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WCBCT2004 神戸大会

神戸のWCBCT(世界行動療法認知療法学会)は大成功に終わりました
WCBCT2004(世界行動療法認知療法学会)神戸大会
丹野義彦(東京大学総合文化研究科)
2004年9月3日

 2004年7月20日(火)~24日(土) に、神戸国際会議場において、世界認知行動療法学会(WCBCT)が開かれました。丹野研究室ではこの大会を全面的にバックアップしました。そこでこの大会のことについて、記録に残しておきます。このページは、丹野研究室(東京大学総合文化研究科)のスタッフの総力をあげて作成しました。

丹野義彦、森脇愛子,佐々木淳,山崎修道,小堀修,伊藤由美,荒川裕美,佐藤香織,宮田ゆかり,高橋雄介、関口陽介

1.世界の中心でCBTを叫ぶ

a.1400名の参加者と500件の発表

 7月20日から神戸で開かれた世界行動療法認知療法会議(WCBCT2004)は、約1400名の参加者を得て、成功裡に終わりました。講演30本、ワークショップ30本、シンポジウム30本(発表論文数約150)、口頭発表70本、ポスター発表約200本など、発表の総数は500件近くにのぼりました。

 これまで日本で開かれた心理学関係の国際学会において、今回のWCBCT は、1972年の国際心理学会議(参加者約2500名)と1990年の国際応用心理学会議(参加者約2500名)につぐ3番目に大規模な国際学会でした(『日本心理学会75年史』による)。精神医学関係の国際学会ではもっと大規模なものもあるかもしれませんが、いずれにしても大規模な国際学会であったといえるでしょう。招聘委員会委員長の丹羽真一先生(福島県立医科大学教授)、プログラム委員会委員長の坂野雄二先生(北海道医療大学教授)、大会副組織委員長の大野裕先生(慶應義塾大学教授)、松見淳子先生(関西学院大学教授)をはじめとして、多くの先生方が中心になってご活躍されました。

b.バンクーバーから神戸へ

 丹野がWCBCTに最初に参加したのは、2001年のバンクーバー大会でした。この時は、丹野は初めてワークショップに参加したり、デイビッド・クラークの基調講演を聞いたり、ベックと写真をとったりと、感動の日々でした。「実証にもとづく臨床心理学」や「科学者-実践家モデル」ということが当然のこととして語られていました。丹野にとっては、この大会からすべてが始まりました。神戸大会ではぜひ活躍したいと思いました。

 その後、幸いにも、神戸大会の招聘委員会に入り、プログラム委員として仕事をさせていただく機会を得ました。そこで望んだことは、ワークショップへの日本人参加者を増やしたいこと、シンポジウムを活発化させて、日本の臨床心理学研究のレベルを引き上げたいことなどでした。シンポジウムは、バンクーバー大会では100本以上開かれましたが、神戸大会では最初に申請があったのは14本にすぎず、非常に焦りました。プログラム委員会として、何とかシンポジウムの企画を増やすために奔走し、何とか30本までこぎつけました。それでも、これまでの大会に比べるとシンポジウム数は少なく、これは大きな反省点として残ります。

 本大会では、前回のバンクーバー大会では開かれなかったプログラムを作るなど、いろいろな工夫もありました。ランチョンセミナー、教育セッション、オーラル・セッション、公開講座などです。とくに、公開講座は、佐々木和義先生(兵庫教育大学教授)が企画したものであり、自閉症、ADHD、学習障害といった発達障害への心理的・教育的支援をテーマとして、たいへんわかりやすい有意義な講演会でした。神戸市民など500人もの聴衆が集まり、WCBCTの成果を地元に還元する良い機会となりました。

c.丹野研で発行した日替わりニューズレター

 丹野研究室では、ミニメディアである「日替わりニューズレター」(英語版と日本語版)を発行しました。その目的は以下のようなものでした。

①大会を盛り上げるためのミニメディアとして。これまでの大会では、大会を盛り上げるために、ミニ・メディアが発行された大会もあったようです。そこで、本大会でも、社交イベントなどの情報を満載したミニ新聞を作ろうと思いました。このため、英語版と日本語版を1日1号ずつ、計10号発行することにしました。

②認知行動療法はまだ日本には定着していませんので、今回来日する臨床家の顔ぶれがどれだけすごい人たちであるか、ピンとこない方もいらっしゃったのではないかと思います。そこで、来日する臨床家のプロフィルや業績の内容を紹介しようと思いました。臨床家の写真もできるだけ集めて、親しみを持っていただけるようにしました。

③日本に認知行動療法が定着するためには、マスメディアの力を借りることも必要です。そこで、プレス・リリースを発行したりしましたが、マスメディア関係者の方に、来日する臨床家についてよく知っていただくためにも、ミニ・メディアを発行することにいたしました。

 このような目的のため、丹野研のスタッフが全力を投入して、情報収集と制作に当たりました。神戸にパソコンやプリンターやデジカメを持ち込んで苦労して作りました。幸い、「日替わりニューズレター」は参加者から好意的に迎えられ、多くの方から励ましの言葉をいただきました。多少は上のような目的を達することができたのではないかと思います。

d.神戸からバルセロナへ

 丹野が神戸大会で望んだことはもうひとつあります。丹野がバンクーバーで味わった国際学会の感動を、ぜひ日本の若手にも味わわせたいということでした。

 この望みは、ある程度実現したように思います。神戸大会は大学院学生の参加者が4割を占めました。野心のある若手臨床家の目を世界の行動療法・認知療法の最前線に向けたことは確かだと思われます。杉浦義典先生や伊藤義徳先生など、若手の先生が企画したシンポジウムも出てきました。若い人たちの感想を聞くと、「世界の最先端の仕事に接して、毎日感動の連続だった。これからの方向性がわかった。やる気がわいてきた」という感想が多く聞かれました。将来を考えると、たいへん心強いことです。

 こうした神戸の成功を、ぜひ2007年のバルセロナ大会につなげたいものです。日本の臨床心理学は、これまでは、欧米の行動療法・認知療法を取り入れるだけの受信型でしたが、これからは日本独自の方法を世界に発信していく必要があります。こうした転換のために大きな力となるのは,国際学会を日本で開くことです。その意味で、今回のWCBCTは大きな転換点になったのではないかと思います。国際学会を日本で開くということは、本当に大変なことです。招聘委員会委員長の丹羽真一先生や、プログラム委員会委員長の坂野雄二先生のお仕事などを拝見していますと、大変さは想像に絶するものがあります。それだけに、その収穫も非常に大きいものがあります。

 次回の2007年バルセロナ大会では、WCBCTのリピーターを増やし、日本から100人規模の参加者を期待したいものです。WCBCTだけでなく、AABTやBABCPやEABCTなどの毎年の国際学会にもどんどん参加していただきたいものです。この目的のために、丹野研のホームページに「バルセロナで認知行動療法を学ぼう」のコーナーを設けましたので、ごらん下さい。

e.バルセロナまでに達成させたいこと(バルセロナまではこうなっているだろう)

2007年のバルセロナ大会までに実現したい達成目標を考えてみました。

3年後にふりかえって、どのくらいの予言が達成されていることでしょうか。

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2. 画期的だったワークショップ.

a.30本のワークショップのインパクト

 本大会が最も力を入れたのは「ワークショップ」です。幸い、世界の著名な臨床家が、多数来日して、30本のワークショップを開いていただきました。日本からも、古川壽亮先生と原井宏明先生がワークショップを開いていただきました。これまで単発の国際ワークショップは開かれていましたが、30本もの国際ワークショップがわが国で開かれるのは初めてのことです。今回のワークショップには、のべ2000人の参加者がありました。学会の参加者は1400名ですから、ひとり1.4本のワークショップに参加したことになります。のべ2000人の日本の臨床家が、一度に世界の行動療法・認知療法の最先端に触れる機会を持ったわけです。これは画期的なことであり、このような機会は今後ほとんどないといえるでしょう。これだけの参加者数でしたので、すべての参加者を満足させたとは言えないかもしれませんが、少なくとも、日本の行動療法・認知療法をレベルアップさせたことは確かだと思われます。

b.ワークショップを支えた担当委員の先生方の人知れぬ努力

 ワークショップの成功を支えたのは、担当委員の先生方の人知れぬ努力だといえます。ワークショップを開くに当たって、最も心配したことは「英語の壁」でした。英語の話し言葉は、日本人にはほとんど理解困難です。このような困難を乗りこえて、日本の臨床家が英語のワークショップに参加してくださるだろうかと心配しました。しかも、日本からのワークショップ参加者を増やすことは、財政的にもみても大切なことでした。そこで、プログラム委員会では、それぞれのワークショップに担当委員(ファシリテーター)をお願いすることにしました。担当委員の仕事は、スライドや配付資料の翻訳、通訳の手配、講師との連絡や接待など、多岐にわたりました。報酬はゼロです。このような、割に合わないお仕事を先生方にお引き受けいただけるだろうかと、プログラム委員会ではたいへん心配いたしました。

 ところが、担当委員の先生方は、お仕事を非常に熱心におこなってくださいました。筆者は、いろいろなワークショップの会場を覗いて回りましたが、担当委員の先生方が非常に張り切って仕事をしているさまを拝見して、大きな感動が湧いてくるのを禁じ得ませんでした。先生方のお話をうかがうと、「講師がスライドを送ってきたのがワークショップの2日前のことで、その翻訳を徹夜で仕上げた」とか、「いろいろな仕事にかかったコストは担当委員の持ち出しになった」とか、たいへんなご苦労をされていました。担当委員の先生方の心には、ただ、日本に行動療法・認知療法を普及させたい、日本の臨床のレベルを高めたいという使命感だけがあったのではないでしょうか。ワークショップの成功を支えたのは、担当委員の先生方の人知れぬ努力だといえます。このことはぜひとも言っておきたいことです。

 さらに、ワークショップの責任者であった松見淳子先生(関西学院大学教授)のご活躍や、多くの通訳ボランティアの方々の活動も、ワークショップの成功を支えました。諸先生方がこれからのリーダーとなり、必ずや認知行動療法は日本に定着するだろうと確信いたしました。また、こうしたご苦労の賜であるワークショップの成果は、何とか記録して出版したいものです。

c.丹野研でワークショップの情報を集めてみました

 丹野は、認知行動療法の普及においてワークショップが高い効果をあげることに注目し、欧米の認知行動療法のワークショップを日本に紹介することに力を入れてきました。その成果は、以下の文献に詳述してあります。

丹野義彦(編)
認知行動療法の臨床ワークショップ-サルコフスキスとバーチウッドの面接技法
金子書房.2002

丹野義彦
ワイクスによる認知リハビリテーション療法のワークショップ:日本認知療法学会の研修会の試み
認知療法News, 28, 1-4. 2004.

