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WCBCT2010 ボストン大会

ボストンのWCBCT2010は大成功のうちに終わりました。
丹野義彦(東京大学総合文化研究科)
2010年8月6日

2010年6月にアメリカのボストンで開かれた世界行動療法認知療法会議(WCBCT2010)は、世界から2300人が参加し、大成功に終わった。日本からは150人近くが参加した。これほど多くの日本人が参加する海外の学会は珍しい。丹野研からも3名の大学院生が参加して盛り上げた。

1.どんな学会が、いつ、どこで開かれるか

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2. どんな領域の研究者が参加するか,どんな雰囲気の学会か.

 WCBCTは、実証にもとづく臨床(エビデンス・ベーストなプラクティス)と科学者-実践家モデルが基本理念になっている。今回の大会テーマは「科学を実践に翻訳するTranslating Science into Practice」である。科学者-実践家モデルが基本であることが明確になっている。
 シンポジウムやワークショップは、領域別に、18のテーマに分けられていた。
すなわち、嗜癖行動、加齢、不安障害、基礎的プロセス、行動医学、子どもと思春期、発達的障害、文化的多様性、摂食障害、気分障害、強迫性障害、パーソナリティ、専門家としての問題、精神病、治療プロセス・文脈、トランスレーショナル・リサーチ、トラウマ、性的・結婚・家族であった。
 今回の大会は、同時に16会場が併列しておこなわれた。時間割では、これら18テーマが色分けで示されていたので、領域を選んで聞くことは容易であった。

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3. 学会の規模はどれくらいか.何人くらい参加するか.

 この大会には、世界55カ国から2300人が参加した。認知行動療法が世界的に定着しつつあることを示している。日本も例外ではなく、日本からは150人近くが参加した。これだけ多くの日本人が大挙して参加する海外の学会は珍しい。
 前回のバルセロナ大会ほどではないが、大規模な大会である。

今回の大会と、過去4回の大会のプログラムを比較してみよう。

 

2001
バンクーバー
2004
神戸
2007
バルセロナ
2010
ボストン
ワークショップ 34本 31本 86本 71本
キーノート講演 3本 4本 34本
招待講演 11本 21本 39本  
ワールドラウンド 12本 5本  
ランチョンセミナー 8本  
教育セッション 3コマ  
シンポジウム 101本 31本 182本 136本
オーラル・セッション 0本 14コマ 51コマ 30コマ
ポスターセッション 363本 200本 890本 860本
公開講座 1コマ  
参加者 2470名 1400名 4000名 2300名
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4.どんなプログラムがあるか,その内容で印象に残ったことは.

a.開会式

 初日の夕方には開会式がおこなわれた。場所はボストン大学のアガニス・アリーナ。5:30開始というので、30分前に行ってみたが、入口が開いていない。回りに誰もいないので、本当にここで開かれるのかと自信がなくなったが、少しして、福井至先生と会ったので、話ながら待った。会場の中に入れたのは6:00頃だった。カンカン照りの中、1時間くらい待たされた。
 開会式は鼓笛隊Middlesex County 4-H Fife-and-Drum Corpsの演奏から始まった。ミドルセックス郡の4Hクラブ(農村の青少年クラブ)の少年鼓笛隊である。アメリカ独立戦争(アメリカ人はアメリカ革命と呼ぶ)の時の軍服を着ている。
 続いて、大会主催者のゲイル・ステケッティ(ボストン大学ソーシャルワーク大学院の教授、学部長)とマイケル・オットー(ボストン大学心理学科教授、アメリカ認知行動療法学会の元会長)の歓迎の辞があった。
 次いで、アメリカ認知行動療法学会ABCTの現会長のフランク・アンドラシク(西フロリダ大学)と、ボストン大学副学長のあいさつがあった。
 次に、今大会の科学プログラム責任者(Scientific Program Chair)のサバイン・ウィルヘルム(ハーバード大学医学校精神科助教授、マサチューセッツ総合病院)と、会場配置責任者(Local Arrangements Chair)のステファン・ホフマン(ボストン大学心理学科教授)があいさつした。
 青いフリスビーをたくさん会場に飛ばしながら話した人がいたが、どういうことなのかは理解できなかった。フリスビーにはWCBCTの模様が入っていたので、おみやげだったのだろう。
 最後にデイビッド・バーロウが、"Cognitive Behavior Therapy in Boston in 1965, 2010, and 2025"というタイトルのオープニング講演をおこなった。

 開会式の余興としては、3つのダンスの出し物があった。まず、アイリッシュ・ダンスは、グールディング・アイリッシュ・ダンス学校の生徒たちが出てきた。小さな女の子たちが、アイルランドの衣装を着て、アイリッシュ・ダンスを踊る。手を動かさずに、足だけでタップを踏みながら踊る独特のものである(映画『タイタニック』においてアメリカに出かけるアイルランド移民が船室で踊っていた)。これが最も面白かった。次のアルゼンチンタンゴやヒップホップは、特に珍しいものではなかった。  開会式では、坂野雄二先生、松見淳子先生、エバンス先生、香港のウィン・ウォン先生などと会った。行動遺伝学で有名なケネス・ケンドラー(現バージニア・コモンウェルス大学医学校)のもとに留学されている音羽健司氏(東京大学医学部附属病院精神神経科)もいらしていた。音羽先生は不安障害の生物学的研究で頭角をあらわしつつある精神科医である。
 初対面だがジーン・クリステラー先生(インディアナ州立大学の心理学科教授)が、日本語で話してきた。以前に京都大学で研究していたことがあり、丹野と福井先生が日本語で話しているのを聞いて懐かしくなったとのこと。福井先生と3人で開会式を聞いた。クリステラー先生が日本語混じりで、プログラムや登壇者の説明をしてくれたので、たいへんありがたかった。
 開会式が終わると、ビールとフライドチキン・ポテトが無料で配られた。地ビールがうまかったので、2杯もらった。ビールを配るときに、身分証を確認していたのは、さすがにアルコール規制の強いニューイングランド地方である。わざわざパスポートを出して、ビールをもらった。

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b.シンポジウム

 6月4日10:30~11:50に、杉浦義典先生(広島大学)が企画したシンポジウムが開かれ、これに司会として参加した。
 タイトルは、「認知行動療法における変化のメカニズム:マインドフルネスが示唆するものMechanisms of Change in Cognitive Behavioral Therapy: Inspired by Mindfulness」である。
 杉浦先生が大会に参加できなくなったため、ピンチヒッターで、丹野と小堀修氏(千葉大学)が参加した。司会は丹野と小堀氏とプログラムには発表されたが、実質的にはほとんど小堀氏がひとりで司会と指定討論をつとめた。
ボストン大学コミュニケーション学部でおこなわれた。
 第1の発表は伊藤義徳氏(琉球大学教育学研究科)。タイトルは、When the Cognitive Reappraisal Works: "It Is Understandable, but Not Entirely Comfortable..." であった。
 第2は、栗原愛氏(早稲田大学人間科学研究科)がRelationships Between Decentering and Worry: Preliminary Analysis Including Etiological Factors というタイトルでおこなった。
 第3の発表は甲田宗良氏(琉球大学医学研究科)で、"Need for Depression": Influence of Frustration or Satisfaction on Willingness というタイトルであった。
 小堀氏の指定討論はよく準備されていて、わかりやすかった。
 聴衆は40名くらいであった。日本のマインドフルネス研究に対しては、世界から期待されるところは多いかもしれない。禅とか東洋的な話を日本人がすると、国際学会では関心が持たれるようである。
 WCBCTのシンポジウムに参加するのは、神戸大会で3回、バルセロナ大会で1回に続き、今回のボストン大会で5回目となる。次回の2013年リマ大会でも、ぜひシンポジウムを企画したい。

