2004年11月に、ニューオーリンズで開かれた米国行動療法促進学会(AABT)に出席した。この学会の報告は、本ホームページの「国際学会の情報」に掲載してある。ここでは、ニューオーリンズの臨床施設や大学について紹介しよう。
ニューオーリーンズ市の中央官庁地区(CBD)と、フレンチ・クオーターの間に、医学地区(メディカル・ディストリクト)がある。ここには、ルイジアナ州立大学医学部とトゥレーン大学医学部がある。 ルイジアナ州立大学(LSU)の本部は、州都のバトンルージュ市にあり、ニューオーリンズには医学部だけがある。医学部の地図は、ルイジアナ州立大学大学の健康科学センターのホームページに載っている。 精神科には、小児精神医学、司法精神医学、老年精神医学などと並んで、臨床心理学のセクションがある。 臨床心理学のセクションには、13人の常勤の臨床心理学者がつとめており、主任はトーマス・ウルフである。ジョイ・オソフスキー、トニア・ジャクソンのふたりの教授をはじめとして、10人の準教授・助教授がいる。ほかにも多くの博士のスタッフがいて、臨床心理学のインターンを育てている。 医学部は、広いキャンパスを持っている。トゥレーン通りにある病院は、巨大だが、かなり古いものである。その裏側に巨大な敷地があり、大学の建物がたくさん並んでいる。看護学校、医療専門家の学校などもある。500メートル以上もある長い歩道橋があり、おもな建物をつないでいる。面白い構造だが、長いし吹きさらしだし、働くスタッフには評判が悪いだろうと思う。実際、この歩道橋を歩いてみると、「健康のために歩こうWalking to Wellness」とか、「1日1万歩」などの標語が書いてあるのは愉快である。途中に自動販売機などもある。歩道橋からの見晴らしはよくて、「ルイジアナ・スーパー・ドーム」なども見える。 トゥレーン大学医学部は、かなり大きくて、新しいビルも多い。1834年に7人の医師がルイジアナ医学校を建てたのが、トゥレーン大学の創立である。医学校は、現在は、トゥレーン大学健康科学センターとなっている。この地区には、大学病院、ガン・センター、小児科病院、健康環境研究ビル、女性健康センターなどの建物が並んでいる。医学部の地図は、大学のホームページに載っている。精神科は、カナル通りの健康科学センターにあり、成人精神医学、小児精神医学、神経学の3つのセクションからなっている。 医学地区は、フレンチ・クオーターから歩いて15分くらいである。ただし、行く場合は、大きな通りを歩いた方がよく、細い道は危険そうなのでやめたほうがよいだろう。あらかじめ旅行ガイドブックなどで、危険な地域を調べておいたほうがよい。また、日中に行くべきであり、夜間に歩くのはやめたほうがよいだろう。
ニューオーリンズ大学(UNO)は、学生数17000名の大規模大学である。1958年にルイジアナ州立大学のニューオーリンズ校として作られ、その後、独立した公立大学となった。もともとはリベラルアーツの大学であったが、現在は研究大学となっている。ニューオーリーンズ大学にはいくつかのキャンパスがあるが、一番大きなレイクフロント・キャンパスに心理学科がある。
心理学科は17番ビルにある。このビルは2階建てであり、1階を地理学、2階を心理学が使っている。日曜日の朝に行ったのだが、中に入ることができた。2階のフロアは非常に広く、150室ほどが並んでいる。心理学科のスタッフは、教授・助教授合わせて16名である。
2階の一隅に心理クリニックがある。心理クリニックの責任者は、助教授のモリスである。このクリニックは、3つの部門に分かれている。
以上のように、臨床の中でも、発達臨床の仕事が中心である。ここの研究室は、発達臨床心理学、発達精神病理学の研究者が多く集まっている。他にも、教授のフリックは、発達精神病理学の大家である。助教授のシルバーソーン、ボクスラー、ゴールドスタイン、スカラメラなど、発達精神病理学の研究者・臨床家が多く集まっている。シルバーソーンは、今回のAABTの地域開催委員長をつとめていた。
