認知行動療法を学ぼう世界の大学と病院を歩く丹野研究室の紹介駒場の授業
home世界の大学と病院を歩く2003年BABCP(イギリス・ヨーク): 丹野義彦 2003年7月

2003年BABCP(イギリス・ヨーク): 丹野義彦 2003年7月

1.どんな学会が、いつ、どこで開かれるか

英国認知行動療法学会 British Association of Behavior and Cognitive Psychotherapies(BABCP)
日時:2003年7月16日~19日
場所:イギリス・ヨーク大学
(ヨークは、ロンドンとエディンバラの間にある都市。ロンドンから列車で2時間ほどの距離)

2.どんな領域の研究者が参加するか、どんな雰囲気の学会か

 BABCPは、イギリスの認知行動療法の学会である。イギリスの臨床心理士はおもに認知行動療法をおこなうので、臨床心理士にとって中心的な学会である。
 発表の領域は、だいたい4つのテーマに分かれる。①抑うつ、②不安障害、③精神病、④発達障害。
 いずれも臨床研究と基礎研究からなる。臨床研究が主であるが、非臨床アナログ研究もある。
 全体に参加者の年齢が若い。これらの指導者たちも、だいたい30歳代~40歳代である。出席している人も、20歳代~30歳代の人が多い。認知行動療法そのものがまだ若い学問なので、指導者も若いのである。臨床心理士制度が整ったのも最近のことなので、臨床心理士の平均年齢もまだ若い。若さにあふれてパワーがある。
 参加しているほとんどはイギリスの白人である。アメリカやオーストラリアからゲスト・スピーカーが何人もきている。今年はペネベイカー、ノバコなど。
 白人以外の人種は少ない。アジア系の人はわずかだが、ほとんどは香港人とかインド人である。

3.学会の規模は。 何人くらい参加するか

 700人くらい参加する中規模学会である。7割くらいが臨床心理士で、3割くらいが精神科医とのことである。初日のワークショップだけで600人の参加者がある。

ページのトップへ戻る

4.どんなプログラムがあるか、その内容で印象に残ったことは

①シンポジウム

 学会の中心を占めるプログラム。企画された質の高いプログラム。1人40分くらいのまとまった話をして、同じテーマで4~6人が話すので、非常に勉強になる。日本人にはわかりやすい。事例の話はほとんどなく、治療効果研究や実験研究である。また、日本の学会と違って、個人の研究発表は少ない(ポスターのみ)。個人の研究発表の場ではなく、勉強する場という感じである。
 丹野は精神病のセッションを主に聞いていたが、今年はモリソン・ターキングトン・スティールたちが「精神病とPTSD」というテーマで、連続のシンポジウムをしていた。いずれも若手であり、今年は若手の台頭が目立った。これにバーチウッドやファウラーなどのベテランも参加していた。もともと、統合失調症の幻聴や妄想は、PTSDの侵入的な想起の症状と類似性がある。また、幼児期の虐待などの体験が、精神病やPTSDなどの脆弱性として働くことも知られている。さらに、最近は、ロンドン大学のクラークとエーラーズたちが、PTSDに対する認知行動療法の方法を確立した。こうした発展が刺激となって、マンチェスター大学のモリソンや、ニューキャッスル大学のターキングトンたちが、精神病に対するPTSD的アプローチを試み始めた。これについての臨床ワークショップも開かれており、丹野はこのワークショップにも出た。
 また、ロンドン大学のガレティ・フリーマン・ピーターズのグループは、PRPについての中間発表をしていた。PRPとは、Psychological Prevention of Relapse in Psychosis(精神病の再発予防のための心理学的介入)の略である。これは、統合失調症に対する認知行動療法や家族介入の効果をRCTで調べる5年間のビッグ・プロジェクトである。

②講演(keynote address)

 著名な研究者による1時間の講演会。全体で15本くらい。今回聞いた講演は、精神病の認知行動療法(デイビッド・ファウラー)、精神病とPTSD(アントニー・モリソン)、筆記法と健康(ジェームス・ペネベイカー)、不安障害のアナログ研究(グラハム・デイビー)。日本人にはわかりやすいし、勉強になる。

③パネル・ディスカッション

 1本くらい。今年は、サルコフスキス・ガレティ・タリア・ターピンといった世界をリードする研究者が同時に出て、研究法について話した。壮観であり、研究の裏話が聞けて面白かった。ガレティはRCTの苦労と意義について明確に述べていて参考になった。

ページのトップへ戻る

④ポスター発表

 個人の発表はポスター発表のみ。ポスター発表の数は少ない。1日20人くらい。休憩所の近くでおこなわれるので、昼休みは多くの人が見に来てくれる。割に大物も見に来る。サルコフスキスなどはいつもポスターをていねいに見に来てくれる。