 3日にはサルコフスキスのシンポジウムが開かれた。
 シンポジウム番号40 "Nothing Bad Will Happen? Understanding the Impact of Reassurance Across Disorders"
サルコフスキス(ロンドン大学精神医学研究所)が司会をして、小堀修氏(千葉大学)、S. Linton(スウェーデンのオレブロ大学)、A. Radomsky(カナダのコンコーディア大学)が発表した。小堀氏の発表は、よく準備されていて、会場から大受けであった。
 指定討論にはスタンレイ・ラックマン(ブリティッシュ・コロンビア大学)の予定であったが、体調の不良のため来られなかったのは残念だった。

 3日には、クリニカル・ラウンドテーブル・ディスカッションがおこなわれた。
Clinical Roundtable Discussion "The Therapeutic Relationship in Cognitive Behavioral Therapy"
 リーヒー(アメリカ認知療法研究所)が司会をつとめ、ギルバート(タービー大学)、ニューマン(ペンシルバニア大学)、ダティリオ(ハーバード大学医学校)、エプスタイン(メリーランド大学)といった第一線の臨床家が話題提供をした。ただし、こうした臨床的な話題は、スライドなどの視覚提示が少ないため、日本人にとっては、話し言葉だけで理解するのはなかなか難しいところがある。

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c.招待講演とキーノート講演

 多くの業績を上げた著名な研究者・臨床家をゲストとして大会に招待して、講演がおこなわれた。各領域をリードする研究者・臨床家が45~60分で講演した。中でも、主賓級のゲストの講演はキーノート講演(基調講演)と呼ばれる。
 講演では、だいたい自分の研究をレビューして、研究のオリジナリティを主張する。その研究者・臨床家がどのような問題意識から研究し、どんなことで苦労し、何を発見したかがわかり、とても勉強になる。英語の勉強にもなる。講演は英語でおこなわれるが、多くの人はパワーポイントを使って、スライドを提示するので、言いたいことはだいたい理解できる。ただし、質疑応答は、理解するにはなかなか骨が折れる。講演が終わると、講演者の前に行列ができる。個別に質問したり、コネを作るためである。著名人ほど長い列ができる。

 3日の夕方5時からに、アーロン・ベックとデイビッド・クラーク(ロンドン大学精神医学研究所)の対談を聞いた。「ベックとクラークとの対話」というタイトルであった。
 500人くらい入る大講堂が、超満員となり、立ち見があふれた。座席と舞台の間にも人が座っていた。さらには、舞台の後ろにもスペースがあったため、舞台の後ろにも人が座ったほどである。丹野は、その前のプログラムの時からこのこの会場で聞いていたので、幸いにも前の方で見られた。
 聴衆は、若い人が多く、外国人風の人も多い(英語でない言語で話していた)。ベックがWCBCTに出るのは、2001年のバンクーバー大会以来である。9年ぶりの出演なので、人があふれるのも当然である。また、クラークはベックと並ぶ認知行動療法の創始者であり、クラークの話はたいへんわかりやすい。
 対談は、まず、統合失調症のCBTの話から入り、診断横断的な治療法について、治療関係について(極端な話がコンピューターによる治療)進んだ。
 あとは、フロアからの質問に答える形で進んだ。しかし、フロアからの質問は、話題があちこちに飛んでしまうので、散漫なトークになってしまい、残念である。もっと認知行動療法の未来について、ベックとクラークの考え方について、はじめからテーマを決めて話してほしかったと思う。
 話が終わってから、スタンディング・オベーションとなり何分も拍手が鳴りやまなかった。

 その他、招待講演をおこなった著名な参加者は以下の通りである。

バーレット(クイーンランド大学)
「家族と学校コミュニティにおいてリジリアンスを作る」
Paula Barrett (The University of Queensland, Australia) Building Resilience in Families and School Communities - Quo Vadis?

バーロウ(ボストン大学)
招待講演「普及:10億ドルをかけた挑戦」
David H. Barlow (Boston University, USA)
Invited Address: Dissemination: The (Multi) Billion Dollar Challenge: Are We Getting It Right?

ボーゲルズ(マーストリヒト大学)
「子どもの不安障害の原因と治療における家族の役割」
Susan Bögels (University of Maastricht, the Netherlands)
The Role of Fathers in the Aetiology and Treatment of Childhood Anxiety Disorders

ブラウネル(エール大学)
「世界のダイエットを変えることができるか?」
Kelly Brownell (Yale University, USA)
Is There the Courage to Change the World's Diet?

チャンブレス(ペンシルバニア大学)
「不安とカップル」
Dianne Chambless (University of Pennsylvania, USA)
Anxiety and Couples: For Better or for Worse

DAクラーク(ニュー・ブランスウィック大学)
「強迫観念のパラドクス」
David A. Clark (University of New Brunswick, Canada)
Too Much in the Head: A Paradoxical Look at Obsessions

DMクラーク(ロンドン大学精神医学研究所)
「対人恐怖:認知理論と認知療法」
David M. Clark (Institute of Psychiatry at Kings College London, UK)
Social Phobia: Cognitive Theory and Therapy

コロム(スペイン、神経科学臨床研究所)
「心理療法:医原病から実証にもとづく医学治療へ」
Francesco Colom (Bipolar Disorders Program, Clinical Institute of Neuroscience, Spain)
Psychotherapy: From Iatrogenia to an Evidence-Based Medical Treatment

クラスケ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
「不安障害へのエクスポージャー法中の学習を最適化する」
Michelle Craske (University of California, Los Angeles, USA)
Optimizing Learning During Exposure Therapy for Anxiety Disorders

デイビス(エモリー大学)
「薬物療法と心理療法を結びつける新しい道」
Michael Davis (Emory University, USA)
Novel Ways to Combine Medication with Psychotherapy: Improving Extinction Learning During Psychotherapy

デ・ジョング(グローニンゲン大学)
「無意識と精神病理学」
Peter de Jong (University of Groningen, the Netherlands)
The “Unconscious” and Psychopathology: New Insights from Implicit Cognition Research and their Clinical Implications.

エーラーズ(ロンドン大学精神医学研究所)
「外傷後ストレス障害の病理と治療への認知アプローチ」
Anke Ehlers (Institute of Psychiatry, Kings College London, UK)
A Cognitive Approach to Understanding and Treating Posttraumatic Stress Disorder

エンメルカンプ(アムステルダム大学)
「強迫性障害への認知行動療法」
Paul Emmelkamp (University of Amsterdam, the Netherlands)
Cognitive Behavior Therapy for Obsessive-Compulsive Disorder: The State of the Art

フェアバーン(オクスフォード大学)
「診断横断的認知行動療法」
Christopher Fairburn (Oxford University, UK)
Transdiagnostic CBT: Potential Strengths and Weaknesses

フリーストン(ニューカッスル大学)
「臨床スーパービジョン:技か科学か?
Mark Freeston (Newcastle University, UK)
Clinical Supervision - Art or Science?