レイクフロント・キャンパスは、もともとアメリカ空軍の飛行場だったとのことで、とにかく広い。学生も車を持つことが奨励されているほどである。広大なキャンパスに、いろいろな施設が点在している。大学の入り口に小さなインフォーメーションがある。また、その近くに大学センターがあり、ここには食堂や書店が入っている。インフォーメーションか大学センターで、大学の地図をもらえる(大学のウェブサイトにも地図はある)。心理学ビルのとなりは科学ビルである。ファイン・アート学部の建物の一階は、ちょっとした美術ギャラリーになっている。
キャンパスの北は小高い土手になっているが、そこを登ると、湖が広がっている。このキャンパスに来たら、ぜひともこのポンチャートレイン湖を見るべきだろう。湖には、ヨットが浮かんでおり、非常に静かである。ベンチにかけてしばらく湖を眺めていると、心が落ち着いてくる。巨大な湖であり、対岸は見えない。この湖にかかるポンチャートレイン橋は、47キロメーターもあり、世界最長の橋とのこと。
ニューオーリーンズ大学のレイクフロント・キャンパスに行くには、ニューオーリーンズ市内からバス55番に乗る。30分ほど乗って、終点が大学である。バス路線は、ニューオーリーンズのRTAのホームページで見ることができる。タクシーでも10ドルちょっと(20分ほど)。帰りはバスに乗るとよい(キャンパスではタクシーはつかまらない)。
トゥレーン(Turane)大学は、1834年にルイジアナ医科大学として創立され、南部のハーバード大学といわれる名門私立大学である。学生数が13000名(学部生8000名、大学院5000名)という大規模大学である。医学部や法学部のレベルの高さで有名である。
セント・チャールズ通りにロマネスクな建物のギブソン・ホールが建っている。その脇から自由に中に入れる。入口は小さいが、奥には広いキャンパスが広がっている。きれいに手入れが行き届いており、いかにもアメリカの名門私立大学という雰囲気である。大学のホームページには、バーチャル・ツアーのサイトがあって、各建物の歴史やエピソードなどを紹介している。ジョン・グリシャムの小説『ペリカン文書』(映画化もされた)の主人公は、トゥレーン大学の法学部の学生という設定である。
心理学科は、キャンパスの中ほどのパーシヴァル・スターン・ホールにある。日曜日の午後に行ったが、ビルの中に入ることができた。このビルは、自然科学の研究室が入っているビルであるが、2階に心理学事務室があり、3階に心理学教員の研究室が並んでいる。5名の教授をはじめとして、16名の教員がいる。認知心理学、産業組織心理学、学校心理学を中心にしたスタッフである。臨床心理学やカウンセリング心理学のコースはない。学生数は350名である。
トゥレーン大学のとなりにロヨラ大学がある。1837年に創立された名門大学で、学生数5500名(うち学部生3500名)の中規模大学である。セント・チャールズ通りに面して、大きな庭があり、正面がマーケット・ホールであり、左側に教会がある。中世的な宗教的なイメージで統一されている。キャンパスはきれいに整えられていて、建物も非常に美しい。大学のホームページには、バーチャル・ツアーのサイトがあって、各建物の歴史やエピソードなどを紹介している。
心理学科は、入り口近くのモンロー・ホールにある。中に入ることができた。この建物の4階の一部が心理学研究室になっている。こじんまりとしたスペースである。3人の教授をはじめとして、9名の教員がいる。学生数は300名である。
トレーン大学とロヨラ大学に行くには、セント・チャールズ・ストリート・カーという路面電車に乗る。ガタゴト揺られて30分くらいで大学に着く。この電車は150年以上も営業しているという世界最古の現役路面電車である。この沿線は、とても緑が多くて、乗っているととても気持ちがよく、落ち着いた気分になる。巨大な樫の木が、道と建物を覆っていて、アーケードのようになっている。