⑤ワークショップ

 学術プログラムと併設しておこなわれる臨床訓練の場。こちらでは事例の話もよく出る。大会の前日は、一日中ワークショップがおこなわれることが多い。大会期間中は、3時間ほどの短いワークショップが並列しておこなわれることが多い。
 ワークショップについて詳しく述べる。初日(16日)は、臨床ワークショップの日であり、学術プログラムはない。初日の参加者は600人ということであった。ワークショップに参加するためには、会員が120ポンド、非会員が150ポンド、学生会員が100ポンドを払う必要がある。
 丹野はモリソンとターキングトンの「精神病とPTSD」というワークショップに出た。モリソンは、マンチェスター大学の臨床心理学の講師であり、精神病の認知行動理論で有名な若手心理学者である。この人の妄想の心理学的理論は最近注目を浴びており、昨年"A Casebook of Cognitive Therapy for Psychosis"という本を出している。ターキングトンは、ニューキャッスル大学の精神科上級講師で、ギングドンと共著の『統合失調症の認知行動療法』という本が昨年邦訳された(原田誠一訳、日本評論社刊)ように、統合失調症の認知行動療法のバイオニアである。
 このワークショップの参加者は45人くらい。トラウマのアセスメントのしかた、ケース・フォーミュレーションの仕方、介入のしかたなどについて、事例を交えながら解説してくれた。口頭での英語は理解しにくいが、パワーポイントのスライドをすべて配付資料として配ってくれるので、内容はつかめた。途中で2介入ほどロールプレイが入るが、何とかこなした(オブザーバーとしてロールプレイを聞かせてくれと頼んで見学させてもらう)。9:30-17:00までびっしり研修して、充実感と疲労。
 山崎君は、スミスの「精神病の早期介入」に出た。このワークショップは10人ほどのこじんまりとしたセッションであった。最初に2人1組になり、お互いの自己紹介をして、それをもとに相手のことをみんなに紹介するというエクササイズから始まったとのこと。

ページのトップへ戻る

5.有名な研究者でどんな人が参加するか

 BABCPで活躍する研究者は、①抑うつではスコット、ティーズデイル、ラム、ウィリアムズ、ブリューイン、など。
 ②不安障害では、クラーク、サルコフスキス、エーラーズ、ウェルズ、デシルバ、マークス、シャフラン、マクロードなど。
 ③精神病では、以下の4つのグループがしのぎを削っている。
ロンドン大学グループ(ガレティ、ピーターズ、フリーマン、スティール)、
マンチェスター大学グループ(タリア、ベンタル、バロウクロウ、モリソン)、
バーミンガム大学グループ(バーチウッド、ジャクソン)、
ニューキャスル大学グループ(ターキングトン)。
 今回見かけた人は、ラム、ウィリアムズ、ブリューイン、サルコフスキス、デシルバ、マークス、シャフラン、マクロード、ガレティ、ピーターズ、フリーマン、スティール、タリア、バロウクロウ、モリソン、バーチウッド、ジャクソン、ターキングトンなど。とくに統合失調症の認知行動療法関係については、イギリスの有名な人はほとんど見かけた。

6.日本から誰が参加していたか

 日本からは3人の参加者があった。丹野と山崎と、群馬大学の安藤先生(ポスター発表)。
 2001年のグラスゴウ大会に参加したときは、日本人は丹野ひとりであったが、今年は3倍になったことになる。来年のマンチェスター大会では、10人くらいの参加者にしたいものである。
 口頭の英語は理解しにくいので、質疑応答などはあまり理解できないが、ほとんどの発表者はパワーポイントのスライドを使ってプレゼンテーションをするので、日本人にも内容はわかる。

7.発表申し込みの〆切はいつか、大会参加費はいくらか

 ポスター発表などのアブストラクトの〆切は 2003年3月28日。
 だいたい例年、発表申し込みが3月くらいで、大会は7月にある。ただ、2004年は例外で、9月に開かれる。
 参加費は、会員が230ポンド、非会員が275ポンド、学生会員が150ポンド(1ポンドはだいたい190円)である。
 丹野はこの学会の会員になっているが、年会費は49ポンドをクレジットカードで払っている。

8.次回の学会はいつどこで開かれるか

 BABCP(英国認知行動療法学会)は、例年は7月だが、2004年は例外的に9月7日-11日に開かれる。2004年は、BABCPとEABCT(欧州認知行動療法学会)の合同開催だからである。出席者は多いと思われる。場所は、マンチェスターのUMIST(University of Manchester Institute of Science and Technology)で開かれる。UMISTはユーミストと読む。マンチェスター駅から歩いてすぐのキャンパスなので便利な場所である。マンチェスターはロンドンから列車で3時間。

9.学会や大学や旅行や観光で気がついたこと、その他

 ヨーク大学は、新しいキャンパスで、イギリスの大学としては珍しい。学内はアメリカ的で広々としており、動物が放し飼いになっている(その動物のフンを何回も踏んで、靴はフンだらけになった)。ヨーク大学の心理学部は大きな学部であり、建物が3つもあるのには驚いた。ヨーク駅のすぐそばにあるロイヤル・ヨークというホテルに泊まって、バスで大学まで通ったが、大学は終点なのでわかりやすい。  ヨークの観光は、ヨーク・ミンスター(大聖堂)と城壁が有名である。ヨーク・ミンスターはイギリスで一番大きな教会とのことで、その巨大さには驚く。また、駅前から市内を囲むように城壁が続いていて、その上を散歩できる。イギリスの7月は日が長くて、夜10時近くまで明るいので、学会が終わってから、城壁の上を散歩に出かけても気分がよい。治安も良く、危ない感じはしなかった。  ヨークは、ロンドンとエディンバラのちょうど中間になり、それぞれ列車で2~3時間で行ける。会議が終わってから、ロンドンやエディンバラに寄ることもおすすめできる。エディンバラは、スコットランドの首都で、一度行ったら魅せられることだろう。

次を見る→

ページのトップへ戻る