ガレティ(ロンドン大学精神医学研究所)
「精神病への認知行動療法の将来」
Philippa Garety (Institute of Psychiatry, UK)
The Future of CBT for Psychosis: Theory, Research Findings and Implications for New Therapy Developments

ハールウェーグ(ブラウンシュバイグ技術大学)
「カップルを強化する」
Kurt Hahlweg (Technical University of Braunschweig, Germany)
Strengthening Couples: Dissemination of Interventions for the Treatment and Prevention of Couple Distress

ヘイズ(ネバダ大学)
「効果的な訓練をどう作るか? ウサギとカメと診断横断的プロセス」
Steven C. Hayes (University of Nevada, USA)
How Do We Create a More Progressive Discipline? Turtles, Hares, and Transdiagnostic Processes

ホロン(バンダービルト大学)
「うつ病の治療と予防における認知行動療法」
Steven Hollon (Vanderbilt University, USA)
Cognitive Behavior Therapy in the Treatment and Prevention of Depression

キーン(国立PTSDセンター、ボストン大学)
「トラウマ、戦争、テロリズム」
Terry Keane (National Center for PTSD, Boston VA Healthcare System and Boston University, USA)
Trauma, War, and Terrorism: Recent Findings in the Treatment of PTSD.

リネハン(ワシントン大学)
「境界性人格障害への弁証法的行動療法」
Marsha Linehan (University of Washington, USA)
Dialectical Behavior Therapy for BPD: an Overview of the Data

マーラット(ワシントン大学)
「嗜癖行動の治療におけるマインドルネス再発予防」
G. Alan Marlatt (University of Washington, USA)
Mindfulness-Based Relapse Prevention in the Treatment of Addictive Behaviors

マクナリー(ハーバード大学)
「精神病理学の実験的解明」
Richard McNally (Harvard University, USA)
Experimental Exploration of the Frontiers of Psychopathology

モリン(ラベル大学)
「不眠症への認知行動療法」
Charles Morin (Laval University, Canada)
CBT for Primary and Comorbid Insomnia: New Trends in Treatment Development and Dissemination

ムノズ(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)
「健康不平等を減らすために認知行動アプローチを用いる
Ricardo F. Munoz (University of California, San Francisco, USA)
Using behavioral and cognitive approaches to reduce health disparities worldwide: From individual therapy to evidence-based Internet interventions.

オレンディク(バージニア・ポリテクニク研究所、バージニア州立大学)
「子どもと思春期の恐怖症と不安障害の治療」
Tom Ollendick (Virginia Polytechnic Institute and State University, USA)
Treatment of Phobic and Anxiety Disorders in Children and Adolescents: Where To From Here

パーソンズ(サンフランシスコ湾地区認知療法センター)
「ケース・フォーミュレーション主導の認知行動療法
Jacqueline B. Persons (San Francisco Bay Area Center for Cognitive Therapy, USA)
Case Formulation-Driven Cognitive-Behavior Therapy

ペトレンコ(ラトガース大学)
「発達障害」
Michael Petronko (Rutgers University, USA)
Developmental Disabilities: In Search of Practice Based on Evidence, a 40 year Sojourn

ピント(ナポリ精神衛生局)
「精神病への認知行動療法」
Antonio Pinto (Department of Mental Health of the Province of Naples, Italy)
CBT of Psychosis: Historical Evolution and Current Approaches

カーク(プエルト・リコ大学医学部)
「恐怖の克服:消去の神経学的メカニズム」
Gregory Quirk (University of Puerto Rico School of Medicine, Puerto Rico)
Overcoming our Fears: Neural Mechanisms of Extinction

リーフ(フィリップ大学)
「医学的疾患の心理学的介入」
Winfried Rief (Phillips University-Marburg, Germany)
Psychological Interventions in Medical Conditions: Advances of Behavioral Medicine

ヤング(ニューヨーク認知療法センター)
「人格障害に対するスキーマ療法の最近の進歩」
Jeffrey Young (Cognitive Therapy Center of New York, USA)
New Advances in Schema Therapy for Personality Disorders

ゼイス(ワシントンDC退役軍人中央局)
「高齢者の健康ケアを高める」
Antonette M. Zeiss (VA Central Office in Washington, DC, USA)
Integrated Health Care for an Aging Population: CBT As a Component of Comprehensive Care For Older Adults

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d.ワークショップ


 本大会では、合計71本のワークショップが開かれた。バルセロナ大会に次いで多い。これほど多数のワークショップが同時に開かれる大会は珍しい。
 大会前日のワークショップ(Pre-Congress Workshop)が20本。大会中のワークショップ(In-Congress Workshop)が30本。マスター・クリニシャン・セミナーが21本である。
 WCBCTのワークショップの質の高さとわかりやすさは、特筆すべきものである。ワークショップに参加すると、明日からでもすぐに臨床の現場で使えるスキルが自然に身につけられる。配布資料もていねいに作ってあり、それをもらうだけで元が取れたように感じる。
 「マスター・クリニシャン・セミナー」は、ワークショップに準じるものであり、ベテランの治療者が、ひとりの事例について、治療技法を説明し、それをビデオテープで公開するプログラムである。50名以下の少人数しか参加できない。
 ちなみに、丹野自身は、2001年のバンクーバーWCBCTでウェルズのワークショップに初めて出て以来、ワークショップの魅力に取り憑かれた。それ以来、日本にワークショップを定着する活動をずっとおこなってきた。最近では、日本でも、臨床系の学会(例えば、日本認知療法学会、日本行動療法学会、日本心理臨床学会、日本カウンセリング学会)では、ワークショップを積極的に取り入れるようになったのは喜ばしい。

 ワークショップやマスター・クリニシャン・セミナーは、大会参加費とは別に、参加費を払う必要がある。学術大会とは独立に開かれる「臨床家のための有料講習会」という位置づけであるからである。ワークショップ参加費は、45ドルから110ドルである。

ボストンWCBCTのワークショップ参加費
  大会前日(6月2日)の
ワークショップ
大会中(6月3~5日)
のワークショップ
マスター・クリニシャン
一般 110ドル 50ドル 65ドル
大学院生および
院卒後2年まで
80ドル 45ドル 50ドル

 ワークショップやマスター・クリニシャン・セミナーは、予約制であり、参加人数が50名以下に制限されている。このため、参加するためには、事前に、大会ホームページから予約をしなくてはならない。人気講師のワークショップはすぐに満員となり締め切られてしまうので、早く予約する必要がある。人気講師の当日券はほとんど手に入れることができない。

大会前日のワークショップ(PRE-CONGRESS WORKSHOPS)

アブラモウィッツ(ノースカロライナ大学)
ウィッテル(ブリティッシュ・コロンビア大学)
「強迫性障害の治療」
Jonathan Abramowitz (University of North Carolina, USA), Maureen Whittal (University of British Columbia, Canada)
Treating OCD: How to Supercharge Exposure Therapy with the Latest Cognitive Techniques

バウコム(ノースカロライナ大学)
「カップル認知行動療法」
Donald H. Baucom (University of North Carolina-Chapel Hill, USA)
Cognitive-Behavioral Couple Therapy: Attending to the Relationship and the Individual

デルベイス(ペンシルバニア大学)
「うつ病の認知療法の効果を最大化する」
Robert J. DeRubeis (University of Pennsylvania, USA)
Maximizing the Impact of Cognitive Therapy for Depression: Insights from Clinical Practice, Supervision and Research

ファヴァ(ニューヨーク州立大学バッフアロー校)
「ウェル・ビーイング療法」
Giovanni Fava (State University of New York at Buffalo, USA and University of Bologna, Italy)
Well-Being Therapy. An Introductory Course

フェアバーン(オクスフォード大学)
「診断横断的認知行動療法」
Christopher Fairburn (Oxford University, UK)
Transdiagnostic CBT: Potential Strengths and Weaknesses

ギーア(ウィリアムカレッジ、マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学医学部)
サフラン(マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学医学部)
「医学的疾患を持つ患者の抑うつと不安に対する認知行動療法」
Steven A. Safren (Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, USA)
Joseph Greer (Williams College; Mass. General Hospital and Harvard Medical School, USA)
Applications of CBT for Depression and Anxiety in Medically-ill Populations

