認知行動療法を学ぼう世界の大学と病院を歩く丹野研究室の紹介駒場の授業
home世界の大学と病院を歩く2011年国際認知療法会議(ICCP)イスタンブール

◆2011年国際認知療法会議(ICCP)イスタンブール 丹野義彦

 2011年にトルコのイスタンブールで開かれた国際認知療法会議(ICCP2011)に出席した。イスラム教の国での開催であったが、認知行動療法はイスラム圏にも確実に浸透していることを感じさせた大会であった。日本からも約20名が参加していた。大会の様子を報告したい。


1.どんな学会が、いつ、どこで開かれるか。

学会:国際認知療法会議(International Congress of Cognitive Psychotherapy:ICCP)
会期:2011年6月2日~6月5日
会場:トルコのイスタンブール 軍事博物館の国際会議場


2.どんな領域の研究者が参加するか、どんな雰囲気の学会か。
 ICCPは、アーロン・ベックが中心となって作られた認知行動療法に関する国際学会である。現在は、キース・ドブソン(カナダのカルガリー大学教授)が会長をつとめている。以前はポール・サルコフスキスやアーサー・フリーマンやロバート・リーヒーが会長であった。
 第1回は1986年にウメオ(スウェーデン)で開かれた。
 第2回は1989年にオクスフォード(イギリス)で開かれた。
 第3回は1992年にトロント(カナダ)で開かれた。
 1995年からは、世界行動療法認知療法会議(WCBCT)と合体して、デンマークのコペンハーゲン(1995年),メキシコのアカプルコ(1998年),カナダのバンクーバー(2001年)、日本の神戸(2004年)、スペインのバルセロナ(2007年)、アメリカのボストン(2010年)で開かれた。
 WCBCTと合体してからも、独自の大会を不定期に開いている。
 2000年には、カターニア(イタリア)で開かれた。
 2005年には、ヨーテボリ(スウェーデン)で開かれた。この大会では、チベットのダライ・ラマとアーロン・ベックの対談がおこなわれ、出版されている。
 2008年には、ローマ(イタリア)で開かれた。
 今回はイスタンブール(トルコ)で開かれた。ヨーロッパ・北米以外の地で開かれた最初のICCPである(トルコは以前から欧州連合ECへの加盟を申請しているが、まだ実現しておらず、ヨーロッパの国とは認められていない)。イスラム圏では初めてである。
 次回は、2014年に香港(中国)で開かれる予定である。
 認知行動療法や治療についての臨床研究が主体であるが、基礎的な研究や認知心理学的な発表も多い。


3.学会の規模はどれくらいか。 何人くらい参加するか。
 本大会の会長はマルマラ大学医学部精神科教授メフメット・スングール(Mehmet Sungur)であった。この人は、トルコ認知行動療法学会の会長である。
 ICCPの目的は、認知行動療法の最先端の研究発表の場というよりは、西欧や北米で発展した認知行動療法を、西欧以外のヨーロッパやその周辺地域に普及させることを主眼としているようだ。2004年の神戸WCBCTが日本への認知行動療法普及のターニングポイントになったように、今回のICCPは、トルコへの普及のターニング・ポイントになるのだろう。
 大会の出席者は500人くらいである。中規模の学会である。
 参加国の旗を載せたポスターが貼ってあった。それによると、世界から61カ国の人々が参加していた。
 地元のトルコや、地中海周辺のヨーロッパ圏(イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ)、東欧諸国(ルーマニア、セルビア)、中東の国(イラン、クウェート、アラブ首長国連邦など)の人々が多く参加していた。アジアからは、日本が一番多く、次に香港、台湾、パキスタンなどの国から参加があった。
 口頭発表やポスター発表は世界各地からのものがあるが、シンポジウムやワークショップや講演などは、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏の人たちで占められる。

国別発表数
 口頭発表とポスター発表の国別数(第1著者の国籍)は、以下のようであった。

 

 

290本中

イラン

85

29.3%

トルコ

31

10.6%

イタリア

24

8.3

スペイン

21

7.2

ルーマニア

12

4.1

日本

12

4.1

ポルトガル

10

3.4

カナダ

7

2.4

クウェイト

6

2.0


イラン 85 (290本中29.3%はイランからの発表である)
トルコ 31 (290本中10.6%はトルコからの発表である)
  (所属が未記入のものがあり、それらはトルコが多いようなので、もっと多いかも)
イタリア 24
スペイン 21
ルーマニア 12
日本 12
ポルトガル 10
カナダ 7
オーストラリア 6
クウェイト 5
フランス 5
アメリカ 4
イギリス 4
スイス 3
台湾 3