丹野義彦・坂野雄二・長谷川寿一・熊野宏昭・久保木冨房(編)
認知行動療法の臨床ワークショップ2-アーサー & クリスティン・ネズとガレティの面接技法
金子書房.2004

 本大会では、世界的な臨床家の30本のワークショップが聞けるという画期的な機会を利用して、丹野研究室では、総動員でワークショップに参加し、手分けして情報を収集してみました。30本のうち、6割にあたる19本のワークショップに参加することができました。一部のワークショップについては、2人以上が参加することができました。そして、所定の評価項目を用いて、丹野研メンバーが手分けしてワークショップの評定をおこないました。

d.これがワークショップのベスト4

 その結果、ワークショップの全体評価において、特にすばらしいというの評価を受けたのは、リバーマン、パーソンズ、ネズ夫妻、コークの4つのワークショップでした。

 リバーマンのワークショップは、とにかくわかりやすく、エクササイズの入れ方も絶妙でした。この人のワークショップは定評があり、「リーバーマニア」というファンがたくさんいるそうです(池淵先生談)。担当委員は池淵恵美先生(帝京大学医学部教授)でした。

 パーソンズは、アメリカでパデスキーと並んで、認知療法の研修やワークショップでは定評があります。今回のワークショップも、内容的にも実用的な方法を述べており、例も適切で, 図もわかりやすいものでした。ジョークがよく入って飽きさせず、すばらしいワークショップでした。担当委員は田中共子先生(岡山大学)でした。

 アーサーとクリスティンのネズ夫妻も、ワークショップには定評がありますが、今回は、内容的にも、西洋的なものと東洋的なものを融合させて、新しい技法について述べていました。プレゼンテーションもわかりやすいものでした。担当委員は坂野雄二先生(北海道医療大学)でした。

 コークもすでに何冊も邦訳があり、世界的に知られた臨床家です。スライドやビデオなどが非常によく作られていて、わかりやすいものでした。担当委員は市井雅哉先生(兵庫教育大学)でした。

 他にも、高い評価を得ていたのは、タリア、ドブソン、ミューザー、ピーターズ、ターピン、フォアなどでした。以上の臨床家・研究者は、いずれも世界的な知名度が高い方々です。世界的に著名な人は、これまで多くのワークショップを手がけており、ワークショップにも慣れているためでしょう。ワークショップ評価の詳しい結果については、駒場心理臨床相談室の紀要に発表いたしました。

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3. 世界行動療法認知療法会議とは.

(WCBCT:World Congress of Behavioral and Cognitive Therapies)

 この学会は、3年に一度開かれる行動療法・認知療法の国際学会です。1979年から開かれてきた世界行動療法会議と、1983年から開かれてきた国際認知療法学会(後述)が、1995年から合体して開かれるようになったものです。図に示すように、第1回は、1995年にコペンハーゲン(デンマーク)で開かれました。第2回は1998年にアカプルコ(メキシコ)で,第3回は2001年にバンクーバー(カナダ)で開かれました。第4回は2004年に神戸(日本)で開かれました。第5回は2007年にバルセロナ(スペイン)で開かれることになっています。

 毎回、世界の50カ国から2000名の参加者があります。日本人の参加者も多く、第1回(コペンハーゲン)は240名、第2回(アカプルコ)は180名,第3回(バンクーバー)は260名の日本人が参加しました。第4回の神戸大会では1200人の日本人参加者がありました。

 丹野は、2001年のバンクーバー大会から参加しました。この大会には、アーロン・ベックをはじめとして,ドナルド・マイケンバウム,ジャック・ラックマン、D・M・クラーク,ポール・サルコフスキスなど、この領域の指導的な臨床家・研究者が多く参加していました。筆者は、ポスター発表をしましたが、連日充実したシンポジウム、ワークショップ、研究発表が展開され、大いに刺激されました。一般に、講演やシンポジウムは実証にもとづくアプローチ(エビデンス・ベーストなアプローチ)ということが基本になっています。シンポジウムやワークショップを領域別に分けると、うつ病(24件)、子ども関係(23件),不安(22件),PTSD(16件),強迫性障害(13件),統合失調症(8件),対人恐怖・対人不安(7件),人格障害(7件),摂食障害(6件)といった順でした。とくに急成長しているのは,対人恐怖の領域でした。中でも、D.M.クラークの「対人恐怖とPTSD」と題する基調講演は、内容からみても、プレゼンテーションからみても、筆者がこれまで聞いた講演の中で最も完璧なものでした。講演が終わっても拍手が1分くらい鳴りやまず,誰もすぐに席を立とうとしませんでした。

 丹野は、2001年のWCBCTのバンクーバー大会で、初めてワークショップに出てみて,その質の高さとわかりやすさに驚きました。参加したのは、マンチェスター大学のエイドリアン・ウェルズの「全般性不安障害への認知行動療法」というワークショップです。ウェルズは、不安障害の認知行動療法の理論家として世界に知られ,その著書『心理臨床の認知心理学』は邦訳もあります(Wells & Mathews, 1994; 箱田・津田・丹野監訳)。参加費は、半日ワークショップで60カナダドル(1万円),全日ワークショップで120カナダドル(約2万円)でした。ワークショップでは、アセスメントの仕方,技法の使い方,注意点などが具体的に語られました。参加者の顔をひとりずつ見ながら、ゆっくりと話し、質問をなるべく多く出すようにしていました。参加者ひとりひとりに気を使っていることがよくわかりました。OHPや配付資料もすべてわかりやすく書かれていました。準備に膨大な時間を使い,参加者の立場で資料を作っていました。ビデオを使って事例を提示し、ウェルズ自身が認知行動療法をおこなう過程が公開されていました。ウェルズは、理論家として世界に知られているのですが,臨床家としても一流であることがよくわかりました。明日からでもこの技法を臨床で使えるという気にさせてくれました。それほどよくできていました。このワークショップは、筆者が日本にワークショップを紹介する活動をはじめた原点ともいうべき体験でした。

 ひとつ大きな失敗をしました。ワークショップの途中で、全般性不安障害のアセスメントを実習するロールプレイがありました。筆者は、この日カナダに着いたばかりで、時差ボケがひどく,英語を聞きながらつい居眠りをしてしまいました(こうした時差ボケの問題も「距離の壁」のひとつです)。急にガヤガヤしたので何事かと思ったら,ロールプレイが始まっていました。周りの人はすべてペアを組んでいたので,筆者は孤立してしまい,しかも周りは日本語が通じないという状況です。狭い部屋で、外に抜け出すこともできません。ロールプレイは15分くらいで終わりましたが、筆者には1時間も孤立してしまったように感じられました。この時の焦燥感は今でも覚えています。こうした体験から、筆者は自分なりの「ワークショップ参加ノウハウ集」を作るようになりました。それが蓄積したものが、「ワークショップ参加マニュアル」です。

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4.来日した外国の臨床家・研究者の情報.

 神戸大会には、世界中から有名な臨床家・研究者が集まりました。おもな人について、その業績と参加プログラムについて情報をまとめました。

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うつ病の臨床に関係した領域

1.アーサー・ネズとクリスティン・ネズ  Arthur Nezu & Christine Nezu

アーサー・ネズクリスティン・ネズ アーサー・ネズとクリスティン・ネズは、うつ病などの問題解決療法で著名である。

 アメリカの認知行動療法の世界で、アーサーとクリスティンのネズ夫妻は、おしどり夫婦としてよく知られている。アメリカの行動療法促進学会(AABT)が作成した認知行動療法のビデオ・シリーズでは、毎回、最初にネズ夫妻が登場し、内容を紹介する。

 アーサー・ネズ(Arthur Nezu)は、ドレクセル大学心理学科および医学部教授である。アメリカのニューヨークで生まれた日系二世である。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で臨床心理学の学位を取得した。うつ病、がん患者、心疾患患者、肥満などに対する問題解決療法について世界的な業績がある。20冊以上の著書と150編以上の論文を発表している。1999年~2000年にかけて、アメリカ行動療法促進学会(AABT)の会長をつとめた。今回の神戸大会では、運営委員会委員長をつとめた。邦訳書には、『うつ病の問題解決療法』(高山巌訳、岩崎学術出版社)がある。

 クリスティン・ネズ(Christine Nezu)は、ドレクセル大学の心理学教授および医学部助教授。ドレクセル大学行動医学センターのディレクターもつとめる。フェアリーディキンソン大学で学位を取得した。性的暴力の被害者の研究や問題解決療法について、世界的な業績がある。14冊以上の著書と60編以上の論文を発表している。心理学関係や行動医学関係の雑誌の編集者もつとめる。邦訳書には、『うつ病の問題解決療法』(高山巌訳、岩崎学術出版社)がある。

 ネズ夫妻は、2002年10月に,東京大学で開かれた日本行動療法学会の招きで来日し、講演とワークショップをおこなった。ふたりの講演は、「行動療法研究」の第29巻第1号に掲載されている。また、ワークショップの模様は、『認知行動療法ワークショップ2』として、金子書房から出版された。ネズ夫妻の業績の内容については、この本の第2章「ネズ夫妻はどのような臨床研究をおこなってきたか」に詳しく述べられている(大澤・金井・坂野)。坂野雄二先生(北海道医療大学)は、以前、フィラデルフィアのネズ先生の元に留学していたそうである。