ジョンソン(マイアミ大学)
「双極性感情障害に対する実証にもとづく介入」
Sheri Johnson (University of Miami, USA)
Empirically Supported Interventions for Bipolar Disorder: Psychoeducational and Cognitive Strategies

ケンドール(テンプル大学)
「若者の不安障害への治療」
Philip C. Kendall (Temple University, USA)
Treating Anxiety Disorders in Youth: Clinical Procedures Informed by Developmental, Cognitive, Behavioral, and Family Literatures

リーヒー(アメリカ認知療法研究所)
「認知行動療法における治療関係」
Robert L. Leahy (American Institute for Cognitive Therapy, USA)
Using the Therapeutic Relationship in Cognitive Behavioral Therapy

リネハン(ワシントン大学)
「マインドルネス、ウィリングネス、ラディカル・アクセプタンス」
Marsha Linehan (University of Washington, USA)
Mindfulness, Willingness and Radical Acceptance: Translating Zen Practices into Behavioral Skills

モンティ(ブラウン大学)
「切望に対する関係論的研究」
Peter Monti (Brown University, USA)
Translational Research on Craving: Where Have We been? Where Are We Going?

モラウスカ(クイーンランド大学)、サンダース(クイーンランド大学)
「行為問題を持つ子供と思春期青年への介入」
Alina Morawska (University of Queensland, Australia)
Matthew Sanders (University of Queensland, Australia)
A multilevel system of evidence parenting interventions for children and adolescents with conduct problems

パデスキー(認知療法センター)
「カオスから明瞭へ:複雑事例に対する新段階モデル」
Christine Padesky (Center for Cognitive Therapy, USA)
From Chaos to Clarity: A New Step-by-Step Model for Complex Cases

ピアセンティニ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、ウッズ(ウィスコンシン大学)
「子どものチックに対する包括的行動的介入」
John Piacentini (University of California, Los Angeles, USA)
Douglas W. Woods (University of Wisconsin-Milwaukee, USA)
Comprehensive Behavioral Intervention for Tics in Children and Adolescents

レズニック(国立PTSDセンター、ボストン大学)
Patricia A. Resick (National Center for PTSD, Boston VA Healthcare System and Boston University, USA)
サルコフスキス(ロンドン大学精神医学研究所)
「健康不安に対する認知行動療法」
Paul Salkovskis (Institute of Psychiatry, Kings College London, UK)
Treating Health Anxiety Using CBT: Not the Worried Well, Rather the Walking Wounded

シーガル(トロント大学)
「気分障害に対するマインドルネスと再発予防」
Zindel V. Segal (University of Toronto, Canada)
Mindfulness and Relapse Prophylaxis in Mood Disorders

タリア(マンチェスター大学)
「統合失調症と精神病に対する認知行動療法」
Nick Tarrier (University of Manchester, UK)
Cognitive Behaviour Therapy for Schizophrenia and Psychotic Disorders. What is Achievable?

ウェルズ(マンチェスター大学)
「メタ認知療法:PTSDと全般性不安障害への適用」
Adrian Wells (University of Manchester, UK)
Metacognitive Therapy: Applications to Treating PTSD and Generalized Anxiety Disorder

ヤング(ニューヨーク認知療法センター)
「境界性人格障害に対するスキーマ療法」
Jeffrey Young (Cognitive Therapy Center of New York, USA)
Schema Therapy for Borderline Personality Disorder

マスター・クリニシャン・セミナー(Master Clinician Seminars)

「マスター・クリニシャン・セミナー」とは、ひとりの事例について、治療技法を説明し、それをビデオテープで公開するもの。50名以下の少人数で開かれる。

エイミア(サンディエゴ州立大学)
「注意バイアスの変容」
Nader Amir (San Diego State University, USA)
Modification of Attention Bias: A Novel Treatment for Anxiety Disorders

アーンツ(マーストリヒト大学)
「境界性人格障害に対するスキーマ療法」
Arnoud Arntz (University of Maastricht, the Netherlands)
Schema Therapy for Borderline Personality Disorder

ジュディス・ベック(ペンシルバニア大学)
「体重減少と維持に対する認知行動療法」
Judith S. Beck (University of Pennsylvania, USA)
A Cognitive Behavioral Approach to Weight Loss and Maintenance

ボーコベック(ペンシルバニア州立大学)
「奇跡的な回復」
Thomas Borkovec (Pennsylvania State University, USA)
Miracle Cures Do Happen: Two Examples from a Cognitive Therapy Session and an Interpersonal/Emotional Processing Session

クリスチャンセン(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)「カップル療法におけるアクセプタンスと変化」
Andrew Christensen (University of California, Los Angeles, USA)
Acceptance and Change in Couple Therapy

ダッズ(ニュー・サウス・ウェールズ大学)
「行動的親訓練を越えて」
Mark Dadds (University of New South Wales, Australia)
Beyond Behavioral Parent Training: Making Family Interventions Really Work for Young Conduct Problem Children.

ディギセップ(セント・ジョン大学)
「思春期の怒りに対する包括的治療」
Raymond DiGiuseppe (St. John’s University, USA)
A Comprehensive Treatment for Anger Problems with Adolescents

ドブソン(カルガリー大学)
「うつ病における否定的な認知への対応法」
Keith Dobson (University of Calgary, Canada)
Working with Negative Cognition's in Depression: Evidence-based and Utility-based Strategies for Cognitive Change

ガレティ(ロンドン大学精神医学研究所)
「妄想に対する新しい介入法」
Philippa Garety (Institute of Psychiatry, UK)
New Ways of Working with Delusions

ハルフォード(クイーンランド大学)
「認知行動療法の効果を高める3つの新しい方法」
W. Kim Halford (University of Queensland, Australia)
Three Exciting New Ways to Make Cognitive Behavioural Couple Therapy Work Better

ケンドール(テンプル大学)
「若者の不安に対する認知行動療法」
Philip C. Kendall (Temple University, USA)
The Clinical Side of CBT for Anxious Youth: Tips from the Trenches

ミクロウィッツ(コロラド大学)
「双極性障害の治療における家族の役割」
David J. Miklowitz (University of Colorado at Boulder, USA)
The Role of the Family in the Course and Treatment of Bipolar Disorder

ミューザー(ダートマス医科大学)
「精神病への管理と回復」
Kim T. Mueser (Dartmouth Medical School, USA)
Illness/Wellness Management and Recovery for Severe Mental Illness: Current Status and Future Directions?