2本を発表していた国 
ギリシャ、香港、アルゼンチン、ブラジル、ニュージーランド、ポーランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、オランダ

2本を発表していた国 
イラク、UAB(アラブ首長国連邦)、セルビア、南アフリカ、オーストリア、ケニア、タイ、コロンビア、パキスタン、フィンランド


トルコからの発表について
 今大会は、英語とトルコ語の2つが公式言語であった。英語とトルコ語は、同時通訳が入っていた。
 地元のトルコからの発表者も多い。マルマラ大学、アンカラ大学、バスケント大学、アンカラの中東技術大学、コック大学、などの大学である。イスタンブール大学の発表は探したがなかった。
 イスタンブールをはじめとして、トルコのいろいろな地方の大学や病院から多くの発表があった。

イスラム圏における認知行動療法
 トルコやイランなどのイスラム教の国々でも、認知行動療法がさかんになっていることがわかった。非常に印象的だったのは、スカーフをした女性が多く参加して熱心に聞いていることであった。
とくに目立ったのは、イランからの発表である。驚くべきことに、口頭発表とポスター発表の約30%はイランからの発表である。テヘラン大学、テヘラン医科大学、アッラーメ・タバータバーイー大学、シャヘド大学、テヘラン精神医学研究所、マシャド大学、イスラミック・アザド大学など、多くの大学からの発表があった。トルコの隣国はたくさんあるのに、イランだけが飛び抜けて多い。
 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降、何となくアメリカや西欧のものは、グローバリズムの産物として、イスラム圏から拒否されているのではないかという懸念があった。したがって,アメリカやイギリスで発展した認知行動療法も、イスラム圏では受け入れられていないのではないかと思っていた。
 しかし、今回、スカーフ姿のイスラム圏の女性が熱心に認知行動療法を勉強しているのを見て、目からうろこが落ちる思いをした。よく「認知行動療法は、西欧で生まれたので、西欧人には効果があるが、日本人には効果がない」という説をまことしやかに説く人がいる。しかし、このような文化相対主義は成り立たない。というのは、認知行動療法はアジアでも大きな効果があるからである。大野裕先生の研究では、日本でも認知行動療法の効果は明確であり、こうした成果によって、認知行動療法が保険点数化(診療報酬化)が実現したわけである。イスラム圏で認知行動療法の効果研究が行われているかどうかは不明だが、おそらく効果があるに違いない。認知行動療法は、文字通りグローバル性をもつ。アメリカやイギリスなどの英語圏だけのものではない。今回のICCPでの最も大きな収穫はこのことであった。


4.どんな学術プログラムがあるか、その内容で印象に残ったことは。

(1)プログラムの概要

 学術プログラムは、ワークショップ59本(前日20本、大会中39本)、基調講演は21本、シンポジウムは37本、口頭発表147本、ポスター発表143本であった。
 ワークショップが通常の学会の2倍は出ており、認知行動療法のスキルの普及に力を入れていることがわかる。

