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12.ペンシルバニア州立大学(アメリカ)2006年2月1日更新

 ペンシルヴァニア州は、アメリカの東海岸にある州である。細い長方形をしている。州都はハリスバーク(人口5万人)で、大都市のフィラデルフィア(人口150万人)とビッツバーグ(人口35万人)がある。
 ペンシルバニア州立大学(Pennsylvania State University)は、ペン・ステートと略称される。1855年創立であり、11の学部(カレッジ)を擁する。学部学生8万名、大学院生1万名、教職員2万名のマンモス大学である。日本からの留学生も300人という。ペンシルバニア州立大学は、ペンシルバニア州内に20カ所のキャンパスを持っているが、フィラデルフィアやビッツバーグといった大都市にはない。大学の中心となるのは、ユニバーシティ・パーク・キャンパスである。
 筆者は、2004年9月に、アメリカ東海岸の大学の学生相談機関を視察した時に、ペンシルバニア州立大学を訪れた。そして、アメリカ的な規模の大きさに驚かされた。日本にはこのような大学はない。一度は見ておきたいキャンパスといえる。ぜひこの大学について紹介したい。

ペンシルバニア州立大学のキャンパス

 まず、作られた場所が驚く。ペンシルバニア州は、細い長方形をしている。州の形が人工的である。そして、ちょうど定規で測ったように、長方形の中心に位置するのが、ユニバーシティ・パーク・キャンパスである。州立大学なので、州の中心に作ったわけである。そこは、ちょうど原野だった。したがって,このキャンパスは、何もない原野の中にポツンと人工的に作られた。広大な原野の中に、キャンパスを人工的に作った。こうした発想がアメリカ的である。
 交通も飛行機かバスしかない。驚くべきことに、大学のキャンパス内に空港がある。ユニバーシティ・パーク空港である。大学内に空港があるのは、世界でもここだけとのことである。ユニバーシティー・パーク空港へは、デトロイト空港やワシントンDCの空港などから行く。筆者は、フィラデルフィア空港から、36人乗りのプロペラ機に乗り、ユニバーシティ・パーク空港に着いた(筆者はプロペラ機に乗ったのは初めてであった)。帰りは、50人乗りの小型ジェット機だった。ユニバーシティ・パーク空港は、ステート・カレッジという都市にある。東京と成田空港の関係=ステート・カレッジとユニバーシティ・パークの関係である。空港から大学まで、車で15分くらいである。バスはないので、タクシーで行く必要がある。

ユニバーシティ・パーク・キャンパス

 このキャンパスは、広大な原野の中に、ポツンと作られた人工の町である。キャンパスがひとつの町を形成しているので、キャンパス内にあらゆる生活施設がある。そうしないと学生は生活できないからである。アメリカの大学のひとつの展型をなしている。  キャンパスをほぼ南北に走るのはパーク通りである。この通りに沿って、北から南へとキャンパス・ツアーをしてみよう。学内バスが通っている(バスのコースは、バス停の看板に書いてある)。学内の治安は良いようだ(少なくとも日中は)。

 このほかに、学内にゴルフコースが2つあるそうである。寿司バーも2つあるとか。キャンパスがひとつの町をなしている。

教育学部

 シーダー・ビルに教育学部がある。教育学部(カレッジ・オブ・エジュケーション)は、5つの学科からなる。①教育心理学・学校心理学・特殊教育学科、②カウンセラー教育・カウンセリング心理学・リハビリテーションサービス学科、③学習と技能システム学科、④カリキュラム教授学科、 ⑤教育政策研究学科である。  ①教育心理学・学校心理学・特殊教育学科には、この3つのコースがある。学校心理学クリニックが併設されている。  ②カウンセラー教育・カウンセリング心理学・リハビリテーションサービス学科も、この3つのコースに分かれている。カウンセリング心理学コースは、アメリカ心理学会(APA)認定のコースであり、科学者-実践家モデルに従った教育がおこなわれている。  カウンセラー教育の授業を聴講することができた。キャリア教育学やキャリア・カウンセリングを学んでいる日本人の留学生水野さんに案内してもらい、教員に頼んでもらい、授業を聴講した。カウンセラー教育コースのスペンサー・ナイルズ教授が担当する「キャリア・カウンセリング」という科目である。キャリア・ディベロップメント理論と研究であり、その日はスーパー(1969)によるキャリアの生涯発達理論について講義していた。聴講生は、20人くらいで、人種も年齢もさまざまな人が聞いていた。アメリカの大学の実際の授業を見ることができたのは幸いであった。