 今回のワークショップでは、ネズ夫妻が考え出した「スピリチュアリティに導かれた行動療法」について解説した。東洋の考え方を取り入れた新しい治療技法であり、ワークショップ参加者に強い感銘を与えた。今回のワークショップは、全く別の角度から開発した新しい療法であり、日本の多くの臨床家が興味を持つだろう。


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2.ジャクリーヌ・パーソンズ Jacqueline B. Persons

ジャクリーヌ・パーソンズジャクリーヌ・パーソンズは、アメリカの認知行動療法の臨床家の第一人者であり、うつ病などへのケース・フォーミュレーション(事例定式化)アプローチで有名である。

 1972年にシカゴ大学で人類学士をとり、1979年にペンシルバニア大学で臨床心理学の博士号を取った。アーロン・ベックに認知療法を学び、デイビッド・バーンズにスーパービジョンを受けた。その後、テンプル大学で、ウォルピとエドナ・フォアの指導を受けた。現在、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の精神医学部臨床助教授として、臨床心理士と精神科インターンの指導に当たり、抑うつの認知プロセスの研究をおこなっている。臨床家として、うつ病や不安障害を中心として、15年以上の臨床実践を展開している。現在、サンフランシスコ湾岸認知療法センター(San Francisco Bay Area Center for Cognitive Therapy)のセンター長をつとめ、実践を続けている。

 パーソンズは、ケース・フォーミュレーション(事例定式化)のアプローチという独自の臨床技法を開発した。これについて多くの著書や論文を著しており、とくに、『実践的認知療法:事例定式化アプローチ』(大野裕監訳、金剛出版)は、アメリカでも臨床家の基本テキストとして定評がある。2003年には、AABT(アメリカ行動療法促進学会)の会長をつとめ、昨年ボストンで開かれたAABTの大会では、ケース・フォーミュレーション・アプローチについて、ユーモアあふれる会長講演をおこなった。神戸大会でも、このケース・フォーミュレーション(事例定式化)について、講演とワークショップを開いた。パーソンズは、パデスキーと並んで、「認知療法の研修のプロ」ともいうべき人であり、今回のワークショップでは、親しみやすく繊細な人柄が非常に好評であった。

 パーソンズが、実際に社会恐怖のクライエントを相手にして、ケース・フォーミュレーションや治療をおこなうところは、ビデオで公開されている。アメリカ心理学会の心理療法ビデオ・シリーズ日本語版(S・マーフィ重松・岩壁茂 監修)の心理療法システム編第6巻に収録された「認知行動療法」というビデオである(日本心理療法研究所刊)。このビデオでは、実際の治療をもとに、役者がクライエントの役割を演じ、パーソンズがふだんのままの姿でセッションに臨んでいる。

 また、アメリカ心理学会の心理療法ビデオ・シリーズとして、「うつ病治療のための認知行動療法」というビデオが作られている。これは、パーソンズと、サンフランシスコ湾岸認知療法センターの同僚のデイヴィッドソンやトンプキンス(いずれもカリフォルニア大学バークレー校の助教授)が制作したものである。今回、パーソンズが来日するのに合わせて、大野裕先生をはじめとする慶應認知行動療法研究会が、日本語版を作り、DVD5枚組として発売することになった(大野裕監修、日本心理療法研究所刊)。このDVDでは、認知行動療法の基本について、面接場面をおりまぜながら、ていねいに解説されている。生きた認知行動療法を身につけようとするためにはお勧めの教材である。


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3.キース・ドブソン Keith S. Dobson

キース・ドブソンドブソンは、うつ病の認知理論や認知行動療法の第一線の研究者である。

 カナダのカルガリー大学心理学部臨床心理学研究室教授である.専門は臨床心理学,精神病理学における認知行動モデル,認知療法,セラピストのプロフェショナリズムの問題などである.1980年代初頭から現在に至るまで,精力的に研究を行っており,80編以上の論文,5冊以上の著書を発表している.

 研究分野は大きく2つに分けられる.1つめは,様々な精神病理学的症状と認知の領域について研究である.とくに抑うつについて多くの研究成果を出している.この分野では,抑うつの認知の測定,抑うつの発生における認知とライフイベントの相互作用,抑うつと不安の弁別が可能な測定ツールの性能,抑うつに関連した認知の安定的側面と不安定的側面の記述といったトピックについて研究を行っている.2つめは,認知モデルの治療的妥当性についての研究である.抑うつの認知療法や,認知療法における訓練や治療プロセスについての研究を通じて,認知モデルの治療的妥当性について検討している.

 ドブソンの人柄は温厚で、親しみやすく、ワークショップの内容も親切でわかりやすく、今回の大会のワークショップ講師の中でも人気があった。

著書は「認知行動療法ハンドブック(1988年)」,「不安と抑うつの予防-療法,研究と実践(ドゾイスと共著,2004年)」などがある.(邦訳はない)

ドブソン教授のホームページは http://www.psych.ucalgary.ca/people/bio.php?id=ksdobson

写真はホームページから引用


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4.ズン-スル・キム Zoung-Soul Kim

ズン-スル・キム ズン-スル・キム(Zoung-Soul Kim)は、韓国のソウル国立大学の神経精神医学部の名誉教授である。1970年にカトリック大学(Catholoi University)で博士号を取得し、臨床面では、ミネソタ大学において、臨床心理学的なトレーニングを受けた。カトリック大学病院の助教授(1965年~1974年)をへて、ソウル国立大学の教授(1979年~2003年)となり、2003年に定年退官しソウル国立大学の名誉教授となった。

 これまで、MMPI-168などの研究を行ない、臨床的な症状、診断などの点から、Minnesota MultiphasicPersonality(MMPI)の簡易版も作成した。研究領域としては、抑うつの認知療法や心理学的査定などがあげられる。また、認知行動療法を受けた後、クライエントのロールシャッハ反応がどのように変化するのかを調べる研究をしている。近年では、認知―行動的アプローチを通じた夫婦間の不和や葛藤の解決などに興味を持っている。代表的な著書には、1988年に刊行されたMinnesota Multiphasic Personality Inventory(MMPI)(Seoul National University Press),1992年に刊行されたMeaning of Love(Seoul National University Press)、2003年のClinical Psychology Case Book(Seoul National University Press)がある。

 今回の基調講演では、仏教と認知行動療法をテーマに話される。
 大学の精神医学教室のホームページに、他の先生方と一緒にキムの紹介が記載されている。
 http://medicine.snu.ac.kr/engmed/departments/np.html


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5.シモン・ピーター・ニューマー Simon-Peter Neumer

 シモン・ピーター・ニューマー(Simon-Peter Neumer)は、ノルウェーのオスロにある児童・思春期精神医学センターの上級研究員をしている。

 1965年にドイツで生まれ、ベルリン自由大学で心理学の博士号をとり、ドレスデン大学の研究員をつとめた。2002年からオスロの児童・思春期精神医学センターの上級研究員をしている。国際学会でのワークショップ講師の経験も多い。


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不安障害に関係した領域

6.デイビッド・バーロウ(David Barlow)

デイビッド・バーロウ デイビッド・バーロウは、現代の臨床心理学や行動療法のリーダー的存在である。パニック障害の認知行動療法の研究で有名である。

 1969年にバーモント大学でPh.Dをとった。ミシシッピ大学、ブラウン大学、ニューヨーク州立大学の教授を経て、現在は、ボストン大学の教授である。不安障害の認知行動療法で有名である。これまで、400本の論文と20冊の著書がある。邦訳された『恐慌性障害-その治療の実際』(バーローとサーニー著、上里一郎監訳、金剛出版)には、パニック障害に対する認知行動療法の技法が詳しく述べられている。ほかに、邦訳された著書としては、『一事例の実験デザイン』(バーローとハーセン著、高木・佐久間監訳、二瓶社)がある。

1978年からAABT(アメリカ行動療法促進学会)の会長を務めた。昨年、ボストンで開かれたAABTでも活躍していた。これまでに数々の心理学関係の賞を受けている。

 デイビッド・バーロウは、エビデンス・ベースの臨床心理学を代表する研究者である。1993年にアメリカ心理学会の第12部会(臨床心理学部会)が作成した心理学的治療のガイドラインは有名であるが、このタスクフォースの座長をしたのがバーロウである。1980年頃から心理学的治療法の効果を確かめる対照試験が非常に多くなり,それを集約するため,第12部会は、デイビッド・バーロウを座長とするタスクフォースを組織した。このタスクフォースは1993年に「十分に確立された治療」18種と「おそらく効果がある治療」7種を選び出した。このガイドラインは大きな反響を呼び、多くの雑誌で特集が組まれた。その後、このタスクフォースは活動を続け、1998年には、アップデートされた。この版では「おそらく効果がある治療」は55種に増えている。このガイドラインを転換点として、アメリカの臨床心理学は、科学的な志向を急速に強めていくことになるのである。

 臨床家として、バーロウは、ボストン大学の付属施設である不安障害関連センター(Center for Anxiety and Related Disorders; CARDと略される)の主任をつとめている。この施設は、不安障害の心理学的治療の施設であり、年間350人ほどの大人と125名ほどの子どもが治療に訪れるという。臨床心理士は7名おり、臨床心理士の訓練施設にもなっている。認知行動療法が中心で、だいたい12週間のプログラムをおこなうという。

ホームページは http://www.bu.edu/anxiety/

 デイビッド・バーロウは、パニック障害の認知行動療法のRCT(無作為割付対照試験)の研究で有名であるが、その研究の一部はこの施設でおこなわれた。


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7.ポール・サルコフスキス(Paul Salkovskis)

ポール・サルコフスキス ポール・サルコフスキス(Paul Salkovskis)は,イギリスの認知行動療法を代表する臨床心理学者である。強迫性障害や健康不安の認知行動療法で有名である。

