2005年6月13日-6月17日.スウェーデンのイエテボリ(Goteborg)にて.
International Association of Cognitive Psychotherapy(IACP)が中心になって開催しているものだが,今大会は,Society of Constructivism in the Human Sciences(SCHS),Transcultural Society for Clinical Meditation(TSCM)の協賛で開催されている.
また,Cognitive psychotherapy in later lifeというsatellite congressが6月の14-15と開催され,post-congress workshopとして,6月17-20に,Science, spirituality, and education in a global futureが開催された(MahoneyやGergenら).
上記の主催者を反映して,認知行動療法に加えて,構成主義,仏教心理学など幅広い研究者が参加している.近年,Linehan(1993)による弁証法的行動療法,Hayesら(1999)によるAcceptance and Commitment Therapy(ACT),Segalら(2002)によるMindfulness-Based Cognitive Therapy(MBCT)などが,第3世代の認知行動療法として着目されている.否定的な認知内容を変えるよりも,そのような認知から距離をおいたり,受容したりすることを目指している点が特徴である.瞑想や座禅のような仏教からの影響も共通点とされる(マインドフルネス瞑想など).今大会の多様性は,このような流れを受けている.
全参加者は1400名ほど.北欧からの参加者が多いようで,英語以外の言語がそこかしこで聞こえる.
招待講演,シンポジウム,ラウンドテーブル,臨床デモンストレーション,ポスターの他に,昼食時には著名な研究者へのインタヴューが行われる.ポスターは比較的少ない.アブストラクトをみても,シンポジウムが圧倒的に多い.ここでは,特に「第3世代」に関わる内容を紹介したい.
今大会の看板企画である.初日の開会式に続いて行われた.一般市民向けの講演もあり,街の看板や情報誌にもDalai Lamaの名前がみえる.司会はPaul Salkovskisと大会長であるAstrid Palm Beskow.最初はBeckが緊張していたが,Dalai Lamaのユーモアあふれフレンドリーな姿勢が印象的.「年長者を敬うのが我々のやり方」とBeckに合掌して和やかな雰囲気に.
認知理論と仏教の共通点を軸に話が進む.Dalai Lamaは英語も堪能だが,通訳も連れてきていた.聴衆にとって不慣れな言葉を使わないためのようで,プロフェッショナルな気遣いに感銘を受けた.Dalai Lamaは,これまでも多くの科学者と対談しており,仏教では,単に信ずるのではなく「研究」をすることだ重要だと語る.Analytic Meditationという言葉を紹介し,認知療法との共通点を指摘する.Beckが紹介した怒りへの対処法について,「それは面白い.ぜひ私も使わせていただく」と答え会場が笑いの渦に.
Steven HayesによるAcceptance and Commitment Therapy(ACT)に関する招待講演は,関係フレーム理論(Relational Frame Theory:RFT)という言語に関する独自の行動分析理論の説明から始まり,様々な精神病理の根幹にある体験の回避(experiential avoidance)という概念とその測定尺度(Acceptance and Action Questionnaire:AAQ)が紹介された.続いて,介入の効果に関するエビデンスが提示された.
Mark Williams(Teasdale引退後のMindfulness-Based Cognitive Therapyのリーダー)が座長を努めるマインドフルネスの研究法についてのラウンドテーブルには,Kabat-Zinn,Melanie Fennell(Teasdaleとも共同研究をしていた抑うつの研究者),Steven Hayesといった指導的研究者が一同に会した.
さらに,Salkovskisが座長を努めるラウンドテーブルでは,パネリストは,Mark Williams,Steven Hayesという第3世代の旗手たち,そして,ACTなどの第3世代の効果研究のレヴューを行ったLars Goran Ostであった.「認知行動療法は限界に来ている.ACTのように独自の基礎理論をもった例は,これまでにはない」というHayesに対して,Salkovskisは,パニックや強迫性障害の研究を例に反論する.Ostは,「現代の認知行動療法の効果は,効果研究をよく見れば,決して行き詰まっていない」と指摘し,「この大会では,宗教的イデオロギーのように考えてしまって,検証する姿勢を忘れている例が見受けられる.私はそういうのはお断りだ」と警鐘を鳴らしていた.
第3世代がどのように展開するかは,今後の研究の発展にかかっている.科学的研究を情熱的に行い,常に発展し続けることが認知行動療法の本質だという姿勢(まさに,Salkovskisのそれ)を忘れてはならない.
全部で,20のワークショップが開催された.Mark Williamsは,Mindfulness-Based Cognitive Therapyのワークショップを上級者向けと初心者向けの2つ開いており,関心の高さが伺われる.参加費は,全日のものが,1500 SEK(約25500円),半日のものが800 SEK(約13600円).
杉浦は,Jon Kabat-Zinnのワークショップ(全日)に出た.マインドフルネス瞑想を健康科学分野に導入したパイオニアである.知識を伝えるというよりも,自身が瞑想体験をするワークショップである.
マインドフルネスの基本はとにかく,評価をしないこと,決めつけないこと.瞑想の実習は,まず室内の様々な音に注意を向けることから始める.その後,いくつかのトリックアートのようなものを使いながら,私たちが日ごろ,ものを見ているようで見ていないということを,楽しくデモンストレートする.しかし,決してそれが良い悪いというのではなく,そういうものだとして意識を観察することの重要性を強調した.
この日行った瞑想は,呼吸瞑想,ボディスキャン,ヨガ,歩行瞑想など.最後にいくつかの効果研究を提示した.Kabat-ZinnのMindfulness-Based Stress Reductionはもともと心理療法ではなく,医学領域から始まったものであり,身体疾患への効果が紹介される.しかし,客観的理解よりも,一人称の体験が重要であることが強調された.
認知行動療法では,来日したこともあるMax BirchwoodやPaul Salkovskis, Jan Praskoなどに加えて,Mark Williams,Judith Beck,Arthur Freeman,Christine Padesky,Lars Goran Ostなど.
構成主義では,Michael MahoneyやKenneth Gergenなど.瞑想では,Jon Kabat-ZinnやMaurits Kwee.その他,Leslie GreenbergやJeremy Safranといった幅広い心理療法の研究者,また情動知能で有名なDaniel Goleman(今回はマインドフルネスの話をしていた)もマインドフルネスについて講演した.
TSCMは,春木豊先生が創設した団体で,早稲田大学の越川房子先生,石井康智先生などがTSCM主催の一連のシンポジウム(A Cognitive Behavioral Approach to Buddhist Psychology)での発表のため参加されていた.
2004年12月1日がアブストラクトの〆切.参加費は事前申し込みだと4900 SEK(約83300円).学生は,3700 SEK(約62900円).昼食込みである.
IACPは,それ自体の大会を定期的に開くよりも,World Congress of Behavioural and Cognitive Therapiesなどを協賛しているようである.
Goteborg(現地の人の発音はヨーテボーイ)へは直行便がないので,コペンハーゲンからプロペラ機に乗り換え.北欧の夏は,夜も明るい.町の人も親切で,とても過ごしやすかった.Goteborg大学が会場の近隣にある.スウェーデンでは,大学はすべて国立である.町は清潔で時間も正確.