東京大学大学院総合文化研究科 教養学部 特任助教
細野正人
【はじめに】
2017年10月8日?12日まで、ドイツ・ベルリンで実施された世界精神医学会(WPA|WorldPsychiatric Association)に参加した。筆者にとって、国際大会への参加は、初めての経験であり、大変大きな刺激を受ける機会となった。筆者が国際大会への参加を通じて、学んだことについて考察を加える。
【ピアサポート】
発表の多くが、薬物療法に関するものかと思っていたが、意外にもピアサポートに関する演題があり、驚いた。統合失調症やうつ病などの一般的な精神科疾患でも、一定の回復が認められた患者には、ピアサポート活動に従事させることで、ピアサポートを実施する患者も提供を受ける患者も、相互に症状を安定させることに影響を与える報告を確認した。また、LGBTの患者には、治療的介入は効果がなく(Anti Therapyと表現されていた)、自助グループや周囲の人とシェアをすることが、将来的なストレス低減につながる報告を確認した。その報告では、20歳前後でシェアを実施することで、その後の長い時間にわたって、シェアしなかった場合に比べて、ストレスが低減することを示していた。新型薬物による薬物療法の開発や後述するTMSなどの精神科治療法は大きく変貌している。しかし、ピアサポートのような、原始的な支援に関しては、今後も同じような形で継続されて行くように思われた。
【TMSの普及】
日本ではそれほど普及していないTMS(磁気刺激治療)展示ブースが複数あり、多くの医療関係者が情報交換を実施していた。TMSのメリットは薬物療法では出現する可能性がある副作用がない点である。しかし、保険適用外で、1セットの治療が約50万円程度からという、費用面がネックとなっている。世界的に高いエビデンスを示すことができれば、今後の精神科治療法の一つになる可能性を秘めている。
【VRを活用したCBT】
S.Moritzらの研究グループでは、VRを使った擬似体験を活用した認知行動療法を紹介していた。大変興味深いツールであった。日本人に、そのまま応用することは言語の違いなどにより、難しいと考えるが、今後もVRが精神科領域で活用されることは増えると予想される。また、展示ブースでは、うつ病の擬似体験ができるVRが展示されており、VRでうつ病擬似体験を行った。患者の治療に使用できるものではなかったが、周囲の人の理解を促進する為には、有効なツールだと思われる。今後、国内での導入例が期待される。
【最後に】
今回のWPAに参加できたのは、丹野義彦先生、石垣琢麿先生の両先生方のお力添えがあり、実現した。この経験は、生涯生かすことができる経験であり、両先生方に御礼申し上げます。