 サルコフスキスは、1956年にスコットランドのエディンバラで生まれ、ロンドン大学精神医学研究所でラックマンのもとでPh.D.をとり、臨床心理学の訓練を受けた。ヨークシャーで臨床実践をおこない,オクスフォード大学研究員となり、そこでクラークとともに,パニック障害や空間恐怖症の心理学的治療の研究をおこなった。その功績をたたえて、オクスフォード大学のワーンフォード病院の廊下には、クラークらと並んで、サルコフスキスの写真が飾ってある。

 2000年から、クラークらとともに、ロンドン大学に移り、精神医学研究所 心理学科の教授となった。研究所では、18人のリサーチ・スタッフとともに、強迫性障害、パニック障害、心気症(健康不安)、 恐怖症など、不安障害について幅広く研究をおこなっている。これまで100編を越える論文を著しており,世界的に著名である。サルコフスキスの業績の内容については、『認知行動療法の臨床ワークショップ:サルコフスキスとバーチウッドの面接技法』(丹野義彦編、金子書房)の中に、杉浦が詳しく解説している。

 サルコフスキスは、出版や学会の活動にも精力的に取り組んでいる。イギリス認知行動療法学会の学会誌であるBehavioural and Cognitive Psychotherapyの編集責任者をつとめている。また、1996年には、『認知行動療法-臨床と研究の発展』が出版された。この本は、最近の認知行動療法のトレンドについてコンパクトにまとめた好著であり、邦訳もある(坂野雄二・岩本隆茂監訳、金子書房,1998)。また、この年には、『認知療法のフロンティア』を編集した。ほかに邦訳としては,『認知行動療法の臨床ワークショップ:サルコフスキスとバーチウッドの面接技法』(金子書房)がある。邦訳された論文としては、クラークとフェアバーン編『認知行動療法の科学と実践』(伊豫雅臣監訳、星和書店, 2003年)に「強迫性障害」と「心気症」がある。

 毎年、世界中を飛び回って、国際学会のワークショップを開いている。1995年には、日本精神神経学会の招きで来日し、長崎でワークショップをおこなった。その時の記録は、『パニック障害の心理的治療-理論と実践』(佐藤啓二・高橋撤編、ブレーン出版, 1996)にまとめられている。また、2001年には、日本心理臨床学会の招きで来日し、学会講演と臨床ワークショップをおこなった。そのワークショップは、『認知行動療法の臨床ワークショップ:サルコフスキスとバーチウッドの面接技法』(丹野義彦編、金子書房)に収録されている。サルコフスキスの精力的な仕事ぶりについては、この本のあとがきに述べられている。今回の神戸のWCBCTは3度目の来日となる。

 夫人のローナ・ホッグも臨床心理学者であり、統合失調症の臨床で有名である。

 筆者(丹野)は、2000年秋にイギリスを訪問した際に、クラークに初めてメールを出したが、その時はちょうどロンドン大学に移動する時期だったので、会うことができなかった。初めて合うことができたのは、2001年のグラスゴウのイギリス認知行動療法学会においてであり、ここで来日の打ち合わせをすることができた。その後、学会で何回か会う機会があった。2001年のバンクーバーの世界行動療法認知療法会議では、サルコフスキスと話しているときに、ベックが通りかかったので、ベックに紹介してもらい、いっしょに写真をとってもらったりした。2002年に筆者が精神医学研究所に留学したときには、この人の講演は何回も聞いたし、何回かサルコフスキスのオフィスで話した。また、筆者の研究室の不安研究グループの大学院生が数名ロンドンを訪れた際に、サルコフスキスに会って英語論文を添削してもらったりした。その時の様子は小堀(2003)を参照。

 筆者にとって、留学中にサルコフスキスの自宅に招待されたことは大きな思い出である。そこでクラークとエーラーズの夫妻と親しくなることができたのである。サルコフスキスは、ロンドン郊外のスワンリーという自然に恵まれた村の広大な家に住んでいた。週末は家族とともに、日曜大工で家を建てたり、にわとり小屋を造ったり(野キツネが出るので敷地の周りに柵を自分で作ったりしていた),庭いじりをして過ごしていた。家には膨大な量の本もあった。世界をリードする研究をしている人が、週末は全く仕事をしないで家庭生活を大切にしているということは驚きであった。イギリス人は、土日は完全に仕事を離れて、家族といっしょにすごすのがふつうであるが、このような世界的な研究者までがそうなのかと驚いたものである。

 2001年のWCBCTバンクーバー大会におけるデイビッド・クラーク(ロンドン大学精神医学研究所)の基調講演では、サルコフスキスがその座長をつとめたが、講演後、演壇にいるクラークを星条旗で包んだりした。茶目っ気のある人である。クラークとサルコフスキスはともに、ロンドン大学精神医学研究所のラックマン(現在、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学名誉教授)の弟子である。前回のバンクーバー大会では兄貴分のクラークが基調講演をおこなったので、今回の神戸大会では弟分のサルコフスキスが基調講演をおこなうことになり、まことにうれしいことである。

 サルコフスキスは、仕事は非常に早い。多動的な人で、2001年のバンクーバー大会では、シンポジウム中に氷の入った容器をひっくり返して、会場中が大笑いになった。今回の神戸大会のガラディナーでも、またテーブルの上でグラスの水をひっくりかえして、大騒ぎとなった。

 今回、サルコフスキスは、21世紀COEプログラム「心とことば-進化認知科学的展開」(拠点リーダー:長谷川寿一東京大学教授)との共催により、来日することが可能になった。いろいろな講演やシンポジウムに参加した。


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8.アイザック・マークス Isaac Marks

アイザック・マークス アイザック・マークスは、1960年代から活躍しているイギリスの行動療法界の長老である。恐怖症のエクスポージャー法で有名である。

 ロンドン大学の精神医学研究所で長年仕事をし、精神医学研究所をイギリスの行動療法の中心にした。恐怖症のエクスポージャー法の開発者として、この人の名前を聞いたことがない人は少ないだろう。

 マークスは、1935年生まれで、1956年に医学士となり、1963年に南アフリカのケープタウン大学で医学博士の学位を受けた。その後、ロンドン大学精神医学研究所の心理学的医学部の実験精神病理学の教授として活躍した。ウォルピの提唱した系統的脱感作療法にかわって、マークスはエクスポージャー法を提唱した。系統的脱感作療法はイメージ上で不安状況に接するが、エクスポージャー法は直接不安状況に接する方法である。とくに恐怖症のエクスポージャー法では有名である。著書11冊、論文250本以上に及ぶが、邦訳された著書としては、『恐れと共に生きる』(青山社)、『行動精神療法』(中央洋書出版部)などがある。

 また、1970年代以降は、マークスは、看護師への行動療法の普及をはじめた。不安障害の有病率はとても高く、とうてい精神科医や臨床心理士による治療だけでは足りないからである。マークスの研究によると、3年間の行動療法の訓練を受けた看護師が、不安障害の患者の行動療法をおこなったところ、大きな効果をあげた(Marks, 1985)。こうした成功によって、モーズレイ病院では、看護師を対象として行動療法の訓練コースが作られた。マークスは、『行動療法における看護』や『一次医療におけるナースセラピスト』という本を書いた。こうした活動によって、行動療法は、広く看護師の間に普及した。

 また、1970年代から、イギリスの精神医療はコミュニティ・ケアがさかんになったが、「コミュニティ精神科看護師(Community Psychiatric Nurse:CPN)」を強力に指導したのもマークスである。コミュニティ精神科看護師は、現在、イギリスでは8000名を数え、コミュニティ・メンタルヘルス・チーム(Community Mental Health Tream:CMHT)の中心的な役割を果たしている。彼らの間にも行動療法は定着している。

 また、行動療法を補う手段として、コンピュータを利用した心理療法(Computer-aided Self-help)の研究をしている。2000年にロンドン大学精神医学研究所を定年で退官されてからは、同じくロンドン大学のインペリアル・カレッジに移った。インペリアル・カレッジは、工学で有名な大学であり、コンピュータを利用した心理療法の研究をするには適しているだろう。2001年9月には、日本の不安・抑うつ臨床研究会が、製薬会社の援助で「パニック障害セミナー」を主催し、教授を招待し、ワークショップを開いた。この時に、パニック障害に対して、パソコンを利用した治療プログラムが非常に効果を上げることを発表していた。この結果は、驚くべきことである。心理療法には、クライエントとセラピスト間の人間関係の質が必須であるという考えが強い。しかし、パソコンのプログラムによって効果があるということは、人間関係の質は、治療成功の必要条件ではないことを示している。

 看護師への普及や、コンピュータを利用した心理療法といったマークスの発想には、共通点がある。つまり、行動療法は、精神科医や臨床心理士のような専門家だけが行えるのではないということである。試算によると、パニック障害に悩む人はイギリスでは30万人である。ところが、臨床心理士が年間におこなうパニック障害への治療はたかだか年間5万人しかない。臨床心理士による治療だけでは及びもつかないのである。それを補うためには、看護師による行動療法を広めたり、パソコンを使った治療なども使わなければならない。現実を越えるためのシステムを作るという大きな発想をするところが、マークスのユニークなところである。

 このように書くと、恐い人のように思えるが、会ってみると、マークス教授は、人なつこい臨床家の目をして、いつもニコニコとして物腰が柔らかい好々爺である。「これがあの世界的に有名なマークス教授なのか?」と驚くほどである。九州大学の中川彰子先生など、マークスのもとに留学して仕事をした日本人も多い。すでに何回か来日している。菜食主義であり、ガラディナーでは、マークス先生用に特別のディナーが用意された。


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9.エドナ・フォア Edna Foa

エドナ・フォア エドナ・フォアは、不安障害の認知や認知行動療法の研究で有名である。

 ペンシルヴァニア大学精神医学部の臨床心理学の教授であり,同大学内の不安治療・研究センターの所長である.