(2)開会式
 開会式は7月2日17:30から、会場の第1ホールで行われた。同僚の石垣琢麿先生(東京大学教授)といっしょに参加した。私は、大会のRegistrationが時間がかかったため(窓口で英語のできる人が少なくて、登録にずいぶん時間がかかった)、やや遅れた。
 大会長のメフメット・スングール(マルマラ大学医学部精神科教授)や、ICCP会長のでキース・ドブソンがあいさつした。その後、第1ホールの壁が上がると、そこには大きな中庭があらわれた。そこで、懇親会のカクテルパーティとなった。この中庭は、中央に池がある大きなもので、軍事博物館らしく古い大砲なども飾ってある(参加者は、大砲だとは意識せずに、この上に荷物を置いたり、椅子のかわりに座ったりしていた)。
 バンドが演奏していたが、ポピュラー音楽であった。こういう開会式では、民族音楽とか、その国らしい民謡などのアトラクションがあるのがふつうだが、このバンドはふつうの西洋のポピュラー音楽であった。ワインは飲み放題で、料理はかなり量が多く、料理には金をかけている感じだった。
 エイドリアン・ウェルズ(マンチェスター大学)と話した。ウェルズは、世界中の認知行動療法学会を飛び回っていて、毎年必ずどこかの学会で会う。私は、ちょうど今、ウェルズの著書Emotional Disorors & Metacognitionの翻訳をしているところだった(ウェルズのメタ認知療法は日本でも関心を持つ人が多く、現在、私たちを含めて、2冊の著書が同時に翻訳進行中である)。その話をして、疑問点なども投げてみた。
 ウェルズの共同研究者のパパジオルジウ(Costas Papageorgiou)がいっしょだったので、話すことができた。その名前からしてギリシャ系の人だと思われるイギリス人で、マンチェスター大学で、ウェルズのもとで心理学のPh.Dを取得した。現在は、リバプールのアビイ・セフトン病院で心理師として働いている。今回のICCPではワークショップを出していた。この人は、うつ病の臨床心理学の研究で有名であり、"Depressive Rumination"という本をウェルズと共著で出している。この人の論文や著書はいくつか読んだことがあるが、お目にかかるのは初めてであり、ウェルズと3人で写真をとってもらった。
 サルコフスキスとマーク・フリーストンがいたが、彼らには前日にイスタンブールのアタトゥルク空港でばったり会ってあいさつしていた。サルコフスキスが一昨年の日本行動療法学会・日本認知療法学会の共同開催で招待した時のワークショップ『強迫性障害への認知行動療法:講義とワークショップで身につけるアートとサイエンス』が近々翻訳出版されることになっている(小堀修・清水栄司・丹野義彦・伊豫雅臣訳、星和書店)。
 また、石垣先生の友人でドイツの心理学者ヴォルフガング・ストラウス氏が参加していた。この先生は、アルコール治療の専門家であり、日本でぜひワークショップを開いてほしいと頼んだ。
 2014年に次回のICCPを開く中国の関係者が4~5人来ていて、懇親会で宣伝していた。中国認知療法学会の会長のチー・ウィン・ウォン博士はお会いしてからちょうど10年になる。この人も世界中の認知行動療法学会を飛び回っていて、毎年必ずどこかの学会で会う。
日本人で懇親会に参加していたのは、石垣先生のほかに、宮崎大学医学部看護学科の先生方(白石裕子教授、東サトエ教授)であった。

(3)ワークショップ
 大会初日の一日ワークショップは、以下の20本である。ほとんどがアメリカとイギリスで活躍する認知行動療法家である。
ウェルズ Adrian Wells: Metacognitive Therapy for Chronic Worry and Generalized Anxiety Disorder
リーヒー Robert Leahy: Treatment Resistant Anxiety: Using Roadblocks as Opportunities for Change
サルコフスキス Paul Salkovskis: CBT for OCD: Helping People to Choose to Change
ターキングトン Douglas Turkington: Cognitive Behavioural Therapy for Patients with Schizophrenia Spectrum Disorders Who Refuse to Take Antipsychotic Medication
ジュディス・ベック Judith Beck: A Cognitive Behavioral Program for Weight Loss and Maintenance
カバット・ジン Jon Kabat Zinn: Mindfulness in Medicine and Psychology - A First-Hand Taste and Clinical Applications
ヘイズ Steven Hayes: ACT in Practice: Creating Rapid Clinical Change
ダティリオ Frank Dottilio : Cognitive – Behavioral Strategies with Couples and Families
ローゼンバウム Michael Rosenbaum & Tammie Ronen-Rosenbaum: Applying Self-Control Skills to Reduce Aggression among Children
アーンツ Arnoud Arntz: Schema Therapy for Borderline Personality Disorder
ボーコベック Tom Borkovec: Integrative Cognitive Behavioural, Interpersonal and Experiential Therapy for Generalized Anxiety Disorder
カザンツィス Nikolaos Kazantzis: Case Formulation and Collaborative Empiricism: Enhancing the Use of Homework Assignments in Cognitive Behavior Therapy
ドブソン Keith Dobson: The Core Work in Cognitive Therapy: Interventions for Schema and Belief Change
ハーバート Claudia Herbert: When Thoughts Fail to Surface – Bodystaging as a Method to Work with Complex Trauma and DID
フリーマン Arthur Freeman : Treating Personiality Disorder Across the Lifespan
フリーストン Mark Freeston : CBT in Comorbid and Complex Cases
パパジョウジウ Costas Papageorgiou: Metacognitive Therapy for Depression
ギルバート Paul Gilbert: Working with Shame and Self-Criticism via Developing Inner Compassion
リッチェル Lorie A. Ritschel: Dialectical Behavior Therapy: Treating Emotion Dysregulation and Non-Suicidal Self-Harm
マークス Isaac Marks: How to improve anxiety disorders by behaviour therapy (real case presentations are invited from audience').
ネジログリュ Fügen Neziroğlu: Body Dysmorphic Disorder: Conceptualization and Treatment

