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2004年 AABT(アメリカ・ニューオーリンズ) 丹野義彦 2004年11月30日

 2004年11月18日から11月21日まで,アメリカのニューオーリンズで開かれた米国行動療法促進学会AABT(Association for Advancement of Behavior Therapy)に出席してきた。この学会で、米国における認知行動療法の最前線に触れることができたので報告しておきたい。

1.ABCTへと名称変更になったこと

 今年はAABTの最後の大会となった。というのも、この学会は、今年からABCT(Association for Behavioral and Cognitive Therapies; 行動認知療法学会)と名前を変えることに決まったからである。昨年の大会でも名称変更についてのシンポジウムが開かれて、賛成と反対の両方から活発に意見が出ていた。今年、名称変更について投票があった。丹野もこの学会の会員なので、投票用紙が送られてきて、賛成票を投じた。投票の結果、会員の4割の投票があり、そのうち8割の賛成があったので、名称が変わることになった。坂野雄二先生によると、数年前にも名称変更の投票があったが、賛成票が規定に達せず、流れたとのことである。今年、やっと変更できたわけである。
 これによって、以下のように、ほとんどの欧米諸国では、行動療法と認知療法はひとつの学会の中で活動することになった。
アメリカ行動認知療法学会(ABCT:Association for Behavioral and Cognitive Therapies)
ヨーロッパ行動認知療法学会(EABCT:European Association of Behavior and Cognitive Therapies)
イギリス行動認知心理療法学会(BABCP:British Association for Behavioural and Cognitive Psychotherapies)
フランス行動認知療法学会(FABCTまたはAFTCC:French Association of Behavior and Cognitive Therapy)
オーストラリア認知行動療法学会(AACBT:Australian Association for Cognitive and Behaviour Therapy)
 行動療法学会と認知療法学会が分かれているのは日本だけとなってしまった。日本認知行動療法へと統合しないものだろうか。

2.大会について

 AABTは、木曜日がワークショップ,金曜から日曜日までが大会である。交通と宿泊の便を考えて大きなホテルで開かれる。会員はホテルに宿泊し、4日間缶詰になって学会に参加する。これまで、2000年はニューオーリンズで開かれ、2001年はフィラデルフィア,2002年はリノ、2003年はボストン、2004年はニューオーリンズで開かれた。2005年はワシントン,2006年はシカゴで開催される。
(ホームページは http://www.aabt.org/
 2004年はニューオーリンズのヒルトン・リバーサイド・ホテル(Hilton New Orleans Riverside)で開かれた。大会の参加者は、全体で約3000人ということであった。日本心理学会大会くらいの大きな学会ということができる。
 今大会に出席した顔触れは,アーサー・ネズとクリスティン・ネズ(ドレクセル大学)、エドナ・フォア(ペンシルバニア大学)、スティーブン・ホロン(バンダービルト大学)、マーシャ・リネハン(ワシントン大学)、ジュディス・ベック(ペンシルバニア大学)、ジャクリーヌ・パーソンズ(サンフランシスコ認知療法センター)、ジェフリー・ヤング(コロンビア大学)、クリスティン・パデスキー(カリフォルニア大学)、キム・ミューザー(ダートマス医科大学)などである。例年参加しているアーロン・ベックは、病気のため不参加であった。イギリスからは、オクスフォード大学のクリストファー・フェアバーンやロズ・シャフラン、アリソン・ハーヴェイなどが参加していた。
 日本からは、北海道医療大学の坂野雄二先生と研究室から数名、関西学院大学の松見淳子先生と研究室から数名の参加があった。日本からの参加者は、筆者も含めて15名程度であった。昨年のボストン大会と同じくらいであった。フィラデルフィアで開業している鈴木孝子さんは、アジアン・アメリカンのSIGのリーダーをしていた。