オスト(ストックホルム大学)
「特定の恐怖症への短期的効果的治療」
Lars-Göran Öst (Stockholm University, Sweden)
Rapid and Effective Treatment of Specific Phobias

パーソンズ(サンフランシスコ湾地区認知療法センター)
「ケース・フォーミュレーションの使い方」
Jacqueline B. Persons (San Francisco Bay Area Center for Cognitive Therapy, USA)
Developing and Using a Case Formulation to Guide Treatment

ラピー(マッカリー大学)
「子どもの不安に対するグループ治療」
Ron Rapee (Macquarie University, Australia)
Treatment of Anxious Children in a Group Format

レズニック(国立PTSDセンター、ボストン大学)
サンチェス-ソーサ(メキシコ国立大学)
「恵まれない慢性的医学疾患患者に対する認知行動療法」
Patricia A. Resick (National Center for PTSD, Boston VA Healthcare System and Boston University, USA)
Juan Jose Sanchez-Sosa (National University of Mexico, Mexico)
Cognitive-Behavioral Interventions for Disadvantaged Participants with Chronic Medical Conditions

サッターフィールド(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)
「慢性進行性疾患による終末期に対する認知行動療法」
Jason Satterfield (University of California, San Francisco, School of Medicine, USA)
Cognitive-Behavioral Therapy for the Beginning of the End of Life: Interventions for Chronic, Progressive Illness

スプリング(ノースウェスタン大学、ファインバーグ医科大学)
「多重健康リスク行動の治療」
Bonnie Spring (Northwestern University, Feinberg School of Medicine, USA)
Treatment of Multiple Health Risk Behaviors: Poor Quality Diet, Inactivity, Smoking

ウェルズ(マンチェスター大学)
「大人の不安に対するメタ認知療法」
Adrian Wells (University of Manchester, UK)
Metacognitive Therapy with Adult Anxiety: Case Formulation and Meta-Level Change Strategies

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e.ポスター発表と口頭発表


 ポスター発表は860本おこなわれた。場所はジョージ・シャーマン組合という建物の2階である。
 口頭発表(オープン・セッション)は、30セッションが組まれ、約150本の発表があった。
 ポスター発表は、かなり厳選したらしく、査読は厳しかった。会場配置責任者のステファン・ホフマン教授に坂野雄二先生が聞いたところによると、ポスター会場が狭かったため、申込みのあった1100本のポスターすべてを受け入れることができないので、860本に絞ったということである。
 確かにポスター展示会場は狭く、また照明も不十分な気がした。
 そうした条件にもかかわらず、多くの若手研究者がまじめに研究発表をしていた。特に日本や韓国の若手研究者・大学院生の発表が多いことが目立った
 丹野は、「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」の日本認知療法学会の選考委員として、また基金の世話人として、助成者のポスター発表を見て回った。後述のように、助成者は英語での発表のために真剣に準備をして、まじめに発表に取り組んでいることが伝わり、好感を持った。

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f.ボストン大学不安関連障害センター(CARD)のオープン・ハウス


 6月2日の12:00から17:00まで、ボストン大学不安関連障害センターのオープン・ハウスがあったので、見学した。
 ボストン大学不安関連障害センター(Center for Anxiety and Related Disorders)は、CARDと略される。この施設は、ボストン大学の心理学科の付属施設であり、前述のデイビッド・バーロウが主任をつとめている。不安障害を中心とした認知行動療法専用の臨床施設である。
 この施設で、バーロウは、パニック障害に対する認知行動療法の効果研究をおこなった。このような効果研究が実証にもとづく実践へと発展した。効果研究の成果をまとめるために、アメリカ心理学会の第12部会(臨床心理学部会)はタスクフォースを作ったが、これを組織したのがバーロウだった。タスクフォースは1993年に心理的治療のガイドラインを発表した。このガイドラインは大きな反響を呼び、これを転換点として、認知行動療法の革命が定着し、アメリカの臨床心理学は急速に科学として確立されたのである。その革命の牙城となったのが、バーロウひきいるCARDである。
 このような歴史的な意義のある臨床施設なので、世界中から見学希望者が後をたたない。今回のWCBCTにおいても見学を希望する人がとても多いので、センターでは「オープンハウス」の日を設けて、内部を自由に見学してもらう機会を作ったとのことである。WCBCT参加者に電子メールで案内が来ていた。
 地下鉄のグリーンラインのケンモア・スクエア駅で降りると、ボストン大学の建物があり、その中にひとつの建物(648 Beacon Street)の6階にこの施設はある。この建物の1階はベーグル屋さんである。CARDのビルの近くには、ボストン・ユニバーシティのブックストアがある。
 CARDは、全般性不安障害やパニック障害、強迫性障害などの不安障害の心理学的治療の施設である。年間の初診は大人350名、こども125名、計500名ほどである。スタッフの合計は70名である。臨床心理士は7名、他に、臨床心理学の訓練生がいる。医師はいない。認知行動療法が中心で、だいたい12週間のプログラムをおこなっている。また、臨床心理士の訓練施設にもなっている。いろいろな臨床・研究のプログラムが走っている。例えば、「不安障害と気分障害の分類」、「統合治療プログラム」、「対人不安プログラム」、「トランスレーショナル・リサーチ・プログラム」、「小児・思春期治療プログラム」、「摂食障害プログラム」、「パニック障害と特定恐怖症の1週間集中治療プログラム」などである。
 丹野は、2003年にボストンでAABT(アメリカ行動療法促進学会、現在のアメリカ認知行動療法学会の前身)が開かれた際に、CARDを訪ねたことがある。予約もなしに、飛び込みで訪ね、拙い英語で日本から見学に来たことを伝えると、ナース・アドミニストレーターのボニー・コンクリンさんが対応してくれた。論文をもらっているうちに、幸運なことに、バーロウ本人があらわれて、あいさつをすることになった。バーロウは、2004年に神戸で開かれる世界行動療法認知療法会議にやってきたので、そこで再会を果たすことができた。
今回、CARDを訪ねるのは2回目である。CARDに着いたのは3時半ころであったが、見学者であふれていた。エレベーターで6階に上ると、受付と待合室がある。センターには多くの部屋がある。その中のひとつの部屋に、CARDの本や論文やパンフレッとが並べてある。20名くらいの見学者がいて、数人のスタッフ(大学院生だろうか)から、説明を受けていた。お菓子や飲み物も用意されていた。他の部屋はセラピーが行われているらしく、入れなかった。あとで聞くと、エクスポージャー法のために使うさまざまな設備、例えば、閉所恐怖症のエクスポージャー法に使う小さい物置部屋(ひとり座れるような小さな部屋で扉を閉めることができる)もあるということである。不安に慣れるための生々しい映像なども用意されているとのこと。
 入口には、バーロウ本人がいて、人と話していた。こちらを見て、「元気か」と言ってくれたが、世界のバーロウがこちらを覚えているのかどうかは不明である。
 また、このセンターには、ステファン・ホフマンの研究室もある。ホフマンは、ボストン大学心理学科教授で、不安障害の認知行動療法で有名である。CARDの中に、「心理療法と情動研究室」というグループを作って研究している。PERLと略される。2009年には、東京で開かれた日本不安障害学会に招待されて来日し、シンポジウムに参加した。このシンポで、丹野は坂野雄二先生とともに司会をつとめた。シンポジウムの後、ホフマンは日本の若手の臨床心理学者との懇談会を開いた。今回のWCBCTでは、会場配置責任者(Local Arrangements Chair)をつとめている。
 このオープンハウスには、坂野雄二先生も参加し、このバーロウと話し、ホフマンとは1時間くらい彼の部屋で話したとのことである。