フォアは強迫性障害や社会不安,外傷後ストレス障害(PTSD)の認知理論や認知行動療法で有名である。1986年にコザックとともに発表した「感情処理理論」は、不安障害の治療に大きな影響を与えた論文である(Foa & Kozak, 1986)。現在では外傷後ストレス障害(PTSD)研究の第一人者である.フォアが開発したレイプ被害者のための治療プログラムは,最も効果的な治療法とされている.フォアは、200本以上の論文と数冊の著書を発表しており,世界中で講演を行っている.DSM-ⅣのPTSD委員会の委員長も務めた.また,数多くの賞を受賞している.例を挙げると,アメリカ心理学会からの優秀科学者賞や臨床心理学貢献優秀賞,行動療法推進学会からの初年度研究貢献優秀賞,国際外傷後ストレス学会からの功績賞などである.パーソンズをはじめ、多くの認知行動療法家を育てている。

 ペンシルバニア大学の不安治療・研究センターは、1979年にフォアによって設立された,不安障害に特化した研究や治療プログラムの提供を行う国際的に有名な機関である.強迫性障害,外傷後ストレス障害(PTSD),全般性不安障害,社会不安,パニック障害や広場恐怖などの不安障害全般を扱っている.同センターには修士・博士合わせて14名の研究者が在籍し,いずれも不安障害の認知行動療法の専門家である.

 今回は、『心理学ワールド』に記事を載せるため、西澤哲先生(大阪大学)とインタビューをした。フォア先生は、イスラエル生まれのアメリカ人とのこと。夫は文化人類学の教授をしているとのことで、2年前に夫が東京大学で集中講義をしたので、いっしょに観光で来日したとのこと。昨年にもワークショップのために来日したので、今回は3回目の来日とのことであった。
フォアのホームページ 写真はホームページから引用
http://mail.med.upenn.edu/~foa/


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10.ヴァン・ダー・コーク van der Kolk

ヴァン・ダー・コーク コークは,ボストン大学医学校の精神医学教授であり、PTSDなど不安障害のEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)の臨床で有名である。

 1965年にハワイ大学を卒業,1970年にはシカゴ大学医学部プリッツカー校より博士号を受けた。現在はボストン大学医学部やトラウマセンターなどに勤務している。

 彼は,心的外傷後ストレスとその関連の現象における,1970年代から精力的に活動している臨床家であり,研究者であり,そして教育者である。彼の業績は,トラウマとその治療の影響の発達的,生物学的,精神力動的,さらに対人的な側面を統合した。彼の著書“Psychological Trauma”はこの領域における最初の統合的なテキストであり,人間に対しての広い範囲にわたるトラウマの影響と,回復のために扱わなければならない治療的問題の範囲についてあざやかに描写している。

 コークと彼の同僚たちは,解離,境界性人格障害と自傷行為,トラウマをもった子どもや成人の認知発達,トラウマの心理生物学といったトラウマが発達に及ぼす影響について広く発表してきた。彼はDSMにおけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)のField Trialの共同第一研究者である。彼の現在の研究は、トラウマが記憶過程にどのように影響するかについてと,PTSDの脳画像研究である。

 コークはトラウマ・ストレス研究国際学会の元代表であり,ボストン大学医学校の精神医学教授である。また,ブルックリン,マサチューセッツのHRI病院のトラウマセンターの医局主事である。アメリカはもとより、世界中の大学や病院において教授してきた。その中にはヨーロッパ,アフリカ,ロシア,オーストラリア,イスラエル,中国が含まれる。世界中を飛び回って、大学や病院でワークショップを開いてきた。アレクサンダー・マクファーレンとラーズ・ワイゼスと共編した最近著の「Traumatic Stress: The Effects of Overwhelming Experience on Mind, Body, and Society」は、1996年にギルフォード・プレスから出版された。この本は,精神医学的な病気におけるトラウマの役割を再発見した過去20年間の研究をまとめている。ほかに共編著“Traumatic Stress Grundlagen und Behandlungsansaetze”がある。

 今回の来日にあたっては、市井雅哉先生(兵庫教育大学)がたいへんな尽力をされた。今回のワークショップも、非常に面白いと評判であった。丹野は、『心理学ワールド』に記事を載せるため、西澤哲先生(大阪大学)とインタビューをすることができた。


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11.ラース・ゴラン・オスト Lars Goran Ost

 オストは、スウェーデンのストックホルム大学教授であり、さまざまな不安障害に対する認知行動療法で有名である。

 1945年にストックホルム生まれた。教育学・医学博士を取得。92年よりストックホルム大学教授・心理学部長・博士課程理事を務める。現在までに170の論文や著書を出版し、8人の博士を指導している。また、これまで250人の精神療法家のスーパーバイズを行っている。Behaviour Research and Therapy, Journal of Abnormal Psychology, Behavioural and Cognitive Psychotherapyなど多くの雑誌の編集委員を務める。

 オストの研究の特徴 はまず、1セッション治療や3セッション治療など、短期で効果を得られる治療法やそのマニュアル作りを志向している点である。次に、指示的療法、自助マニュアルを用いた 治療、集団療法など、異なるアプローチの効果を長期間にわたって比較し、コストパフォーマンスと効果の持続を追求している点である。

 オストの研究史を振り返ると、70年代には、薬物乱用、統合失調症、肥満、蛇恐怖、蜘蛛恐怖、雷恐怖に対する行動療法を始めている。

 80年代では、社会不安障害、広場恐怖、流血恐怖、歯医者恐怖、閉所恐怖に対して、行動療法と応用リラクゼーションとの効果を比較している。また3システムズモデルに基づき、それぞれの恐怖症の特徴や、恐怖の獲得のプロセス、発症年齢の違いを明らかにしている。また応用リラクゼーションの解説も行っている。80年代後半には、恐怖症に対する1セッション治療を開発している。

 90年代では、20の状況を苦痛度と回避で評定する広場恐怖尺度を開発した。また、パニック障害に対する応用リラクゼーション、行動的技法、認知的技法の効果を比較している。さらにクモ恐怖に対する1セッション治療を集団療法で行っている。さらには1セッションアプローチを飛行機恐怖にまで拡大している。他にも、北欧での不安障害の疫学調査や統合失調症の社会機能の調査も行っている。

 2000年代になると、治療と研究の対象を、全般性不安障害やPTSDにまで広げている。


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12.ヤン・プラスコ Jan Prasko

 ヤン・プラスコ(Jan Prasko)は、1956年生まれで、プラハのCharles大学医学部を卒業した。家族療法、集団精神療法、認知行動療法が専門である。病院の精神科、プラハ精神医学センター、Charles大学の第三医学部で教鞭をとっている。認知行動療法センターでスーパーバイザーとして活躍するだけでなく、精神薬理にも詳しい。また、2002~2003年にEABCT(ヨーロッパ認知行動療法学会)の会長をつとめており、ヨーロッパの認知行動療法会の重要人物である。そればかりでなく、Psychopharmacology , British Journal of Psychiatry, Clinical Neurophysiology など、インパクトファクターの高い研究論文に数多く携わっている。


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13.モーリッツ・クウィー Maurits KWEE

 モーリッツ・クウィー(Maurits KWEE)は、オランダの臨床瞑想法通文化学会のディレクターをつとめている。

 1974年にオランダのカソリック大学で臨床心理学博士をとり、1984年にオランダのエラスムス大学でPhDをとった。ラザルス、エリス、マホニーにスーパービジョンを受けた。その後、オランダで個人開業を中心とした仕事をしている。アルゼンチンのブエノスアイゼンクレスにあるフローレス大学の名誉教授の称号を持っている。オランダの人間科学の構成主義学会の評議員でもある。

 クウィーは、2000年から、日本の早稲田大学の人間科学研究高等センターで研究員でもある。前早稲田大学教授の春木豊先生が留学した時にお世話になったそうである。

 英語で書かれた著書に、「Psychotherapy, Meditation, & Health: A Cognitive-Behavioural Perspective」、「Western and Buddhist Psychology: Clinical Perspectives」、「Meditation as Health Promotion: A Lifestyle Modification Approach」(春木豊先生との共著)などがある。ほかにも多くの著書論文がある。恐怖症や強迫性障害などの不安障害や摂食障害などに関する研究が多い。


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14.ミチェル・ロビン Mitchell W. Robin

 ミチェル・ロビン(Mitchell Robin)は, 対人不安の論理情動療法で有名である。

 ロビンは、35年間ずっとニューヨーク市立大学(CUNY)で臨床の仕事をしており、現在は、ニューヨーク市立大学の名誉教授である。1984年にニューヨーク市立大学でPh.Dをとった。また、この20年間は、ニューヨークにあるアルバート・エリス研究所でも仕事をしてきた(この研究所は、論理情動療法で有名なアルバート・エリスが設立したものである)。ロビンは、現在、アルバート・エリス研究所の教育スーパーバイズ部のメンバーでもあり、この研究所でワークショップを多く開いている。アメリカ国内の学会や国際学会でのワークショップ講師の経験も多い。著書に、『パフォーマンス不安を克服するために』などがある。


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15.ダニー・ラム Danny Lam

 ダニー・ラム(Danny Lam)は、ロンドンのキングストン大学の健康社会看護科学部の助教授である。ロンドン大学で医学・心理学のPh.Dを取得した。英国認知行動療法学会の認定認知行動療法士の資格を持っており、アメリカのアルバート・エリスのもとで、論理情動療法の訓練も受けた。臨床経験も豊富であり、キングストン大学の助教授をつとめるかたわら、ロンドン大学のセント・ジョージ医学部にもつとめ、またロンドンやサリーで個人開業で認知行動療法をおこなっている。他職種へのスーパーバイズとしての経験も多く、臨床心理士やカウンセラー、看護師、ソーシャルワーカー、OTなどへのスーパーバイザーとして活躍している。研究論文は、季刊カウンセリング心理学(Counselling Psychology Quarterly)や高等看護学雑誌(Journal of Advanxed Nursing)などに多くの研究論文を発表している。イギリス国内の学会や国際学会でのワークショップ経験も多い。


