北京で開かれた国際心理学会議(ICP)に参加した(2004年8月)。この学会の報告は、本ホームページの「国際学会の情報」に紹介してある。
北京の心理学会は、北京の心理学施設を紹介することに精力的であり、大会期間中に、北京の心理学施設を見学するツアーをおこなっていた。以下に紹介する施設は、大学関係のものであり、半日あれば見学できる。
ペキン大学(Peking University)は、ペキン市内の北西部にある。北京大学は、1898年、「京師大学堂」として設立された。1912年に「北京大学」となり、1952年に現在の場所に移った。1919年の五・四運動の口火を切った大学としても知られている。毛沢東は、かつて北京大学の図書館につとめていたことがあるという。現在、学生数は学部生1万3000人、大学院生1万人、専任教員5700人とのこと。学生数からいうと、東京大学の半分くらいであるが、教員数はそれに比べると多い。全寮制で学生は学内で生活して勉強する。キャンパスには、「勺園大楼」と呼ばれる9つの建物があり、これは宿舎と学食である。キャンパス内には、郵便局、スーパーマーケット、書店、映画館、果物屋などがあり、まるで一つの町になっている。売店では、北京大学グッズなども売っていた(コーヒーカップや、ジャージや、絵はがきなどのおみやげ)。ここにはなぜか清華大学の絵はがきがあったのでつい買ってしまった。壁新聞も見た。鄧小平の伝記が貼ってあったが、誰も見ている様子はなかった。すぐ隣に新聞スタンドがあり、ふつうの新聞を何種類も売っていた。
北京大学のキャンパスは広大だが、案内図は門のそばにしかない。前もって、大学のホームページで地図を印刷していくとよいだろう。
北京大学のキャンパスの中に、巨大な湖(未名湖)があり、ちょっとした観光地になっている。東門を入ると、右手に、「水塔」というパゴダ風の塔が見える。これを目印に歩くと、未名湖が視界に入ってくる。未名湖の周りは、いかにも中国風の建物が並び、景色は良い。ただし、湖の水は濁っていて汚い。ハイキング・コースにもなっていて、家族連れも多い。すぐとなりには、円名園という観光名所もある。さらに、世界遺産の?和園(いわえん;映画「西太后」の舞台となった)も近くにある。キャンパス内には、考古学博物館があり、見学できるということである。
場所と行き方。環状4号道路の外側にあるので、ペキン中心部からは離れているが、タクシーで行けば簡単である。バスもあるが、タクシーが無難。ペキン大学に行くときは、「北京大学」と書いて渡すと、理解してもらえる。タクシーでは、英語が全く通じないので、筆談でするしかない。北京大学の東門には、タクシー・スタンドがあり、また、大通りには常にタクシーが通っているので、帰りのタクシーもやすやすと拾える。
なお、ペキンのタクシーはきわめて安い。日本の5分の1程度の値段である。初乗り10元(135円)で、長く乗っても30元(450円)ほど。また、タクシーの数が異様に多く、大きな通りは頻繁に空車が走っているので、すぐに拾うことができる。車体も赤く塗られていて統一されており、よく目立つ。ただし、タクシー・ドライバーは、神風運転なのでヒヤヒヤすることが多かった。女性のドライバーも多く、男性ドライバーよりは、ずっと安心できる。
心理学の建物がわからなかったので、入り口で女子学生に聞いて見た。"Department of Psychology"と書いた紙を見せたら、学生は電子辞書を取りだして、"Psychology"と入力して、「心理学」と出てきて、「ああ」と理解して、建物を教えてくれた。中国では英語はほとんど通じないが、大学の中はまあまあ通じる。
南門の正面に、図書館がある(アジア最大で、466万冊の蔵書を誇るとか)。図書館の左となりに、心理学系の建物がある。新しく、しゃれた建物である。キャンパスには、自然科学や社会科学、人文科学などの建物が並ぶが、一般に新しく、明るく、広い。中国も最近になって、教育に力を入れ始めたことがよくわかる。
北京大学の心理学系は、1917年に作られ、中国で最初の心理学科である。ライプチヒでブントのもとで学んだCAI Yuanpeiが開設した。日本で心理学教室が開かれたのは、東京大学が1903年、京都大学が1908年であるから、北京大学も10年ほど遅れたにすぎない。
現在は、教授10名、助教授8名、学生数120名である。
建物の中にはいると、1階は教室で、2階に研究室が並んでいた。いくつかの実験室に分かれており、認知心理学、発達心理学、応用心理学などと並んで、臨床心理学実験室(clinical psychology lab)や、カウンセリング心理療法センター(Center for Counseling and Psychotherapy)があった。
臨床心理学の教授は、ミンギ・シャン(Mingyi Qian, 銭銘怡)である。シャン教授は、大学から今まで北京大学で教育を受け、そのままペキン大学の教授となった生え抜きである。1082年に心理学系を卒業と、1984年に修士課程を卒業し、そのまま助講師となった。1996年に臨床心理学の博士号をとり、1997年に教授となり、現在にいたる。1996年には、ロンドン大学のロイヤル・ホロウェイ・カレッジに留学した(心理学科は、マイケル・アイゼンクが学科長をつとめる)。これまで100本以上の論文を発表している。教授の研究室の前には、最近の論文の最初のページがたくさん貼られていたが、それを見ると、認知行動療法や森田療法の論文が多い。
シャン教授は、2004年7月に神戸で開かれた世界行動療法認知療法会議でも来日して、開会式でスピーチをおこない、また招待講演「中国における認知行動療法」をおこなった。中国では、アメリカやイギリスに直接行って臨床心理学を学ぶので、認知行動療法が急速に普及しているということであった。
