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2003年 AABT(アメリカ行動療法促進学会): 丹野義彦 2003年11月

1.どんな学会が、いつ、どこで開かれるか。

行動療法促進学会(Association for Advancement of Behavior Therapy:AABT)
日時:2003年11月18日から11月25日
場所:アメリカのボストンのマリオットホテル

2.行動療法促進学会(AABT)はどんな学会か

 行動療法促進学会(Association for Advancement of Behavior Therapy:以下AABTと略)は,名前は「行動療法」となっているが、実質は認知療法と行動療法のすべてを含んでいる。出席している顔触れは認知行動アプローチの世界的なメンバーである。米国の国内学会とはいうものの,イギリスやオーストラリアなど多くの国から出席者がある国際的な学会である。木曜日がワークショップ,金曜から日曜日までが大会である。交通と宿泊の便を考えて大きなホテルで開かれる。会員はホテルに宿泊し、4日間缶詰になって学会に参加する。これまで、2001年はフィラデルフィア,2002年はリノで開かれた。2004年はニューオーリンズ、2005年はワシントンで開催される。(ホームページは http://www.aabt.org/ )
 2003年はボストンのマリオットホテル(Boston Marriott Copley Place)で開かれた。大会の参加者は、全体で約3000人ということであった。日本心理学会大会くらいの大きな学会ということができる。
 今大会に出席した顔触れは,
アーロン・ベックをはじめとして,
アーサー・フリーマン(フィラデルフィア・カレッジ)、
トーマス・ボーコベック(ペンシルバニア州立大学)、
エドナ・フォア(ペンシルバニア大学)、
スティーブン・ホロン(バンダービルト大学)、
マーシャ・リネハン(ワシントン大学)、
ジュディス・ベック(ペンシルバニア大学生)、
ジャクリーヌ・パーソンズ(サンフランシスコ認知療法センター)、
ジェフリー・ヤング(コロンビア大学)、
クリスティン・パデスキー(カリフォルニア大学)
などである。認知行動アプローチのビッグネームはほとんど参加している。
また、地元ボストンのデイビッド・バーロウ(ボストン大学)、
リチャード・マクナリー(ハーバード大学)、
ジェローム・ケイガン(ハーバード大学)、
カバット-ジン(マサチューセッツ医科大学)
なども出ていた。
さらに、イギリスからは、デイビット・M・クラーク(ロンドン大学)やクリストファー・フェアバーン(オクスフォード大学)なども参加していた。
 日本からは、北海道医療大学(前早稲田大学)の坂野雄二先生と研究室から数名、関西学院大学の松見淳子先生と研究室から数名の参加があった。日本からの参加者は、筆者も含めて15名程度であった。昨年のリノでの大会では3名であったので、今年は5倍に増えたということができる。

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3.学会の発表内容について

 シンポジウムや講演の内容を見ると,実証にもとづく臨床心理学(Evidence-based approach)や科学者-実践家モデル(Scientist-Practitioner Model)ということが当然のこととして語られていた。治療効果についての演題が非常に多く、無作為割付対照試験(Randomized Controlled Trial: 以下RCTと略す)の発表が多く見られた。RCTをめざすのは当然といった雰囲気であった。日本のような事例検討や事例報告の発表はほとんど見られなかった。臨床場面での具体的な問題については,学会と同時におこなわれている「ワークショップ」で話されている。学会はアカデミックな科学的な発表の場であり,ワークショップは,1日くらいかけてゆっくりと,臨床場面の具体的なケースや治療技法などについての学ぶ講習会のようなものである。
 学会プログラムの領域別目次で,シンポジウムやワークショップの領域数を調べた。それによると、多い順に、
子ども関係(35件),
抑うつ(27件)、
PTSD(21件),
思春期(20件)、
強迫性障害(20件),
不安(17件),
健康心理学(17件)、
嗜癖行動(15件)、
摂食障害(11件)、
マインドフルネス(10件)、
統合失調症(8件),
対人恐怖(8件),
人格障害(4件)といった順であった。9月11日をテーマにしたシンポジウムなども7件あった。学会の構成がこのように対象別になっているのも特徴である。また、アメリカでは統合失調症についての発表は少ない。これは、イギリスの認知行動療法学会で統合失調症についての発表が多いのとは対照的である。
 筆者が聞いたシンポジウムや講演はいずれも印象的なものであった。ハーバード大学のジェローム・ケイガンの講演(司会は同じくハーバード大学のマクナリー)、デービッド・クラークとエドナ・フォアの社会恐怖についてのシンポジウム、松見先生の企画したシンポジウム、リネハンやヤングのパネル・ディスカッション、ジャクリーヌ・パーソンズの会長講演、ジュディス・ベックやフリーマンやパデスキーのパネル・ディスカッションなどのプログラムに参加した。
 また、AABTの授賞式を覗いたら、南カリフォルニア大学のジェラルド・デビソンがLifetime Achievement Awardを受賞していた。デビソンは、"Abnormal Psychology"の著者としても有名であり、邦訳もある(誠信書房刊)。
 行動療法促進学会という名称であるが、実際には、認知療法家も多い。そこで、学会の名称を行動認知療法学会(Association for Behavioral and Cognitive Therapies; ABCT)に変えようという動きがある。今年の学会でも名称変更についてのシンポジウムが開かれて、賛成と反対の両方から活発に意見が出ていた。アメリカやイギリスやオーストラリアなどでは、行動療法と認知療法は同じ傘の元でひとつの学会を形成している。行動療法学会と認知療法学会とに分かれている日本とは対照的である(これに限らず、日本は小さな学会が林立しすぎであり、何とか統合できないものだろうか)。