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3.学会の発表内容について

 学会プログラムの領域別目次で,シンポジウムやワークショップの領域数を調べた。それによると、多い順に、
抑うつ(41件)、不安(37件),子ども(32件),思春期(27件)、強迫性障害OCD(17件),健康心理学(17件)、嗜癖行動(17件)、カップル療法(16件)、物質乱用(16件)、訓練(16件),PTSD(15件),暴力(12件)、全般性不安障害GAD(12件)、対人恐怖(12件),家族療法(11件)、受容・関与療法ACT(10件)であった。例年は多い摂食障害(9件)、マインドフルネス(7件)、統合失調症(5件),人格障害(4件)などは今年は少なかった。
 筆者が聞いたシンポジウムや講演はいずれも印象的なものであった。ベラック(メリーランド医科大学)の統合失調症についてのシンポジウムには、キム・ミューザー(ダートマス医科大学)が指定討論者として入っていた。イギリスのエクセター大学のワトキンスの抑うつと不安のシンポジウムには、スーザン・ミネカ(ノースイースタン大学)や、スーザン・ノレン=ホエクセーマ(ミシガン大学)が話題提供していた。ノレン=ホエクセーマの発表は、抑うつに対して、気晴らし療法とマインドフルネス療法とを比較して、前者は効果があるが、後者は効果がないことを示したもので、明快であった。また、抑うつの脆弱性についてのアベラ(マクギル大学)のシンポジウムには、ローレン・アロイ(テンプル大学)が指定討論者をつとめていた。アロイにはシンポジウム直後に直接話を聞いたが、その日11月20日が誕生日とのこと。また、ソーベル、ホロン、ウィルソンらのパネル・ディスカッションも聞いた。
 会長講演は、パトリシア・レズニック(ボストン大学)が、PTSDの症候学について話した。DSM-Ⅴに向けてのPTSDの新基準の提案をしていた。DSM-Ⅴに名前が載るというのはアメリカの臨床心理学者の夢なのだと実感した。
 AABTの授賞式は、アーサー・ネズ(ドレクセル大学)がAABTへの顕著な貢献賞を受賞していた。坂野先生と昼食をとっていたら、ネズ夫妻と会い、そこで受賞の盾を見せてくれた。ヒューストンのリオナルド・アルマンがLifetime Achievement Awardを受賞していた。アルマンは、統合失調症についての論文を読んだことがあるが、クラウスとアルマンの教科書は、行動療法の定番教科書(坂野先生)だったそうである。アルマンは、すでに仕事は引退しているとのことだが、松見先生のハワイ大学時代の指導教官ということで、松見先生も会場にいらしていた。スピーチの時に、すべての聴衆が立ちあがって拍手をしたので、アルマンは感涙にむせて言葉にならないこともあった。この賞はそれだけ権威のあるものなのだろう。

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4.ワークショップ

①ワークショップ

 21個のワークショップ(3時間)がおこなわれた。ヘイズ(ネバダ大学)、エドナ・フォア(ペンシルバニア大学)、コーレンバーグ(ワシントン大学)、ペトレンコ (ニュージャージー州立大学)、オットー(ハーバード大学マサチューセッツ総合病院)、といった人たちがワークショップを開いていた。

②臨床介入トレーニング

 ジュディス・ベックが「認知療法の基礎」という2日間のコースを出していた。また、アルバーノ、リンダ・ソーベル、リネハンとコースランドが、それぞれ1日間のコースを出していた。

③インスティチュート

 これは、臨床家とのディスカッションを中心とした5時間のワークショップである。今年は、ディギウセッペ、ジェフリー・ヤング(コロンビア大学)など7つのプログラムが出されていた。

④上級方法論・統計セミナー

 これは、臨床研究者のための方法論を中心とした4時間のセミナーである。今年はネズ夫妻(ドレクセル大学)らがプログラムを出していた。

⑤マスター・クリニシャン・セミナー

 これは、ビデオでの事例の学習を含む2時間のコースであり、ジュディス・ベック、リネハン、ジェフリー・ヤングなどが8つのプログラムを出していた。

⑥臨床グラウンド・ラウンド

 同じ模擬クライエントを相手に、3人の臨床家がライブセッションをおこない、最後に自分の技法について議論をおこなうプログラムである。パーソンズが認知行動療法、コーレンバーグが機能分析、ゴールドフリードが統合的アプローチの面接をおこなった。模擬クライエント役を勤めるのは、ボストン大学のボニー・コンクリンである。

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5.出版社の展示コーナーはワンダーランド

 今年は出版がすごい勢いである。2003年AABTでは、認知行動療法の新刊は一段落したという感じで、あまりなかったが、2004年のAABTでは、新刊がどんどん出ていた。2004年になって新しい面白い本がどんどん出ているのにはびっくりして、ついたくさん買ってしまった。これまでのビッグ・ネームだけでなく、若手がどんどん本を出している。この分野に新しい才能がどんどん集まっているという感じである。イギリスでも、オクスフォード大学のアリソン・ハーヴェイやロズ・シャフラン、マンチェスター大学のモリソンらが新刊を出していた。また、バーチャル・リアリティの実演コーナーも楽しい。機械は毎年進歩していることがわかる。「不安障害のバーチャル・リアリティ療法」という本も出た。

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