ミンギ・シャン教授の部屋の前に貼られていた論文には次のようなものもあったのは興味深い。2000年のJournal of Morita Therapyに発表された"Morita Group Therapy for Cardiac Neurotic Patients"という論文や、1999年の日本の森田療法学会誌に発表された「森田療法原理とリラックス想像技法の併用による大学受験生のテスト不安(焦燥)軽減の指導」(銭銘怡、康成俊、方新、王恵芳、冷正安、張光健、李旭, 1999)という日本語論文もあった。
北京大学のそばに、清華大学(Tsinghua University)がある。この一帯は、「中国のシリコンバレー」と呼ばれるハイテク工業地帯ということである。清華大学は、理科系の最高峰の大学である。この大学は、情報科学、科学技術、エネルギー資源工学、核エネルギー、高度産業、生命科学工学、環境工学の7学部がある。また、大学が経営する企業30社を持ち、莫大な利益を上げているということであった。ただし、心理学の学科はないようである。
北京大学の南門からタクシーで3分であった。歩いても10分くらいの距離であろう。清華大学は観光地化されていて、キャンパスには観光客がいた。タクシーもすぐに拾えるし、人力車のような車もいた。
西門にキャンパスの案内図があるが、中国語でよく理解できないので、あらかじめホームページで地図を調べて行ったほうがよいだろう。ホームページは、 http://www.tsinghua.edu.cn/chn/index.htm
北京師範大学(Beijing Normal University)の心理学科も有名である。normal universityは中国の各地にあるが、これは教員養成大学のことである。1902年に創立され、1023年に北京師範大学と改称された。現在、300名の教授, 600名の助教授, 400名の講師からなり、大学院生2600名、学部学生6500名の中規模大学である。北京には、北京師範大学と首都師範大学のふたつがあり、いずれも心理学科を持っている。
北京師範大学は、町中にある大きな大学である。入り口の門は、やや地味であるが、中にはいるとキャンパスは意外に広い。大きなビルが所狭しと並んでいる。中央に大きな広場があり、そこに巨大な新しいビルが建っていた。入口の近くに売店が並んでいて、北京師範大学記念グッズを売る店とか書店が並んでいた。
キャンパスの案内図はない。ホームページをみたが、地図は載っていないようである。ホームページは、
http://www.bnu.edu.cn/
北京師範大学は、10の学院(スクール)と6つのカレッジからなる総合大学である。その中のひとつに、心理学院がある。心理学のビルについて、通りがかりの学生に聞いたら教えてくれた。
入口近くの新しいビル「英東教育楼」の3階~5階に心理系の研究室がある。5階には、心理学の事務室があり、3階と4階には数々の実験室が並んでいた。また、北京師範大学には発達心理学研究所が設置されている。この建物の1階には売店があり、北京師範大学記念グッズ(置物とかノートとか)を売るコーナーがあった。
臨床心理学関連の施設としては、5階に、心理学的カウンセリング研究センター(Psychological Counseling and Research Center)や、心理学的危機介入センター(Psychological Crisis Intervention Center)などが並んでいた。
場所と行き方。 北京師範大学は、環状2号道路と3号道路の間にある。地下鉄の積水潭駅から1キロほどのところにある。タクシーで、「北京師範大学」と書いたものを見せたら、すぐに理解してくれた。帰りも、門のところにはタクシー乗り場があるし、通りにはタクシーが頻繁に通るので、すぐに拾える。
北京市の北の郊外に心理研究所(Institute of Psychology, Chinese Academy of Sciences)がある。略して、IPCASと呼ばれている。中国科学アカデミーが1951年に作った心理学のエリート集団である。大学院大学であり、中国各地から優秀な大学院生を集めて研究している。86名の研究者(教授33名、助教授24名)と83名の大学院生がいる。
「生物物理研究所」と同じ敷地内にある。生物物理研究所は、赤い建物であり目立つ。この近くには、「理化学研究所」などもあり、中国科学アカデミーの研究所が林立する地域である。
入口には、小さく「中科院心理研究所」という看板が立っているだけなので見過ごしそうだが、中にはいってみると、大きな新しい建物が建っている。建物にもお金がかかっている。
建物の中にはいると、2階には社会心理学・経済心理学の研究室、3階は認知心理学の研究室、4階は中国心理学会の事務室、5階はメンタルヘルス関係の実験室、6階は行動薬理学の研究室が並んでいる。
5階にメンタルヘルス関係の実験室があることでわかるように、生理学や脳科学から異常行動を理解する研究がさかんにおこなわれている。
また、中国心理学会の事務室がここにある。2004年8月に北京で開かれた国際心理学会議(ICP)では、この心理研究所のメンバーが総出で開催にあたった。名実ともに、中国の心理学をリードするエリート集団である。
ホームページは、 http://www.psych.ac.cn/
場所と行き方。環状4号道路の外側にあるので、タクシーが無難。運転手に「中国科学院 心理研究所」と書いて渡したら、理解してもらえた。帰りも、大通りにはタクシーが頻繁に通るので、すぐに拾える。