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4.ワークショップ

 学会と併設してワークショップが開催されていた。ワークショップとは、臨床のスキルを身につけるための研修会である。ビデオで事例などを提示して,臨床家にわかりやすい形で研修がおこなわれる。初心者向け・中級者向け・上級者向けといった具合に、対象が限定されている。今回のAABTでは、以下のようなさまざまな形式のワークショップや研修会がおこなわれていた。こうした研修会は非常に活発であり、臨床スキルの獲得に大きく役に立つ。また、卒後研修のポイントにもなるため、かなりの出席者がある。

ワークショップ

 21個のワークショップ(3時間)がおこなわれた。アーロン・ベックをはじめとして、ネズ夫妻(ドレクセル大学)、リーヒー (ウェイル・コーネル・医学校)、ペトレンコ (ニュージャージー州立大学)、オットーとニーレンバーグ(ハーバード大学マサチューセッツ総合病院)、アルバーノ (ニューヨーク大学医学部)といった人たちがワークショップを開いていた。

臨床介入トレーニング

 クリストファー・フェアバーン(オクスフォード大学)が、「摂食障害の認知行動療法」という2日間のコースを出していた。また、トーマス・ボーコベック(ペンシルバニア州立大学)が「全般性不安障害の認知行動療法」という1日コースを、クリスティン・パデスキー(カリフォルニア大学)が「慢性的問題の認知療法」という1日コースを出していた。

マスター・クリニシャン・セミナー

 これは、ビデオでの事例の学習を含む2時間のコースであり、キム・ハルフォード(グリフィス大学)、シーゲル(トロント大学)など7つのプログラムがあった。

ワールド・ラウンド

 これは世界的な臨床家が、模擬クライエントを相手に、2.5時間のライブセッションをおこなうものである。今回は、ソーベル、バウコム、ジュディス・ベック、フェアバーンの4人の臨床家がライブセッションをおこなった。これらは学会後にビデオとして販売される。

インスティチュート

 これは、臨床家とのディスカッションを中心とした5時間のワークショップである。今年は、デイビッド・クラーク(ロンドン大学)、サンダース(クイーンランド大学)、シーゲル(トロント大学)など7つのプログラムが出されていた。
 個人的にはロンドン大学のデイビッド・クラークのPTSDについてのワークショップを聞きたかったが、40人限定とのことで聞けなかった。デイビッド・クラークをCOEプログラムにより来日を打診することが大きな目標であった。ワークショップ後のクラークと交渉したが、2004年にはスタンフォード大学への長期滞在が決まっており、そのための準備で忙しく、残念ながら2003年の来日は難しいという返事であった。したがって,2004年の神戸の世界行動療法認知療法会議に出席することも難しいということであった。

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5.WCBCTの委員会について

 2004年7月に神戸で開かれる世界行動療法認知療法会議の準備や打ち合わせをすることも今回のAABT出席の大きな目的であった。11月21日(金)午前9時30分から会場でWorld Congress Committeeが開かれた。出席者は、Art Nezu(WCC chair, AABT), Robert Leahy(IACP), Lars-Goran Ost(EABCT), Yuji Sakano(Asian organizer)であり、筆者もオブザーバーとして参加した。坂野先生から2004年の神戸大会の進行状況についての説明があり、それに対する質疑があった。また、次の2007年のWCBCTは、スペインのバルセロナ国際会議場で開かれる可能性の高いことが報告された。
 続いて、21日(金)午前11時00分から、AABTのInternational Associates Meetingが開かれ、ここでもオブザーバーとして参加した。出席者は、Art Nezu(AABT Committee chair), Robert Leahy(IACP, USA), Lars-Goran Ost(Sweeden), Yuji Sakano(Japan),Chris Nezu(AABT), Rod Holland(EABCT, England), Felicitas Kort(Venezuela),Patric Legeron(France),Morris(BABCP, England),Mary Jane Eimer(AABT)であった。ここでも坂野先生から2004年の神戸大会の進行状況についての説明があり、次の2007年のWCBCTの会場についての報告があった。
 この日は、International Associates Meetingのディナーがあり、会議のメンバーがそろって市内のレストランで食事をした。
 WCBCT神戸大会の宣伝については、筆者は昨年のイギリスでの在外研究でも多くの人に宣伝をしていたが、この学会でも大会パンフレットを参加者にすすめた。

6.ボストンの臨床心理学の施設

 会議後の半日を利用して、ボストンの臨床心理学や精神医学の施設を見学することができた。その報告については、このホームページの「世界の臨床心理学の研究施設を訪ねる」のコーナーを参照のこと。

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