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g.展示ブース


 国際学会では、いろいろな団体のブースが出る。
 書店のブースで新刊本を見られるのも楽しみである。また、学会のブースもあり、アメリカ認知行動療法学会ABCTや、世界行動療法認知療法会議WCBCTの2013年リマ大会のブースもあった。2011年にアイスランドのレイキャビクで開かれるヨーロッパ認知行動療法学会EABCTや、今年の日本行動療法学会の名古屋大会のパンフレットも置かれていた。
 さらに、病院や臨床施設のブースも多く、たくさんのパンフレット類を置いていた。例えば、マサチューセッツ総合病院やマクレーン病院である。今回、学会の合間を利用して、これらの有名な病院を見学することができた。マサチューセッツ総合病院は、地下鉄チャールズ駅のすぐ近くにある大きな病院であり、ハーバード大学医学校と提携している。病院の中には、世界で初めて麻酔を使った手術室が展示されている。精神科の病棟もあるが、内部を見学することはできなかった。
 精神科病院として有名なマクレーン病院は、ハーバード大学からバスで15分ほど行った静かな山の中にある。都市計画家のオルムステッドが周囲の自然の景観を利用して建築した。マクレーン病院で治療を受けた有名人はたくさんいる。音楽家では、ジェームス・テイラー、レイ・チャールズ、マリアンヌ・フェイスフル、作家フィッツジェラルドの妻ゼルダ、都市計画家オルムステッドなどである。また、ノーベル経済学賞を受賞した数学者ジョン・ナッシュ(1928~ )もそのひとりである。彼はMITの教員だったが、統合失調症に苦しみ、1959年にマクレーン病院に入院した。その後、統合失調症から回復し、プリンストン大で研究を続けている。彼は、映画『ビューティフル・マインド』(2001年、ロン・ハワード監督、アカデミー賞監督賞)のモデルになった。
 マクレーン病院には強迫性障害研究所(OCD研究所)がある。強迫性障害(OCD)を専門に治療するための施設であり、全国から重いOCDで悩む人がやってきて、約20人が入院している。医学的治療と心理療法(反応妨害エクスポージャー法や認知療法)の総合的治療をおこなっている。OCD財団の援助で設立された。所長をつとめるのは、精神科医のマイケル・ジェニケである。
 この研究所の行動療法家であるリー・ベアーが書いた『強迫性障害からの脱出』(越野好文・中谷英夫・五十嵐透子訳、晶文社、2000)は、患者のための行動療法の教科書として高く評価されている。今大会の科学プログラム責任者のサバイン・ウィルヘルム(ハーバード大学医学校精神科助教授)は、この研究所で臨床心理士として治療に当たっていた。また、この研究所でセラピストをしていたのが堀越勝氏(現駿河台大学教授)である。

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5.有名な研究者でどんな人が参加するか.

 招待講演をおこなった著名な参加者は以下の通りである。

大会の時期は、アイスランドの火山噴火の噴煙で、ヨーロッパ中の空の便が止まってすぐの時期であった。ヨーロッパからの参加者はやや減ったそうである。マーク・ウィリアムズ(オクスフォード大学)などは、この噴火の影響で、ボストンに来られなかったそうである。

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6.日本から誰が参加していたか.

この大会では、日本人が多く参加していた。気がついたことをまとめよう。

a.大会役員として

 この大会では、日本人が多く関与している。
 科学的レビュー委員会(Scientific Review Committee)として、松見淳子先生(関西学院大学)、杉浦義典先生(広島大学)、陳峻文先生(東海女子大学、現Flinders University)が選出されていた。松見先生は、「文化多様性Diversity」のテーマの責任者もつとめている。

b.日本人の大学院生がきわめて多い

 今回は、若い大学院生が多く参加していた。これまで国際学会というと、中堅のリピーターが参加していることが多かった。ところが、今回は、それに加えて、大学院生が研究室ぐるみで大挙して参加していた。大学院生が国際学会で英語で発表するのは当り前という雰囲気になったのはうれしい。国際学会に参加するのは、若ければ若いほど刺激があるので、たいへん望ましい。
 大学院生が多く参加できた原因として、「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」の経済的後押しがある。これについては後述する。

c.ワークショップに日本人も出るようになった

 ボストン大会では、多くの若い日本人がワークショップに参加したことは特筆すべきである。
 基金からの助成者においても、例えば、バーロウ、ジュディス・ベック、ウェルズ、パーソンズ、シーガルなどのワークショップやマスター・クリニシャン・セミナーに参加して勉強していた。ヤングのスキーマ療法のワークショップには、日本人が5名も参加していたという。
 日本人が英語のワークショップに参加するのは度胸がいるが、若い大学院生が、苦手意識を持たず、英語のワークショップに積極的に飛び込んでいることは、たいへん頼もしい。積極性のある若手が日本の認知行動療法界に増えている。ワークショップ参加費は110ドル(約1万円)であり、学生割引でも80ドル(約7000円)かかる。学生にとっては決して安い金額ではない。それでも、自腹を切って、臨床スキルを獲得したい意欲がある。

d.WCBCTの第3世代

 これまでのWCBCTの歴史を振りかえてみると、2001年のバンクーバーでは、坂野先生、松見先生、丹野といった第1世代が中心であった。
 2004年の神戸大会では、第1世代の研究室から育った第2世代の研究者が中心であった。つまり、坂野研究室の神村先生・嶋田先生・鈴木先生、丹野研の石垣先生・毛利先生・杉浦先生といった方々である。
 2007年のバルセロナ大会では、第2世代がそれぞれ研究室を開いて、大学院生を育て、その大学院生が多く参加していた。
 2010年のボストン大会では、第2世代の次の大学院生たちが中心となっていた。つまり第3世代である。ボストン大会の成功は、この第3世代のパワーによる。今の大学院生の多くは、2004年以降に入学した世代であるから、「神戸を知らない世代」となっている。
 次回のリマ大会では、第3世代がそれぞれ研究室を開いて、第4世代の大学院生を育てているだろう。

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7.発表申し込みの〆切はいつか,大会参加費はいくらか.

 ポスター発表と口頭発表の申し込みと抄録の締め切りは、2009年12月4日であった。

大会参加費
  事前登録
(2010年2月15日まで)
事前登録
(2010年2月15日以降)
当日登録
一般 325ドル 375ドル 450ドル
大学院生および
院卒後2年まで
225ドル 275ドル 325ドル

大会参加費には、プログラム、アブストラクトCD、バッジ、コーヒーブレーク代、開会セレモニー、歓迎パーティの費用が含まれる。

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8.大会までにおこなったこと.

a.若手支援金の世話役

 今回も、「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」の経済的後押しがあり、多くの若手がボストン大会に参加することができた。
 2004年のWCBCT神戸大会を開くために、日本行動療法学会,日本行動分析学会、日本認知療法学会の主催3学会は、多くの大会資金を集めた。学術会議や学術振興会に申請したり、県や市などの寄付を求めたり、企業からの協力を求めた。丹野も2003年の暮れに、多くの企業を回って、資金集めをした。大会資金が赤字になると、学会の持ち出しとなる。そうならないように、非常に努力したのである。また、ひとりでも大会参加者が多くなるように、いろいろなところでWCBCTの宣伝をした。
 ふたを開いてみると、幸い、寄付金も多く集まり、大会参加者も多かったため、大会運営は楽になり、大会後には、少しの剰余金が出た。これをどのように使用するか、主催3学会は協議した。神戸大会の成果を書籍として出版するという案も出たが、これから3学会を背負って立つ若い世代に対して、WCBCT参加の支援をするべきだという結論になった。
 そこで、「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」を発足させ、WCBCT2004の財務委員長丹羽真一先生が管理することになった。この基金の目的は、わが国における行動療法・認知療法・認知行動療法の一層の発展に資するために、WCBCT2007およびWCBCT2010で発表する若手研究者を助成することである。3学会のいずれかに所属している研究者を対象として、10万円が支給される。すでにWCBCT2007(バルセロナ)においては、24名の若手研究者への助成をおこなった。丹野は、バルセロナ大会において、その選考委員として、世話役的な役割をした。
 また、今回のボストン大会においても、世話役的な役割を果たした。52名の申請者からの申請用紙をまとめて、選考委員に送ったり、申請者リストを作成して、書類を点検したりした。また、選考後は、助成者に連絡したり、送金の準備をしたりした。大会中は、助成者の発表のほとんどを見て回った。大会後も、助成者からの報告書をまとめたり、基金の残金の処理の仕事をした。これらは結構たいへんな作業量になるし、間違いがあっては困るので、気を遣う作業である。
 こうした基金も、若手が多く参加する後押しをした。その意味では、2004年に、神戸大会のために、東京の大企業を回って、寄付集めをして回ったことも、今になって生きてきたのである。苦労したこともそれなりに報われている。神戸大会はここでも大きな意義を持っているのである。
 このボストン大会においては、34名の若手研究者への助成をおこなった。日本行動療法学会から松見淳子、中川彰子、杉浦義典、日本認知療法学会から丹野義彦、日本行動分析学会から、園山繁樹、青山謙二郎、野呂文行の各氏が選考委員をつとめた。
 助成希望を募ったところ、〆切の2010年1月末日において、52名の応募があった(前回のWCBCT2007の応募者42名と比べて10名増えており、若手の関心が強まっていることを示している)。応募者の中から、年齢の若い会員を優先して選考がおこなわれた。選考経過はすでに3学会のホームページで公表してある。
 こうして、34名の助成対象者に対して、ひとり10万円の助成をおこなった。助成者は、終了後1ヶ月以内に1200字の発表報告書を提出することが求められた。丹野はその報告書のまとめにかかわったが、それを読むと、以下の点から、今回の助成金が一定の成功を納めたことがわかる。