 この他に、大会中ワークショップが39本も出ていたのには驚いた。
 ワークショップへの参加料は180ユーロである(非会員、当日参加)。1ユーロ120円とすると、日本円にして22000円であり、決して安くはない。前回のローマ大会では1ユーロ170円に達していたので、今回の円高は日本人参加者にとってはありがたい。

(3)印象に残ったプログラム
6月3日の基調講演は、同じイギリスのサルコフスキスとウェルズが重なった。どちらも世界的に有名な臨床心理学者である。
 迷ったが、サルコフスキスの方を聞いた。マーク・フリーストンが司会をしていた。サルコフスキスの講演のタイトルは「科学の絵を描いてあげましょう:認知行動療法における臨床科学と臨床アートを結びつける」というものであった。
 認知行動療法においては、科学とアートのどちらが大切なのかという問いかけから始まった。まず、セラピストが科学を省みずに、アートだけで推し進めた場合、どうなるかについて話した。トラウマに対するデブリーフィング法が、後に有害であることが判明したことをあげた。つまり、初めはデブリーフィングが症状を低下させていたが、コントロール群をとると、デブリーフィングはコントロール群よりも症状の低下が少なかった。つまり、デブリーフィングはコントロール群よりも症状の自然回復を遅らせる有害な方法であることがわかった。このように、アートに頼るだけではダメであり、科学的である必要がある。
 では、逆に、セラピストが、アートのない科学だけで押し通したらどうだろう。サルコフスキスは、この場合、全く非人間的なセラピーになってしまうことを、テレビのコメディの一シーンを見せて説明した。極端なセラピストだったので、会場は笑いに包まれた。行きすぎた科学主義はダメで、遺伝学やイメージングに対する批判も出てきた。
 結論から言えば、認知行動療法においては、科学とアートのどちらも大切であるということになる。サルコフスキスがいつも強調する「花びらモデル」が今回も強調された。この花びらモデルは、サルコフスキスが2001年に来日したときのワークショップで述べられている(丹野義彦編著『認知行動療法の臨床ワークショップ:サルコフスキスとバーチウッドの面接技法』金子書房、2002)。
 ちなみに、前述のサルコフスキスの来日ワークショップの翻訳のタイトルは『強迫性障害への認知行動療法:講義とワークショップで身につけるアートとサイエンス』というものであり、今回の講演タイトルと似ている。
 サルコフスキスの講演はなかなか勉強になるものであったが、やや基礎的な話だったためか、大会場には空席が目立った。
 サルコフスキスの講演が少し早く終わったので、続けて、ウェルズの基調講演を除いてみた。すると、もっと大きな会場に聴衆は満員だった。ウェルズの講演のタイトルは『不安障害に対するメタ認知療法』である。基礎的な話ではなく、メタ認知療法の具体的な技法の話なので、現場で役に立つため、聴衆が多いのだろう。サルコフスキスの話は考え方についてのものなので、やや少なかったのか。
 ウェルズの講演は、メタ認知療法について最新の治療成績データや実験データにもとづき、科学者-実践家モデルの典型である。イギリスの認知行動療法の正統派であるデイビッド・クラークの方法論と姿勢を受け継いでいると強く感じた。前述のように、ウェルズの著書Emotional Disorors & Metacognitionの翻訳をしている。こうした正統派の臨床家の翻訳を出版できるのは楽しみである。
 問題に正面から立ち向かう姿勢である。講演が終わってもずっと質問が続いた。トム・ボーコベックが司会していた。
 どの国際学会でもそうだが、ウェルズは多くの講演をこなし、多くのシンポジウムに出演し、毎日2~3個のコマに出ている。今回の学会でも大活躍であった。
 また、6月3日には社交不安障害についてのシンポジウムがあった。地元のマルマラ大学の精神科の人が座長で、地元のトルコの人たちが発表していた。ウェルズのメタ認知モデルにもとづく研究もあった。

(4)ガラタ塔でのガラディナー
 認知行動療法の学会では、会期中の夜にガラディナーGala Dinnerが催される。ガラとは、お祭りとか特別の催しという意味である。今回のICCPのガラディナーは、6月4日にイスタンブールのガラタ搭Galata Towerの上で行われた。つまり、「ガラタ塔でのガラディナー」という語呂合わせになっている。
 ガラタ搭は、西暦507年に建てられた世界で最も古い搭であり、天文台や軍事用の見張り台として使われたが。現在は展望台やレストランになっている。ICCPの会場から30分ほどの新市街にある。