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統合失調症に関係した領域

16.ロバート・リバーマン Robert Liberman

ロバート・リバーマン ロバート・リバーマンは、精神病へのソーシャルスキル訓練で有名である。数回来日して、日本の生活技能訓練の保険点数化の原動力となった。

 1937年生まれで、ハーバード大学で精神科のトレーニングを受け、1970年からカリフォルニア大学ロサンゼルス校の医学部精神科の教授をしている。また、1977年からは、同大学の精神病治療リハビリテーション研究センターの所長も兼ねている。このセンターはNIMHが資金を出して建てた物である。統合失調症のソーシャルスキル訓練で著名であり、統合失調症の「ストレス-脆弱性-対処-力量」モデルについてのリバーマンの研究は、統合失調症の治療やリハビリテーションの基礎となっている。

 リバーマンは、ニューヨーク市の州立サウスビーチ精神科センターに、「地域住居治療サービス」という重症慢性患者のための社会復帰プログラムを作った。

 1970年頃から、リバーマンらは、「対人的効果訓練」を始めた。『生活技能訓練基礎マニュアル』(安西信雄監訳、創造出版)は、この方法をまとめたものである。1964年にアメリカでは、ケネディ教書が出されて、脱施設化運動が始まった。しかし、退院が促進されても、地域に戻った患者さんたちの生活の質が良くないことが問題となった。そこで、リーバマンたちは、ソーシャルスキル訓練の方法を慢性精神病の患者さんへと広げた。そして「自立生活技能訓練プログラム」を作った。

 リバーマンの方法は、世界的な影響力を持っており、日本で生活技能訓練(ソーシャルスキル訓練)が定着したのも、リバーマンの影響が大きかった。1988年にリバーマンが来日して東京と長崎で「リバーマン博士の生活技能訓練ワークショップ」が開かれた。この招聘を精力的に進めたのは、丹羽真一先生(福島県立医科大学精神科教授、当時東京大学精神医学教室客員教授)であった。東京大会では、予想を上回る400人以上の参加者があり、急遽、会場を変えたほどであった。88年の来日時には、東京大学精神科において、実際に患者さんを対象にしてソーシャルスキル訓練をおこなったということである。この時のリバーマンのみごとな展開を見て、東京大学精神科の方々は、「生活技能訓練の有用性を納得しました」ということである。安西信雄先生(都立松沢病院精神科)によると、リバーマンは「臨床家として信頼できる」と感じ、それがすべての出発点になったという。患者さんの気持ちや特徴をつかんで、臨機応変に技法を使うといった点において、リバーマンが臨床家としての優れた力量を持っているということがわかったという。この時の様子は、『精神科リハビリテーション(Ⅰ)援助技法の実際』(伊藤順一郎・後藤雅博・遊佐安一郎編、星和書店)に安西先生が書かれた章や、『わかりやすい生活技能訓練』(東大生活技能訓練研究会編、金剛出版)に宮内勝先生が書かれた序文などに生き生きと書かれている。

 リバーマンは、1991年と93年と96年にも来日して、精力的に講演やワークショップをおこない、生活技能訓練を日本の精神医療界に広げた。リバーマンや彼のグループの来日ワークショップの影響は、きわめて大きなものがあった。そして、1994年に、生活技能訓練は、診療報酬として点数化されたのである。

 神戸でのリバーマンのワークショップは、とにかくわかりやすく、エクササイズの入れ方も絶妙であった。この人のワークショップは定評があり、「リーバーマニア」というファンがたくさんいるそうだ(池淵先生談)。今回の神戸大会でも、リーバーマニアになった人は多かったのではなかろうか。来日にあたっては、ワークショップ担当委員の池淵恵美先生(帝京大学医学部教授)がたいへんなご尽力をされた。


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17.キム・ミューザー Kim Mueser

キム・ミューザー キム・ミューザーは、精神病へのソーシャルスキル訓練で有名な臨床心理士である。

 アメリカのダートマス医科大学コミュニティ・家族精神医学部門の教授である。コロンビア大学を出て、1984年にシカゴのイリノイ大学で臨床心理学の博士号を取り、その後1994年まで、フィラデルフィアのペンシルバニア医学校精神医学部門で仕事をした.1994年にダートマス大学に移った。統合失調症の治療やリハビリテーション、生活技能訓練(ソーシャルスキル訓練)などの研究で、200本以上の論文や、12冊の編著書と、80本以上の章を執筆している。リバーマンやベラックといっしょに、重度精神病の心理社会的治療の研究をしてきた.認知行動療法をはじめ、援助付き雇用プログラムやケースマネジメントなど、統合失調症の人が生活するための援助を研究している。PTSDや併発症例の治療も研究してきた.ミューザーは,精神科リハビリテーションに関する数多くの講義やワークショップを開いてきた.夫人は、マウント・シナイ医学校精神科助教授スーザン・マクガークである。今回の神戸大会では、夫妻で来日し、ふたりでランチョン・トークを開いた。来日にあたっては、ワークショップ担当委員の池淵恵美先生(帝京大学医学部教授)がたいへんなご尽力をされた。

 著書には以下のものがある。

「精神科患者のためのソーシャルスキル訓練(1989)」,「統合失調症へのコーピング:家族のためのガイド(1994)」,「精神科における行動的家族療法第2版(1999)」.


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18.18.ニック・タリア Nick Tarrier

ニック・タリア ニック・タリアは、統合失調症の陽性症状への認知行動療法で有名である。また、もともとは統合失調症の家族の感情表出(EE)や家族介入の研究で知られている。

 イギリスのマンチェスターは、以前から統合失調症の精神病理学がさかんな地であり、「マンチェスター学派」という名称で知られている。こうした風土に対応して臨床心理学・異常心理学もさかんである。それを引き継いでいるのがニコラス・タリア(Nicholas Tarrier)の研究グループである。タリアは、統合失調症の認知行動療法や家族介入で世界的に著名である。

 1951年生まれで、ノッティンガム大学を卒業し、マンチェスター大学で臨床心理士の資格を得た後、1977年にロンドン大学精神医学研究所でPh.D.をとった。オーストラリアのシドニー大学で講師をつとめたあと、マンチェスター大学の臨床心理学の教授となった。初期には、統合失調症の家族の感情表出(EE)や家族介入を研究していた。その後、統合失調症の陽性症状への症状対処行動の研究(Tarrier, 1992)にもとづいて、対処ストラテジー増強法を開発した。また、統合失調症への認知行動療法を開発し、「ソクラテス・プロジェクト・チーム」をたちあげたことでも有名である。ソクラテスとは、Study Of Cognitive ReAlignment Therapy in Early Schizophrenia(初期統合失調症の認知再編成療法の研究)の略である。

 また、タリアは、こうした治療介入法や認知行動療法の効果について、無作為割付対照試験(RCT)を用いた効果研究をおこなっている。タリアの効果研究は、アメリカ精神医学会の治療ガイドラインの中にも引用されているほどである。RCTは、多くの人員と予算を必要とするビッグプロジェクトであり、それをまとめているのがタリアである。ロンドン大学のガレティと並んで、イギリスのRCTのオーガナイザーとして知られている。タリアのもとには多くの臨床心理学者が集まり、マンチェスターは、統合失調症研究のセンターとして世界的にも認められるようになった。1994年にはイギリス行動認知療法学会の会長をつとめた。2004年の9月には、マンチェスターでヨーロッパ認知行動療法学会とイギリス行動認知療法学会の合同大会が開かれる。タリアはその実質的な中心人物である。

 タリアは、これまで150本以上の論文や著書を発表している。1992年には、バーチウッドとともに『統合失調症の心理学的マネジメントの普及』を編集した。ほかにも、共編著として、『統合失調症の心理学的マネジメント(1994年)』、『統合失調症患者の家族:認知行動的介入(1997年)』、『複雑な事例の治療法:認知行動療法的アプローチ(1998年)』、『統合失調症の心理学的治療の成果と普及(1998年)』などがある。邦訳された論文としては、サルコフスキス編『認知行動療法:臨床と研究の発展』(坂野雄二・岩本隆茂監訳、金子書房, 1998年)に「幻覚と妄想に対する認知行動療法」がある。

 タリアは、日本にも何回か来たことがある。若い頃は、仙台・青森・北海道とヒッチハイクでまわり、韓国にも長期間旅したとのこと。空手二段で、剣道もやったことがあるとのこと。2000年には、慶應義塾大学で開かれた家族療法の会議のため来日した。

 本名はニコラスだが、親しみをこめて「ニック」と呼んでいる。若い人もこの人をニックと呼んでいる。オーガナイザーとして卓抜な組織力と事務能力を持っている。親分肌の性格であり、回りに多くの有能な若手研究者が集まる。マンチェスター大学には、現在、ウェルズ、ベンタル、モリソンなど多くの精力的な心理学者が集まっている。タリア夫人のクリスティン・バロウクロウも、マンチェスター大学の臨床心理学の教授であり、タリアとともに、ロンドン大学の精神医学研究所で統合失調症の家族療法や認知行動療法の研究をしてきた。タリア夫妻には『統合失調症患者の家族:認知行動的介入』という著作がある(1997年)。

 今回、タリアは、21世紀COEプログラム「心とことば-進化認知科学的展開」(拠点リーダー:長谷川寿一東京大学教授)との共催により、来日することが可能になった。いろいろなワークショップやシンポジウムに参加した。


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19.グラハム・ターピン Graham Turpin

グラハム・ターピン グラハム・ターピン(Graham Turpin)は、イギリスの臨床心理学の重鎮である。

 イギリスのシェフィールド大学の心理学科の教授であり、そこの臨床心理学グループの中心として活躍している。1995年から、イギリスの臨床心理士制度が確立し、臨床心理学の博士コースを出た人だけが公認臨床心理士となることになったが、こうした制度をまとめ、大学院のカリキュラムを整備したのが、ターピンを委員長とする英国心理学会の委員会であった。