①丹野は助成者のポスター発表やシンポジウムのほとんどを回ってみたのだが、すべての助成者が、英語での発表のために真剣に準備をして、まじめに発表に取り組んでいることが伝わり、好感を持った。また、助成者の報告書を読んでも、まじめにポスター作りに励み、当日も一生懸命英語で説明している様子が浮かんでくる。

②助成者のほとんどは、20歳台の大学院修士課程・博士課程の学生であった。今回初めて国際学会に参加したという人も多かったし、初めて海外に出たという人もいた。中には、学会発表そのものが初めてという学生もいた。このため、ほとんどの人は、発表前には強い緊張や不安を感じており、発表の準備を念入りにおこなっているようだった。その分だけ、終わってからの充実感も大きかったようだ。ポスター発表の聴衆は、日によって、テーマによって、まちまちであった。たくさんの外国人が聞きに来たセッションもあれば、日本人が多いセッションもあった。海外の研究者との交流が充実したかどうかについては、そうしたセッションの特徴によって左右されたようだ。

③自分の発表以外にも、シンポジウムや講演などに積極的に参加して、新しい情報に接し、よく勉強していることが助成者の報告書から伝わってくる。ボストン大学に併設された不安関連障害センター(The Center for Anxiety and Related Disorders)のオープンデイに参加した人もいた。

④特筆すべきは、ワークショップに参加した助成者が多いことである。例えば、バーロウ、ジュディス・ベック、ウェルズ、パーソンズ、シーガルなどのワークショップやマスター・クリニシャン・セミナーに参加して勉強していた。ヤングのスキーマ療法のワークショップには、日本人が5名も参加していたという。日本人が英語のワークショップに参加するのは度胸がいるが、若い大学院生が、苦手意識を持たず、英語のワークショップに積極的に飛び込んでいることは、たいへん頼もしい。

⑤一部の助成者は、英語で発表することに苦手意識を持っていない。とても心強く感じた。他方では、英語がよく聞き取れなかったり、思うように話せないことを痛感し、WCBCTへの参加をきっかけとして、これから英語力をつけなければならないという反省を述べている人も多い。英語の訓練は、年齢が低ければ低いほど効果がある。本助成が年齢の低い人を優先させた理由のひとつはここにあった。

⑥大会では、ベックやクラークやウェルズなど、論文でしか知らなかった著名な研究者の講演を聴いて感激したり、世界の最先端の研究に触れて研究意欲が増したと書いている助成者が多い。国際学会に参加する意義はここにある。助成者の多くは、世界の第一線の臨床家・研究者に会って感激し、何人かはいっしょに写真をとってもらったり、サインをもらったりしていた。WCBCTならではの光景である。その一方で、次のように書く助成者もいた。その志は頼もしい。「Adrian Wells先生にお会いできたことであった。サインをと興奮してしまったが,自分もWellsに負けない研究をしていくんだという意地から,いただかないことに決めた。海外のジャーナルに論文を通した際に,ファンではなく研究者としてお話ししたいと思った」

⑦3年後にペルーのリマで開かれるWCBCT2013にも参加したいという感想も多く見られた。WCBCTは、一度参加すると、次から2度3度と繰り返して参加するリピーターになることが多い。今回初めてWCBCTに参加した学生が、リピーターへと育っていくことが期待される。また、これからアメリカ認知行動療法学会(ABCT)やヨーロッパ認知行動療法学会(EABCT)に参加する計画を立てた助成者もおり、国際学会に参加することへの敷居が低くなることも期待される。こうした点からも、国際学会への参加は、年齢的に早ければ早いほどよい。

 今回の「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」ほど、大規模な国際学会の若手心理学者への支援は少ないのではないだろうか。以前に、日本心理学会が、「ヤングサイコロジスト」事業として、国際心理学会に奨学派遣をしたことがある。10名の若手に旅費を出した。丹野も1984年のICPアカプルコ大会で助成を受け、ヤングサイコロジストとして参加して、大きく刺激された。国際学会への若手支援は、非常に大きな効果があるのである。丹野はこのような支援機構を個人的に作っても良いとさえ思っている。
 「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」による助成は、今回のボストン大会で終了する。 次回以降のWCBCTに対しては、今のところ若手の参加助成は考慮されていない。各学会が若手への支援を継続されることを願ってやまない。

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b.「ボストンWCBCTを成功させよう」キャンペーン

 今回のボストン大会を成功させるため、前回のバルセロナ大会に引き続いて、丹野はいろいろな活動をした。
 その理由はひとえに日本の臨床家に認知行動療法の最前線に触れてほしいからである。日本の心理臨床学は、世界の流れに背を向け、内向きになり、停滞状況にある。日本の臨床心理学は、欧米の1960年代に留まっており、世界から取り残されている。日本の臨床心理学者はこうした現状に触れ、危機感を持ち、日本の臨床心理学を改革していく原動力となっていただきたい。こうした一心で、活動を続けてきた。
 「ボストンWCBCTを成功させよう」キャンペーンは、2007年にバルセロナ大会が終わった時に始まる。すぐに、丹野研のホームページに、「ボストンWCBCTに参加しよう」のコーナーを作り、ボストン大会の情報を流した。日本から100人以上参加することを目標とした。
 2009年には、いろいろなメディアでWCBCTボストン大会の広報をした。4月には、星和書店の雑誌「こころのりんしょうa・la・carte」に連載している『アメリカこころの臨床ツアー』にボストンの記事を書いた。7月からは、前述の「WCBCT2004記念若手研究奨励基金」の仕事にとりかかり、助成要項を作ったり、3学会に連絡して、ホームページに発表してもらった。また、日本認知療法学会のニューズレター「認知療法NEWS」50号と52号で広報し、また日本認知療法学会の学会誌『認知療法研究』第2号で広報した。丹野が委員長をしている日本行動療法学会の教育・研修委員会のホームページでも広報した。
これ以降は、丹野が参加するいろいろな学会などで、ボストン大会の宣伝チラシを配布した。丹野は、個人的に、eメールの署名の欄に、「ボストンで認知行動療法を学ぼう」のバナーを入れた。これによって、丹野の出すすべてのメールがボストン大会の宣伝となった。旅行代理店と接触し、ボストンへのグループ旅行についての企画もたてた。
 2009年10月には、丹野が会長をした日本行動療法学会が幕張メッセで開かれた(千葉大学の伊豫雅臣先生と清水栄司先生が大会長をされた日本認知療法学会と共同開催)。この大会のひとつの目標は、ボストンに向けて研究のレベルを上げることであった。大会のプログラムと抄録集にも宣伝を入れた。丹野の会長講演においても、ボストンWCBCTに触れた。会場に、ボストンWCBCTのパンフレットを置いた。それらはすべて配布されて、残りがなくなった。ボストン大会のポスターも展示した。さらに、丹野研で作成したチラシ「2010年6月、大学の街ボストンへ行こう」も作って大量に配布した。
 2009年11月には、ニューヨークで開かれたABCTに参加して、WCBCTボストン大会の情報を集めた。
 実は、星和書店の雑誌「こころのりんしょうa・la・carte」に連載している『アメリカこころの臨床ツアー』を単行本にまとめる機会があり、2010年の正月に原稿を仕上げた。この本は、アメリカの7大都市の大学や病院を散歩するエッセイであるが、ボストンについては少し詳しく説明した。というのはWCBCTの参加者がボストンを回る際に、この本を手にとって参考にしてほしかったからである。がんばって急いで仕上げたが、6月のボストン大会の前までに印刷することは難しいという連絡を受けて、だいぶテンションが下がった。
 とはいえ、以上のような宣伝がうまくいき、それなりにボストン大会が浸透し、日本からの参加者が多かったことはありがたい。
 次は「2013年WCBCTリマ大会を成功させよう」キャンペーンに入るつもりである。