5.有名な研究者でどんな人が参加するか。
 この大会の科学委員(Scientific Committee)には、リーヒー、フリーマン、ドブソン、ホフマンといったアメリカの認知行動療法の大物の名前がある。前回のICCPで見られたイギリス人の認知行動療法の大物の名前は入っていない。
 ほかに、大会に参加していたアメリカ人としては、ジュディス・ベック、カバット・ジン、フランク・ダティリオなどがいた。彼らはこの大会の常連である。ベックの代わりに、アメリカの認知行動療法学会を代表して、毎回世界のあちこちを回っているという感じである。イギリス人としては、アイザック・マークス、サルコフスキス、ウェルズ、ターキングトンなどがいた。


6.日本から誰が参加していたか。
 国際諮問委員会(INTERNATIONAL ADVISORY BOARD)として、日本人では唯一、古川壽亮氏が加わってた。
 日本からの演題の発表は、12題であった。国別の発表数で見ると、第5位であり、ルーマニアと並ぶ。
 発表していたのは、宮崎大学医学部看護学科のグループ、江戸川大学のグループ、筑波大学のグループなどが目立った。
 日本からの参加者は、約20名である。


7.発表申し込みの〆切はいつか、大会参加費はいくらか。
 発表申込締め切り(口頭発表とポスター発表)は、2011年3月31日であった。
 大会参加費は、当日非会員が500ユーロで、当日会員が450ユーロであった。
 発展途上国(Emerging countries)から来た人の当日参加費は325ユーロであり、約半額になる。「Emerging countries」のリストがあり、約200カ国がリストされている。アジア・アフリカが中心であるが、東欧の国々も含まれている(日本は含まれていない)。こういう点からも、本大会が東欧やヨーロッパ周辺部への普及を目的としていることが伺われる。


8.次回の学会はいつどこで開かれるか。
 次回のICCPは、2014年6月24日~27日に香港(中国)で開かれる。
 ホンコン大会のスローガンは「ニューフロンティア」。アジアへの認知行動療法の普及を、アメリカ開拓時代の西進に喩えたものであろう。大会長は、中国認知療法学会(CACBT)の会長チー・ウィン・ウォン博士である。2014年には、ICCPの大会が香港で開かれる予定である。その責任者がウォン氏である。この大会には、中国本土などから2500名の参加を見込んでいるというから、実現すれば、神戸WCBCTの2倍となる記録的な大学会となるだろう。その宣伝のため、2011年6月のICCPイスタンブール大会や2011年7月のACBTCソウル大会では、中国認知行動療法学会(CACBT)のメンバー4~5人で来ていて、あちこちで宣伝していた。
 ICCPは、これまでヨーロッパまたはその周辺国で開かれることが多かったが、アジアでは初めてとなる。認知行動療法がアジアに着実に浸透しつつあることを示している。前述のように、「CBTは欧米文化」と言われたのは昔のことである。


9.学会や大学や旅行や観光で気がついたこと,その他.

東日本大震災後の国際学会
今回のICCPは、2011年3月11日の東日本大震災の後の初めての国際学会であった。学会や懇親会でし、津波や原発のことが話題となった。
 大震災の2日目に、アメリカのロバート・リーヒーとフランク・ダティリオが安否を気遣う個人的なメールをくれた。世界的に活躍する臨床家というものは、こういうところにも気が回り、マメに連絡をくれる人である。今回、リーヒーとダティリオは両方ともICCPに参加していたが、直接会う機会がなくて残念であった。

会場について(軍楽隊のメフテルの演奏)
会場はイスタンブールの新市街にある軍事博物館であった。軍事博物館は観光名所のひとつであり、オスマン・トルコ時代の軍楽隊「メフテル」の演奏がおこなわれる場所として、観光ガイドブックには必ず紹介されている。
 毎日、この博物館のホールで、赤い制服の男たちがラッパや太鼓で演奏する。不思議なことに、勇ましい戦争礼賛の曲ではなくて、イスラム的な中世へのノスタルジアを感じさせる。一度聞いたら忘れられないもの悲しい旋律である。かなり昔のことだが、1979年にNHKのテレビドラマ『阿修羅のごとく』で使われていたのが、この軍楽隊の演奏であった。飛行機事故で51歳の生涯を閉じた向田邦子(1929~1981年)が脚本を書いたものである。『阿修羅のごとく』は家族のホームドラマであり、およそ戦争とは関係がない。このホームドラマになぜかトルコの軍楽がぴったり合うのであった。30年前の作品だが、この音楽は今でも心に残っていた。その本物を学会の会場で聴くことができた。
 博物館の建物の後ろは会議場になっていて、ホールが15個くらいある。ここで国際学会が開かれた。

ページのトップへ戻る