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◆2013ヨーロッパ認知行動療法学会(EABCT)マラケシュ 丹野義彦

1.どんな学会が、いつ、どこで開かれるか。
ヨーロッパ認知行動療法学会  European Association of Behavior and Cognitive Therapies (EABCT)
日時:2013年9月25日~28日
場所:モロッコ マラケシュ パルムレー・ゴルフ・パレス会議場


2.どんな領域の研究者が参加するか、どんな雰囲気の学会か
 ヨーロッパ行動認知療法学会EABCTは、ヨーロッパの38カ国から51の学会が加盟する傘団体である(2013年現在)。1976年にヨーロッパ行動療法学会(EABT)として創立され、1992年に、認知療法が加わって、ヨーロッパ行動認知療法学会(EABCT)と改称した。現在、加盟者数は25,000名に達する。
 毎年9月にヨーロッパ各地で大会が開かれる。モロッコは、ヨーロッパではないが、地中海をはさんですぐ対岸にあり、フランスとの関係も深いので、大会が開かれたようである。ヨーロッパ認知行動療法学会がヨーロッパ以外で開かれるのは初めてである。
 今回のEABCTは、モロッコ認知行動療法学会(Moroccan Association of Cognitive and Behaviour Therapy)が主催した。モロッコの公用語は、アラビア語であるが、昔フランス領だった影響で、フランス語が使われている。フランス語で、認知行動療法はTCC(Thérapie Comportementale et Cognitive)という。モロッコ認知行動療法学会は、フランス語ではAMTCC(Association Marocaine de thérapie comportementale et cognitive)となる。この学会は2001年に創設された。本部は、モロッコのエルラシディアという都市にある。
 この大会がイスラム教の国で開かれるのは、2001年のトルコ・イスタンブール大会に続いて2回目である。このことは、イスラム教圏の国々にも認知行動療法が普及していることを示している。
 丹野は2011年にトルコのイスタンブールで開かれた国際認知療法会議に出席して、トルコやイランなどのイスラム教の国々で認知行動療法がさかんになっていることを知った。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降、アメリカや西欧のものは、グローバリズムの産物として、イスラム圏から拒否されているのではないかという懸念があり、アメリカやイギリスで発展した認知行動療法も、イスラム圏では受け入れられていないのではないかと思っていた。しかし、トルコでイスラム圏の人々が熱心に認知行動療法を研究しているのを見て、目からうろこが落ちる思いをした。よく「認知行動療法は、西欧で生まれたので、西欧人には効果があるが、日本人には効果がない」という説をまことしやかに説く人がいる。しかし、このような文化相対主義は成り立たない。というのは、認知行動療法はアジアでも大きな効果があるからである。認知行動療法は、文字通りグローバル性をもつ。アメリカやイギリスなどの英語圏だけのものではない。
今回のモロッコのEABCTでも現地の大学関係者が多く参加していた。現地の人のためには、英語だけでなく、フランス語での発表も認められていた。フランス語のセッションへ行ってみたが、イスラム教のスカーフをした女性が多く参加して熱心に聞いていた。
 プログラムには「現モハメッドⅥ世の援助によって開かれた」と書かれており、国家レベルで認知行動療法への後押しがあることがわかる。

3.学会の規模はどれくらいか。 何人くらい参加するか。
 この大会では、60ヵ国から1250名の事前登録者があったと発表された。例年より多い。
 会場はパルムレー・ホテル&リゾートという高級リゾート施設である。広大な敷地の中にホテルやプールやゴルフ場がある。中にパレ・ドゥ・コングレという会議場があり、ここで大会が開かれた。マラケシュの中心部から車で20分ほど離れている。このホテルにカンヅメになって、学会に参加する。参加者には参加証明書が発行される。
 大会の1週間前に洪水があって、ホテルが1メートルの床上浸水となり、その後始末の最中であるとアナウンスに書いてあった。こんな砂漠の地で、洪水があったとは信じられない。
 昼食はゴルフ・パレス・ホテルのプールサイドで食べる。豪華なプールではホテルの客たちが水着で日向ぼっこをしていた。参加者が多いため、リボンの色で4つの会場に強制的に分散させられた。昼食代は参加費に含まれており、食べ放題でおいしかった。期間中のコーヒーやジュースなども飲み放題で、ホテルの給仕がついた。「現モハメッドⅥ世の援助によって開かれた」ということなので、相当な援助があるのだろう。
 普通の会議場だが、奥のほうには大きな丸いテントがあり、そのテントの中でもシンポジウムが開かれていた。シンポジストも驚いたにちがいない。

4.どんな学術プログラムがあるか。

 この学会の発表数は、一日ワークショップ11本、大会中のワークショップ32本、招待講演24本、シンポジウム92本、ポスター223本であった。例年よりもかなり多い。
 初日(25日)は、臨床ワークショップの日である。11本の8時間ワークショップが開かれた。講師はヨーロッパとアメリカの第一線の認知行動療法家である。イギリス4名、アメリカとオランダが各2名、フランス、ドイツ。オーストラリアが各1名である。