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c.2004年神戸大会での到達目標は、どのくらい実現したか

 2004年神戸大会をきっかけとして、丹野は、日本における認知行動療法の普及について考えた。そして、2004年の時点の到達目標を10個掲げた。それを以下に示す。あれから6年がたとうとしている。この6年間で、日本の認知行動療法はどのくらい進歩したのだろうか。それを評価してみた。
 日本の認知行動療法の達成度を評価するために、3年ごとに開かれるWCBCTの大会はちょうどよい間隔である。3年ごとの達成度を下記の表に示す。

 
2004年 神戸WCBCTでの予測 2004の状態 2007での達成度 2010で達成度 2013
認知行動療法が日本に定着する ×  
日本で認知行動療法が保険点数化される × ×  
日本で認知行動療法をおこなう臨床家が増える ×  
日本に認知行動療法の訓練機関ができ、ワークショップが開かれる ×  
日本での認知行動療法のガイドラインができる ×  
認知行動療法をおこなう心理師の国資格ができる × × ×  
日本で認知行動療法のスーパービジョンのできる人材が育つ ×  
日本で認知行動療法のワークショップのできる人材が育つ ×  
日本での認知行動療法のRCTがおこなわれる ×  
日本行動療法学会と日本認知療法学会が統合される × × ×  
○なし
△なし
×10
○4
△3
×3
○6
△2
×2
○?
△?
×?

 上の表のように、2004年の段階では、ほとんどの項目が達成されておらず、認知行動療法のインフラストラクチャーは全く未整備であった。
 2007年(バルセロナ大会)の時点では、4勝3敗3引き分けといったところであった。 2010年(ボストン大会)の時点では、6勝2敗2引き分けとなった。この6年間で、日本の認知行動療法は確実に進歩しているのである。
 2013年のリマ大会までには、ぜひ10勝まで到達したいものである。

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9.次回の学会はいつどこで開かれるか.

 次回のWCBCTは、2013年にペルーのリマで開かれる。
場所:ペルーのリマ
日時:2013年7月22日~25日
公式ホームページ http://www.wcbct2013.pe/

丹野研の紹介ホームページ
  「ペルーのリマで認知行動療法を学ぼう」

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10.学会や大学や旅行で気がついたこと、その他.

ボストン大学のキャンパスについて

 ボストン大学は、学部学生15000名、大学院生5000名、教員4000名であり、アメリカで3番目に大きい私立大学である。ボストン大学には、教官や学生も含めて130名近くの日本人がいるとのこと。例えば、2008年にクラゲの研究でノーベル化学賞を受賞した下村脩氏も、ボストン大学で長く研究し、名誉教授となった。
 ボストン大学のキャンパスは巨大である。コモンウェルス・アベニューに沿ってたくさんの建物が並ぶ。キャンパスは長方形で、縦は300メートルなのに対して、横は2キロメートル(1.3 マイル)に渡って続く。世界一細長いキャンパスといってよいだろう。キャンパスの端から端まで歩くと1時間はかかるだろう。
 ボストン大学へ行くためには、地下鉄グリーンB線を利用する。この線は、ケンモア・スクエア駅を過ぎると、地上に出て、路面電車(トラム)となる。グリーンB線は、コモンウェルス・アベニューに沿って、ボストン大学のキャンパスの真ん中を走っていく。
 ボストン大学のキャンパスには、グリーンB線の駅(停留所)が8つもある。どれほど広いかがわかるだろう。ボストン大学という名前がつく駅だけでも、「ボストン大学東駅」、「ボストン大学中央駅」、「ボストン大学西駅」の3つがある。
 ボストン大学中央駅で降りると、正面は教会である。マーシ・チャペルという。その前は広場になっていて、中央に彫刻がある。教会の両脇は、神学部と文理学部が対になって建っている。塔を持つ建物である。
 コモンウェルス・アベニューをはさんで、南側には、ウォレンタワー、フォトニクス・センター、コミュニケーション学部などの巨大なビル群が並んでいる。
 教会の北側に回ると、東側にはソーシャルワーク大学院がある。
 西側には、マガー記念図書館の高い建物と法科大学院がある。間の庭園には、日本の灯籠が立っていた。
 その西側がジョージ・シャーマン組合の大きな建物である。この建物の1階はレストランで、2階がWCBCTの受付とポスター会場とブースとして使われた。2階にボストン大学の模型が飾ってある。
 WCBCTの会場は、このジョージ・シャーマン組合の建物を中心に、法科大学院、文理学部、コミュニケーション学部など、いくつかの建物に分散していた。地下鉄の駅の8つ分もある巨大キャンパスに、会場が分散しているわけで、移動が大変であった。プログラムの間の移動時間は10分しかない。カンカン照りだったり、夕立が降る中を、遠くまで歩くのはきつい。これほど移動が大変だった大会も珍しい。国際会議場などのひとつの建物を貸し切る形態のほうが参加者にはありがたい。

 キャンパスの最も東側の駅はケンモア・スクエア駅である。この駅はフェンウェイパーク球場に近い。ボストン大学のキャンパスからこの球場は歩いていける。WCBCTの参加者の中には、プログラム終了に松坂大輔が登板する大リーグの試合を見た人もいた。また、ケンモア・スクエア駅の近くには、大学の書店があり、ボストン大学のグッズなどが大量に売られている。その近くに、ボストン大学不安関連障害センター(CARD)がある。今回はCARDのオープンハウスが行われたが、これについては前述のとおりである。

 大会中のボストンは蒸し暑かった。ボストンの緯度は日本の札幌に匹敵するので、それほど暑くはないはずである。現地の人に聞いてみたら、今年は例年になく暑い年であるとのことであった。WCBCTの大会バックの中には、飲み物を入れるための小型ジャーが入っていた。それほど暑いということだろう。
 雨もよく降った。ベックとクラークの対談の後、会場を出てすぐに夕立となり雷が鳴った。対談の聴衆はびしょぬれになってしまった。傘をさしていてもびしょぬれになるくらいの強い雨であった。停留所まで歩き、やっと電車が来て乗ったら、すぐに雨は止んでしまった。

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