 ターピンは、1952年生まれで、ロンドン大学で臨床心理学の資格を取り、サウサンプトン大学で博士号をとった。ロンドン大学精神医学研究所で講師を務めた後、シェフィールド大学に移った。統合失調症の臨床心理学の研究をしており、バーチウッドとタリアが編集した『統合失調症の心理学的マネジメントの普及(1992年)』には、統合失調症のアセスメントについての論文を書いている。2003年にヨークで開かれたイギリス行動認知療法学会で、タリア、サルコフスキス、ガレティらとともにパネル・ディスカッションに参加し、研究法について熱心に議論していた。1995年には、名古屋で開かれた心理臨床国際シンポジウムの英国代表として来日したこともある。

 本大会では、ターピンは、ワークショップを開催し、また、東京大学教育学研究科教授の下山晴彦先生とともに、日英の臨床心理学についてのシンポジウムを開いた。ご夫妻で来日され、直前の7月19日が結婚記念日だったそうである。

 さらに、大会後の7月24日(土)には、東京大学本郷キャンパス山上会館において、日英シンポジウム「専門職としての臨床心理学の発展に向けて―日本と英国の比較を通して―」に参加した。このシンポジウムは、下山先生が司会を務め、オックスフォード大学臨床心理学コース訓練部長のスーザン・ルウェリンや九州大学の北山修先生、明治学院大学の金沢吉展先生、日本女子大学の平木典子先生などが参加した。


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20.エマニュエル・ピーターズ Emmanuelle Peters

エマニュエル・ピーターズ エマニュエル・ピーターズは、妄想のアセスメントや認知行動療法で有名な若手研究者である。

 ロンドン大学精神医学研究所の心理学科の講師である。1992年にロンドン大学の精神医学研究所でPh.D.をとり、1994年に臨床心理学の修士をとり、臨床心理士となった。現在は、ロンドン大学の講師であり、南ロンドン・モーズレイ・トラストのコンサルタント臨床心理士をつとめている。

 ピーターズは、妄想の研究で多くの論文を発表している。PDI(ピーターズ妄想質問紙)という質問紙法のアセスメント・ツールを作って、患者や健常者の妄想的観念について調べている。妄想の発生の心理学的メカニズムをさぐるという研究をしている。PDIは,40項目からなるが、それらの項目は、妄想の精神医学的診断基準から選ばれたものである。ひとつの項目について、①妄想的観念の有無 (これまでに妄想的観念を体験したことがあるか),②心的占有度(どれくらい妄想的観念について考えてしまうか),③確信度 (どれくらい真実だと確信しているか),④苦痛度 (それによってどのくらい苦痛を感じているか)という4つの次元から答えるものである。PDIを一般成人に実施した結果,約25%の人がこれまで妄想的観念を経験したことがあると答えた。また,健常者と、妄想を持つ精神疾患患者の得点を比較すると,妄想的観念の有無には差がなく,心的占有度,確信度,苦痛度という次元において有意差がみられた。つまり、健常者の多くが妄想的観念を経験しているが、統合失調症患者は、幻覚や妄想を体験して苦痛を感じたり,常に気になったりするわけである。逆にいうと,幻覚や妄想を体験していても,苦痛を感じない人は,特に大きな問題とはならないということである。その後、PDIを用いた研究が世界的に行われるようになり,イギリス以外の国でも、ピーターズらと同じような結果が得られている。

 また、ピーターズらは、PDIを用いて,健常者と妄想患者の妄想的観念を比較した(Peters, Day, McKenna & Orbach , 1999)。この研究の健常群は、無宗教者,キリスト教信者,新興宗教信者の3つのサブグループからなっていた。その結果,PDIのすべての次元において、健常群と妄想患者群との間に有意な差が見られた。健常群の3つのサブグループの中で、PDIの4次元の得点を比較した結果,苦痛度においては、3群間に有意差はなかったのに対し,妄想的観念の有無,心的占有度,確信度においては、3群間に有意差が見られた。これらの指標では、新興宗教信者は、無宗教者やキリスト教信者より有意に高かった。こうした結果から、PDIの4つの指標のうち、健常群と妄想患者群の間に明確な差がみられたのは苦痛度の強さであることがわかる。

 また、ピーターズは、前述のヘムズレイらが開発したベイズ課題を用いて、分裂病型人格障害(Schizotypy)における妄想的観念の研究を書いている。これも非臨床アナログ研究である。

 さらに、ピーターズは、認知行動療法の治療効果研究にも加わっている。ロンドン大学では統合失調症に対する認知行動療法について、大規模な治療効果研究がおこなわれており、ピーターズもそうした効果研究に加わっている。

 ピーターズは、イギリスに住んでいるが、もともとはフランス人で、12歳まではフランスに住んでおり、母とともにイギリスに移住したとのことである。

 今回、ピーターズは、21世紀COEプログラム「心とことば-進化認知科学的展開」(拠点リーダー:長谷川寿一東京大学教授)との共催により、来日することが可能になった。いろいろなワークショップやシンポジウムに参加した。ワークショップでは、妄想とは決して訂正不能のものではなく、認知行動療法によって変化しうることを熱心に説いていた。多くの講師が講義型のワークショップをおこなったのに対し、ピーターズのワークショップは、多くの時間を聴衆との議論にあてて、参加者の積極的な議論を引き出していた。このようなタイプのワークショップは、中級者・上級者にはとても効果がある。日本でもこうしたタイプのワークショップのできるリーダーが育ってほしいものである。


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21.トゥリオ・スクリマリ Tullion Scrimali

 スクリマリ(Tullion Scrimali)は、医師であり,心理学者,心理療法家でもある.ミラノ大学で精神医学を専攻し,イタリアにおける認知行動療法の先駆者の一人である.カターニア大学で、認知行動療法や精神病理学、心身薬学,科学英語などを教えている.また、1990年にスクリマリはアレテイア学校を設立した。これは、認知行動療法を学ぶための学校であり,スクリマリが校長を務めている.スクリマリは、アメリカやヨーロッパなどでさまざまな研究や教育活動を行っており,ポーランドでは初めて認知行動療法のトレーニングを指導した.120本以上の論文と数冊の著書がある.

 スクリマリは、15年以上も認知的アプローチを用いた統合失調症患者の治療とリハビリテーションに関わっており,統合失調症についての研究を発表している.

 例えば、イタリアで初めて行われた統合失調症の治療のための認知的アプローチによる治療マニュアルの統制研究(Scrimali, & Grimaldi, 1996 "Negative Entropy" A Cognitive and complex approach to therapy and rehabilitation of schizophrenia. Complesssità & Cambiamento, Vol. V, N.1; 英語版: www.issco.net/cambiamento) や,統合失調症の新しい発生因モデルの実験的研究(Scrimali, T. & Grimaldi, L., 1997: Schizophrenia and Cluster A Personality Disorder. Journal of Cognitive Psychotherapy, Vol. 10, N. 4, 291-304) などがある.

 スクリマリは,2000年に開催された初の国際認知療法学会「新しい世紀に向けた認知療法」において科学委員会と組織委員会の会長を務めた.また,国際認知療法学会の委員会のメンバーであり,国際認知療法アカデミーの設立会員である.2001年にバンクーバーで開催された世界行動療法認知療法会議では,招待講演を行い,2003年のヨーロッパ認知行動療法学会では基調講演を行った.


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22.スーザン・モース Susan B. Morse

 スーザン・モースは、1987年にアメリカのカリフォルニアでPh.Dを取った。1990年から、アメリカのニューメキシコ州のアルバカーキにある創造的認知療法プロダクション(CCTP)の臨床ディレクターをつとめ、現在に至っている。このプロダクションは、認知療法を各種臨床場面に適用するための治療プログラムや教材を作る仕事をしている。また、認知療法を、個人開業やリハビリテーション場面や入院患者治療プログラムや、コミュニティ訓練やスーパービジョンへと提供する仕事もしている。さらに、障害を持つ人々や高齢者へのサービスもしている。おもな著書には、「境界性人格障害への認知療法:心理学実践家のためのガイドブック」などがある。


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発達過程の臨床に関係した領域

23.イアン・エバンス Ian M. Evans

イアン・エバンス イアン・エヴァンス(Ian M. Evans)は,行動アセスメント,発達障害,行動療法における価値判断の研究で著名な研究者である.

 エヴァンスは,ニュージーランドのマッセイ大学心理学部教授である.1970年,ロンドン精神医学研究所(IOP)で、アイゼンク教授のもとで博士号を取得し,その後,1970年から1982年までハワイ大学で講師,助教授,教授を務めた.1982年から1995年までニューヨーク州立大学教授,1995年から2002年までワイカト大学教授を務め,現職に至る.

 エヴァンスの研究興味は,行動療法と行動アセスメントの理論と実践である.中でもとりわけ,(1)心理学における基礎的な知見を,より効果的な治療のために,臨床心理学研究者がどのように応用すべきか,(2)科学的な知識を実践に移行するためには,どのように臨床心理学の学生をトレーニングすべきか,という問題を一貫して研究してきた.

 エヴァンスのより応用的,実践的な研究は,発達障害をもった子どもおよび成人の臨床アセスメントと治療である.知的障害をもった人たちのための効果的な治療介入に関する研究は,現在,精神医学領域で応用されている.

 「Rangahaua Kaitautoko」という両文化的プロジェクトにおいては,アヴェリル・ハーバート(ワイカト大学講師)とともに共同研究を行っている.この研究は,統合失調症のような重大で持続的な疾患をもった人たちのための介護者(コミュニティー支援活動者)によって行われる,有効な介護手法を提供するものである.

 彼の最近の研究は,「行為障害をもつ子どもは,報酬反応によって影響を受け,罰反応によっては影響を受けない」という仮説を検証するものである.彼らのグループは,子どもが不公平な報酬および不公平な罰を区別するかどうか調査するために,報酬と罰に対する子どもの反応を判別できる社会的認知課題を作成し,子どもの怒りおよび敵意の発生原因を調査して,理論的なモデルを開発した.さらに,近年彼は,罪と恥の自己意識の研究を始めた.青年期の摂食に関する問題に,罪や恥および身体イメージに対する懸念がどのように関係があるか,という研究は,彼の研究室の最近のテーマである.