5.有名な研究者でどんな人が参加するか。
 サルコフスキス、ジュディス・ベックなどの大御所が参加していた。
 初日は、以下の11本の8時間ワークショップが開かれた。ヨーロッパとアメリカから第一線の認知行動療法家を招いて、本格的なワークショップをおこなっている。これらの講師は、ほとんど招待講演をおこなっていた。
1)アーノルド・アーンツ Imagery Rescripting for Trauma Related Problems
2)ジュディス・ベック Cognitive Therapy for Depression
3)マーク・フリーストン CBT for Complex Cases: Looking for Patterns and Developing Treatmentguiding Hypotheses
4)ロバート・リーヒー Emotional Schema Therapy
5)J・マーグラフ Exposure Therapy: Many Ways to do it Wrong, but Some to do it Right
6)ロン・ラピー The Nature and Treatment of Anxiety Disorders Among Children and Adolescents
7)ポール・サルコフスキス Helping People to Choose to Change: Focused CBT for Obsessional Problems
8)U・シュミット Maudsley Model of Anorexia Nervosa Treatment for Adults (MANTRA): Clinical Outcomes for Anorexia and its Application to other Eating Disorders
9)マーク・ヴァン・デル・ガーグ Developments in CBT for Psychosis
10)ポール・ギルバート An Introduction to Compassion Focused Therapy
11)ジャン・コットロー Thérapie Cognitive des Troubles de la Personnalité

6.日本から誰が参加していたか。
 日本からは約10名の参加者があった。丹野研では、丹野の他に、西口雄基君と森正樹君が参加して、ポスター発表をした。丹野研からの発表は下記の通りである。
Generalization of The Effect of Attentional Bias Modification.
Yuki Nishiguchi, The University of Tokyo, Japan.
The Roles of State-Like Self-Focus to Depressed Mood and Problem Solving.
Masaki Mori, The University of Tokyo, Japan.
 千葉大学から5件ほどの発表があり、他に宮崎大学の立元真先生など5件くらいの発表があった。
 千葉大学の小堀修氏は、「Interpersonal Checking As a Component of OCD and Anxiety: Understanding the Function of Assurance, Reassurance and Support」というシンポジウムのオーガナイザーをつとめていた。シンポジウムを聞きに行ったが、司会はサルコフスキス(バース大学)で、指定討論者はマーク・フリーストン(ニューカースル大学)という大物だった。小堀氏の発表は、Carer’s Perception of and Reaction to Reassurance Seeking in Obsessive Compulsive Disorderというタイトルで、OCDの患者と養護者の認知についてのものであった。

7.発表申し込みの〆切はいつか、大会参加費はいくらか。
 ポスター発表などのアブストラクトの〆切は 2013年3月3日である。
 参加費は、会員が600ユーロ、非会員が675ユーロ、学生会員が380ユーロである。

8.これまでの開催地と次回の開催地はどこか。
 EABCTについては、2002年のマーストリヒト大会から初めて参加して以来、5回目の参加である(2006年のパリ大会、2007年のバルセロナ大会、2008年のヘルシンキ大会)。毎回、ヨーロッパの知人と再会できるのはうれしいことである。
 この学会の最近の開催地は以下の通りである。
2001年 トルコのイスタンブール
2002年 オランダのマーストリヒト
2003年 チェコのプラハ 
2004年 イギリスのマンチェスター(BABCPとの共同開催)
2005年 ギリシアのテッサロニキ
2006年 フランスのパリ
2007年 スペインのバルセロナ(WCBCTと共同開催)
2008年 フィンランドのヘルシンキ(2008年9月10-13日)
2009年 クロアチアのドゥブロヴニク(2009年9月16-19日)
2010年 イタリアのミラノ(2010年10月7-10日)
2011年 アイスランドのレイキャビク (2011年8月31日-9月3日)
2012年 スイスのジュネーブ (2012年8月29日-9月1日)
2013年 モロッコのマラケシュ (2013年9月25日-28日)
2014年 オランダのハーグ(2013年9月10日-13日)の予定
 日本人の参加者は、丹野の知る限りでいうと、マーストリヒト大会(2002年)では3名,プラハ大会(2003年)では10名、マンチェスター大会(2004年)では15名、テッサロニキ大会(2005年)では12名(うち丹野研から8名参加)、パリ大会(2006年)では7名、バルセロナ大会(2007年)では150名、ヘルシンキ大会(2008年)では11名、マラケシュ大会(2013年)では10名である。

9.学会や大学や旅行で気がついたこと、その他
マラケシュに日本から行くのは少し苦労する。飛行機の乗り換えが1回では行けないからである。私はまず成田からパリのド・ゴール空港に飛び、その日はパリに1泊し、翌朝パリのオルリー空港からマラケシュに入った。行くだけで1日半かかってしまう。それでも日本から10名ほどの参加者があったのはすばらしいことである。

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