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心理学科

 ムーア・ビルに心理学科がある。心理学科は、一般教育学部(リベラルアーツ・カレッジ)に属している。
 心理学科には、40名の教員(教授と助教授のスタッフ)がいる。①臨床心理学、②認知心理学、③発達心理学、④産業・組織心理学、⑤社会心理学の5つのグループで研究がおこなわれている。
 臨床心理学のグループには、17名のスタッフがいる。教授のトム・ボーコベックは、不安障害の研究で有名である。ボーコベックは、心配(worry)や全般性不安障害(GAD)の研究のバイオニアである。ボーコベックの心配の研究成果は、DSM-Ⅳの全般性不安障害の定義にも取り入れられている。こうした基礎研究にもとづいて、全般性不安障害の認知行動療法の研究もおこなっている。
 心理学科には、心理学クリニックと子ども学習センターが併設されている。心理学クリニックは、学外のクライエントに対する心理学的な治療サービスをおこなう機関である。

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MBNAキャリア・サービス・センター

 学生を支援する体制も整っており、学生支援組織が25ある。キャリア・サービス、カウンセリング心理サービス、大学健康サービス、ペンシルバニア警察、学習サポートなどである。
 このうち、キャリア・サービスとは、日本の大学では、就職部に当たるだろうが、それよりはるかに幅広い活動をしていたので、驚いた。ぜひ日本にも紹介したい。
 MBNAキャリア・サービス・センターは、1972年に、ペンシルバニア州立大学のキャリア・ディベロップメント・アンド・プレイスメント・センターとして創立された。その後、拡張を続け、1997年に、キャリア・サービスと名前が変わった。2002年に、企業や個人から950万ドルを集めて、MBNAキャリア・サービス・センターが作られた。MBNAとは、スポンサーの銀行の名前である。これにみられるように、企業からの寄付で運営されている部局である。建物も企業からの資金で建てられた。大学からはほとんどもらっていないという。
 このような急激な発展は、所長ジャック・レーマン教授の活動によるところが大きい。レーマンは、アメリカの各大学のキャリア・サービスを100カ所以上見学して、いいところをすべて取り入れて作ったというからすごい。このような精力的な行動指針は、筆者にも大きな影響を与えた。
 レーマンは、われわれ一行の繁桝算男先生のアイオワ大学時代の友人である。2004年のわれわれの視察旅行全体のサポートをしてくれた。レーマンは、建物の隅々まで案内し、たくさんの資料を使って説明してくれた。夜に空港に到着したわれわれを出迎えてくれたのは、このセンターの副所長でキャリア・カウンセリング&プラニング部門の責任者のオーンドーフ博士と、同部門の副責任者クラーク博士であった。
 スタッフは、13名の常勤の他に、大学院生スタッフや、アシスタントなど、合計33名がいる。専門のバックグラウンドはさまざまである。所長のもとに、①キャリア・カウンセリング&プラニング部門、②リクルート&企業関連部門、③プログラミング&教育信用サービス部門の3つの部門からなっている。それぞれの部門を担当する副所長がいる。このうちの、①が、学生に対するキャリア・カウンセリングをおこなっており、7名のキャリア・カウンセラーがいる。予算は独自で確保する。セミナー出展企業からや、学生のセミナー参加費などでまかなう。大学から支出されるのは、2000ドル(約20万円)だけである。
 センターの仕事は、大きく、学生へのキャリア・カウンセリングと、企業のオン・キャンパス・リクルーティングと学生の間を仲介することとに分かれる。
 学生へのキャリア・カウンセリングについては、7名のキャリア・カウンセラーが担当している。平均すると、3~4セッションである。
 もうひとつの仕事は、企業と学生の仲介である。企業の人事採用の情報を収集し、それを学生に示すことも大きな仕事である。また、「キャリア・デイ」のような催し物を頻繁に行っていた。学生や大学院生が就職するためにどのようなことをすればよいかを詳細に解説したパンフレットを作って、配付していた。
 アメリカの企業は、「オン・キャンパス・リクルーティング」が基本である。つまり、企業が直接、大学に来て、学生をリクルートする。その面接の場所を提供するのがこのセンターである。センターの建物は、AT&Tやグッドイアー・タイア、テキサス・インスツルメントといった企業や、NASAなどの組織からの寄付で建てられた。センターの中には、こうした企業名が入った部屋が作られている。その部屋に、その企業の担当者がやってきて、学生と直接面接をして、リクルート活動をする。こうしたシステムは、日本の国公立大学では考えられない。
 視察後、レーマンは、われわれ一行を自宅に招いてくれた。大学のキャンパスの近くに自宅がある。林の中にある高級住宅地で、治安は非常に良い。レーマンは、家を自分で作ったとか。車を3台持っている。トヨタの赤いオープンカー(ミヤタ)に乗せてくれた。娘さんが2人いて、日本に来たという。