 さらに,エヴァンスは,学校や家族などの社会的機関が,子どもの問題行動についてどのように関わっていくべきか,という点にも長く興味を抱いており,学校内の問題行動の予防に関する教室の感情的な雰囲気が果たす役割を検討した.

 彼は今後,(1)治療評価と社会政策,(2)治療デザインとその有用性,(3)メンタリングのようなコミュニティー・レベルの治療介入の適用,(4)臨床的介入における文化的変数の導入,などの研究を考えている.

 エヴァンスは,ハワイ大学教授の時に,松見淳子先生(現・関西学院大学教授)の指導教官であった。2002年には,松見先生が座長・翻訳のもと,日本心理臨床学会第21回大会(中京大学)で,特別招待講演「心理アセスメントの大勢: 臨床心理学の基礎にある基本的な原則は何か?」をおこない、大きな反響を呼んだ.


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24.スーザン・スペンス Susan Spence

スーザン・スペンス スーザン・スペンス(Susan Spence)は,幼児期や思春期の感情障害の認知行動療法で有名である。

 オーストラリアのクイーンズランド大学社会行動学部心理学科の教授である.1979年から1982年まで,ロンドン精神医学研究所 で講師を務めていた.また,1982年から1992年まで,シドニー大学で講師・上級講師 を務め,1993年からクイーンズランド大学で準教授を務めたあと,1997年から現職に至る.ちなみに経営学修士(MBA)を持っておられる。

 スペンスは,(1)幼年期,思春期,若年期の感情障害・行動障害に関する病因論,アセスメント,予測,治療介入の研究(本大会:シンポジウムSY21参照),また,(2)メンタル・ヘルス専門家のための中核能力を養うためのトレーニングの研究,を主に行ってきた.

 現在はとりわけ,子どもの抑うつと不安に関するアセスメント,予測,治療介入の研 究(本大会:招待講演5参照)を行っている.オーストラリアでは,マーク・ダッズ (Mark Dadds)とともに,クイーンズランド不安早期介入・予防プロジェクト (Queensland Early Intervention and Prevention of Anxiety Project; QEIPAP) を主催し,成果を上げた.また,彼女が発表した「スペンス子ども不安尺度(SCAS; Spence Children's Anxiety Scale)」(Spence, 1997; 1998)は,子どもの広範囲な 不安徴候を評価する尺度で,幼年期特有の不安障害に関する有用な情報を示唆するも のである.SCASは,45項目(社会的望ましさを評価する7項目を含む)から成り, (1)パニック/広場恐怖,(2)社会不安,(3)分離不安,(4)全般性不安,(5) 強迫/衝動,(6)ケガへの恐怖,という6つのサブ・スケールを含む.現在,日本語 版を含めて,この尺度を用いた多くの研究が進行中である.SCASに関する文献などの さらなる情報は,http://www2.psy.uq.edu.au/~sues/scas/ を参照されたい.

著書Social skills training: Enhancing social competence with children and adolescents(Spence, SH., 1995)など
大学の研究者紹介のホームページ: http://www.psy.uq.edu.au/people/personal.html?id=38
SCAS HP: http://www2.psy.uq.edu.au/~sues/scas/
写真はこのホームページに掲載されているものである。


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25.ロナルド・ラピー Ronald Rapee

ロナルド・ラピー ロン・ラピー(Ronald Rapee)は、成人や子どもの不安障害の研究と臨床で著名である。

 オーストラリアのマッカリー大学教授である。1985年シドニーのニュー・サウス・ウェールズ大学でPh.Dを取得し、現在はマッカリー大学の心理学部の教授をつとめている。Journal of Abnormal Psychology や Behavior Research and Therapyなどの有力な雑誌に、100編もの論文を掲載している。

 ラピーの研究は、子供・成人両方の不安障害の病因とその維持に関するものである。実験室実験や実験社会心理学の手法を主に用いている。近年の興味は、不安の予防プログラムと公衆衛生の方法論である。

 不安だけでなく、それに関連する抑うつ、摂食障害、性的な障害にも関心がある。現在は、子供の不安における家族的要因、成人の不安障害の維持、成人の不安障害の自助治療、リスクファクターをもつ未就学児の親に対する心理教育による不安障害の予防、少年の抑うつや自殺の予防などについての大規模な研究プロジェクトを行なっている。


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26.マイケル・ペトレンコ  Michael Petrenko

 マイケル・ペトレンコ(Michael Petrenko)は、発達障害に対する臨床研究で有名である。

 ニュージャージー州立大学大学院応用職業心理学研究科臨床心理学部教授.1992年から研究教授として同学部に赴任.専門は臨床心理学で,発達障害,強迫性障害,心的外傷後ストレス障害など.アメリカ心理学会(APA)の臨床心理学における外交官役や,アメリカ精神遅滞学会(AAMR)のメンバーも務める.1976年から1991年までは,フェアリーディッキンソン大学で,教授として心理サービス部門の所長を務めた.その前は,アメリカ精神研究所のチーフサイコロジストとして,ヴァインランド訓練学校に在籍した.

 フェアリーディッキンソン大学時代には,Natural Setting Therapeutic Management (NSTM)(発達障害児とその家族のためのプログラムを出前で提供するコミュニティ主体の多次元モデルサービス)のパイオニアとして活躍した.このプログラムは州や国における,精神健康ケアの出前提供のモデルとして採用され,1980年からニュージャージー州の発達障害部門から資金提供を受けている.発達障害やサービスの出前提供ににおける多次元モデルの開発に加え,強迫性障害や心的外傷後ストレス障害(特にベトナム戦争後のPTSD)について,活発な研究活動を行っている.

 著書に,'Teach Your Baby to Sleep Through the Night(Schaeferと共著,1989)'がある.


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27.スヴェイン・アイカセッツ  Svein Eikeseth

スヴェイン・アイカセッツ スヴェイン・アイカセッツ(Svein Eikeseth)は、自閉症への心理学的介入と応用行動分析の研究で国際的に有名である。ノルウェーのアカーシュス大学助教授であり、発達障害の臨床におけるヨーロッパの若きリーダーである。

 アイカセッツと直接お知り合いの中野良顯先生(上智大学教授)は次のように紹介されている。

 「スヴェイン・アイカセッツは、1960年ノルウエー生まれの若い研究者です。スヴェインは、グリーク記念館(トロールハウゲン)で有名なベルゲン大学で心理学を専攻し、それからオスロ・カレッジを卒業されました。ノルウエーの大先輩ロヴァス教授のいるアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校UCLAに留学して研修を受け、キャンザス大学大学院のベア教授のもとで1991年にPh.Dを取得されました。

 臨床活動は、UCLAでの自閉幼児への早期高密度行動介入(EIBI)を中核として、それを北欧で発展させており、UCLAの自閉症クリニックでのスーパービジョンをはじめ、その後キャンザス大学クリニックや、イギリスのピーチプロジェクト、そしてアイスランドの自閉症早期介入などを幅広く指導して今日に至っています。

 スカンジナヴィア、英国、アイスランドなどの北欧圏における発達障害の臨床の若きリーダーであるといってよいでしょう。大先輩のロヴァス先生からの信頼の厚い篤実で誠実な研究者であり、故ドン・ベア教授を心から尊敬されておられます。今度の来日もロヴァス教授の推薦によるものであり、この会議ではUCLAの研究はもとより自閉症の早期高密度行動介入に関するデータ・ベースの研究の国際的な動向に関する展望の提示と、就学前の自閉症児の実際の臨床の進め方についてのデモンストレーションが行われることでしょう。」

 中野良顯先生がアイカセッツに始めてお会いしたのは、オスロのヨーロッパ行動療法学会第21回大会 (The 21st Annual Conference of the European Association of Behavior Therapy or 21st EABT-Congress Oslo-1991) だったとのことである。UCLAのロヴァス教授を座長とする自閉幼児の早期介入のシンポジウムが行われ、そのとき同じくシンポジストを務めたこと、またその学会を利用して国際共同研究の打ち合わせを行い、ノルウエーサイトの見通しや早期学習尺度の活用のしかたなどについて議論したということだった。

 アイカセッツは、結婚され、お子さんが二人おられる。身長1m80cmを越す巨漢で、誠実なお人柄で、率直であり、ノルウエーなまりの英語を使って顔を紅潮させて情熱的に早口で話されるということである。

 掲載した写真は、2002年5月に開かれた国際行動分析学会トロント大会のとき、中野先生のご発表されたポスターの前で撮られたものである。中野先生のご好意で紹介させていただく。

 今回のワークショップでは、中野先生が通訳に入り、とても明快なプレゼンテーションであった。聴衆の感想では、とてもわかりやすいと評価は高かった。


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28.ポーラ・バレット Paula Barrett

 ポーラ・バレット(Paula Barrett)はグリフィス大学の研究者であり臨床責任者である。

 1983年にリスボン大学において科学の学士をとり,1995年にクイーンズランド大学で博士号をとった。現在は子どもの不安障害やOCDなどについて研究している。

 著書にはトーマス・オレンディックと共に編著した“Handbook of Interventions That Work With Children and Adolescents: Prevention and Treatment”がある。


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29.ローラ・ヘルナンデス・グズマン Laura Hernandez Guzman

 グズマン(Laura Hernandez Guzman)は、メキシコ心理学会の学会長で、メキシコ自治大学の教授である。1981年にカンザス大学で博士号を取得し、予防心理学、精神病理学、親子間の相互作用や社会的能力などの領域において、40本以上の科学論文を発表している。

1995年までは、Mexican Journal of Psychologyの常任編集委員をつとめており、現在では、Mexican Journal of Behavior Analysisの副編集長、Behavioral and Cognitive Psychotherapyの国際編集委員(スペイン、米国)、International Journal of Psychologyの総編集長などもつとめている。

多くの研究プロジェクトに参加し、そのテーマのひとつとして、たとえば、きわめて貧困な層における家族への介入研究などがあげられる。そのほかにもさまざまっている。

 今回の講演では、小児における精神病理の評価というテーマで話した。


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