ページのトップへ戻る