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カウンセリング心理サービス

 ペンシルバニア州立大学のカウンセリング心理サービス(Counseling and Psychological Services:CAPSと略)を視察することができた。CAPSは、大学のライトナウアー健康センターの中にある。3階建ての大きな建物であるが、これをCAPSと大学健康サービスで使っている。カウンセリング用の部屋がたくさん並んでいた。
 2人の副所長が応対してくれた。われわれが行くと、多くのスタッフが出迎えてくれて、ランチが用意されていた。スタッフと話しながらランチを取り、その後、副所長ワディントン博士と副所長イルフェルダー-ケイ博士に詳しく話しを聞くことができた。
 スタッフは、心理学者10名、精神科医5名、ソーシャルワーカー5名、看護師1名、他に事務やインターン生などを含めて、全体で26名である。バックグラウンドはさまざまである。心理学者はみんなPh.Dを持っている。大学の副学長(学生問題担当)がトップである。副学長をトップにして、その下に所長と2人の副所長がいる。
 来談した学生のDSM-Ⅳ(精神障害の診断統計マニュアル第4版)での内訳をみると、多い順に、気分障害34%、適応障害17%、不安障害17%、生活環境問題8%、物質使用障害6%、摂食障害6%、身体的心理的虐待被害6%、ADHD3%、人格障害1%、アイデンティティ問題1%であった。DSM-Ⅳの第4軸における心理社会的ストレッサーの分類によると、一次支持グループ(家族など)52%、社会的環境(友人など)49%、学業上の問題29%、経済的問題7%などであった。DSM-Ⅳの第5軸では、重度障害5%、中程度障害36%、軽度障害44%、最小障害15%であった。
 メンタルヘルス関係で1年間におこなったサービスを調べると、インテーク面接1931件、危機介入882件、個人カウンセリング5239件、集団カウンセリング2550件、集団評価359件、精神医学的サービス1545件、心理テスト52件であった。ほかに、アウトリーチ、ワークショップ、コンサルテーション、オンラインチャット、学部クラスでのカウンセリング、職員向けワークショップなどをおこなっている。また、CAPSを宣伝するビデオを作って、学生に配付した。このビデオは評判が良く、カウンセラーは道を歩いていても学生から声をかけられたりするという。これがCAPSの宣伝に一役買っている。
 CAPSの活動はかなりアクティブである。学生相談としてできることはすべておこなうという姿勢である。「CAPS:戦略的プラン2002-2003」という文書によると、具体的な目標を定めている。こうした充実した活動を支えているスタッフの充実ぶりも目を見張るものがある。心理学者を中心に、精神科医やソーシャルワーカーなど、異職種の専門家集団で対応している。そうした異職種の専門家間のコミュニケーションを支えているのがDSM-Ⅳ(精神障害の診断統計マニュアル第4版)のような診断ツールである。このような傾向は、日本の学生相談所では考えられないことである。

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