セント・チャールズ・ストリート・カーに乗ると、路線沿いに、ニューオーリンズ大学(UNO)の施設がいくつかある。ひとつは、ニューオーリンズ大学のダウンタウン・センターである。ニューオーリンズ大学の本部は、湖畔のレイクフロントにあるが、ニューオーリンズ市内にもいくつか建物を持っている。
もうひとつは、オッジェン南部美術館である。これはニューオーリンズ大学の付属施設であり、南部で生まれ育った芸術家の作品を中心に展示している。南部美術についてはアメリカ最大という。オッジェン南部美術館のあたりは「美術館地区」とも呼ばれ、すぐ向かいに現代美術センターがあり、近くのジュリア通りには、数多くのアート・ギャラリーが並んでいて、すばらしい絵が多い。ギャラリーについての情報は、オッジェン南部美術館にパンフレットが置いてある。また、オッジェン南部美術館のあるキャノン通りは、「博物館地区」と呼ばれ、南部同盟博物館、国立Dデイ博物館が並んでいる。また、近くには、ルイジアナ子供博物館もある。
また、路面電車の沿線には、美しい建物が並んでいる地区があり、「ガーデン地区」と呼ばれる。セント・チャールズ通り、マガジン通り、ジャクソン通り、ルイジアナ通りの4本に囲まれた60ブロックほどをさしている。高級住宅地で、歴史のある美しい建物が並んでいる(フロイトが晩年に住んだロンドンのハムステッドという高級住宅地に似ている)。1935年以前の建物が85%を占めるという。ニューオーリンズは、フランスの植民地だったところで、町はフランス人が作ったものという。綿花栽培で成功して大金持ちになったフランス移民が、競って美しい家を建てたのがこのガーデン地区である。アメリカの南部人といえば、奴隷を酷使した田舎の悪徳業者というイメージで語られているが、フランスの貴族階級の移民という側面もあり、北部の人間からは羨望の目で見られていたようである。このガーデン地区を見てみると、南部がいかに豊かでヨーロッパ的であったかがわかる。南部に対するイメージが変わるだろう。トゥレーン大学とロヨラ大学は、そうした古き良き高級住宅地の雰囲気にぴったりとけ込んでいる。 「ガーデン地区」については、旅行ガイドブックに、歩き方のモデルコースが載っているので、そのとおりに歩いてみると面白い。近くにはラフィエット墓地があり、日本では見られない珍しい形の墓石が並んでいる。
トゥレーン大学の向かいには、オーデュボン公園があり、しばらく歩くと動物園がある。ここは2000頭近くの動物が本来の生息環境に近い状態で飼育されており、アメリカでも最高級に評価されているという。トゥレーン大学から歩くと、かなり時間がかかる。筆者はたかをくくっていたら、すっかり暗くなってしまい、気がついたら、広いオーデュボン公園内で周りに誰もいなくなってしまっていた。タクシーも来ないので、途方に暮れて、結局セント・チャールズ・ストリート・カーまで歩いて戻った。いくら高級住宅地とはいえ、ルイジアナ州は、全米で最も犯罪が多い州であるとのこと。暗い空間にひとりでいると気がついた時は、ぞっとした。暗くなってからの行動はやめた方がよいだろう。
セント・チャールズ・ストリート・カーで、大学から5分ほど行くと、リバーベンドという学生街に出る。しゃれたレストランなどが並んでいる。
AABT(アメリカ行動療法促進学会)は、ニューオーリンズがお気に入りである。2000年に第34回大会が開かれ、4年後の2004年にも第38回大会が開かれた。2004年の大会プログラムには、次のように書かれている。
「なぜニューオーリンズで大会が開かれるのか? それは、この都市にはすべてがそろっているからです。
これほどべた褒めの文章からすると、大会準備委員の中によほどニューオーリンズびいきの人がいるに違いない。ブードゥー教博物館は、小さな部屋が2つくらいのミニ博物館である。
ニューオーリンズの路面電車は、旅行者にも利用しやすい。電車に乗るときに、1日券(5ドル)を買えば、電車とバスは1日乗り放題である。ニューオーリンズの情報については、『地球の歩き方B12 アメリカ南部』を参考にした。