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5.グラスゴウ(イギリス) 2005年6月3日更新

 グラスゴウは、スコットランドで最大の都市である。グラスゴウ市の中心には、クイーン・ストリート駅があり、そこから地下鉄も出ている。グラスゴウには、大きな大学が2つある。グラスゴウ大学とストラスクライド大学である。いずれも心理学科を持っている。
 エディンバラからの列車はクイーン・ストリート駅に着き、ロンドンからの列車はセントラル駅に着く。グラスゴウ国際空港からの列車もセントラル駅に着く。スコットランドで唯一の地下鉄が走っていて便利である。

1)グラスゴウ大学

 グラスゴウ大学が創立されたのは1451年であり、スコットランドでは、セント・アンドリュース大学(1411年創立)に次いで古い。建物も中世的で、荘厳である。キャンパスは歴史の重みを感じる。
 クイーン・ストリート駅から、地下鉄に乗って4つ目のヒルヘッド駅で下車し、歩いて5分ほどでキャンパスに着く。タクシーだと、クイーン・ストリート駅から5分ほど。

グラスゴウ大学心理学科

 キャンパスの中央を、ユニバーシティ通りが横切っている。キャンパス中央でユニバーシティ通りと直角に交わるのがヒルヘッド通りである。この通りのヒルヘッド・ストレート・テラスという建物に、心理学科がある。この建物は、大学の建物というよりは、ふつうの民家に近い。大きなドアを開けると、心理学科のスタッフの写真がはってある。入り口に受付がある。約束がないと建物の中には入れない。
 グラスゴウ大学の心理学科はヘンリー・ワットが1907年に開設したものであり、長い歴史がある。ピックフォード、コーコラン、ファー、オートリーといった心理学者が学科長をつとめた。現在は、7名の教授をはじめ多くのスタッフがいる。リストには、日本人らしいポスドクの学生の名前もみられた。
 臨床心理学の指定校(博士課程)は、ガートネイバル王立病院の精神科に設置されている(後述)。

グラスゴウ大学の見所

 キャンパスの中央を横切っているのがユニバーシティ通りで、この通りに、医学部、メインゲート、図書館、ウェリントン教会、学生組合などの建物が並んでいる。巨大な恐竜像もあって、面白い。
 メインゲートに近いメイン・ビルディングは、巨大な中世的な建物で、圧倒される。ぜひこの建物は見たいもの。その一階に、ビジターセンターがある。ここはショップにもなっていて、グラスゴウ大学のロゴ・グッズも売っている。キャンパスの地図ももらえる。トイレもある。
 同じくメイン・ビルディングの4階が、ハンター博物館とケルビン美術館になっている。入場無料。いろいろなものが展示されていて、ミニ大英博物館の趣きである。ウィリアム・ハンターは、解剖学者で、解剖学のコレクションは有名。1783年のハンターの死後、彼のコレクションは、すべてグラスゴウ大学に寄贈された。それによって、1807年にハンター博物館はオープンした。この博物館は、スコットランドで最も古い公立博物館である。ハンターの解剖学のコレクションは、現在は、ロンドンの王立外科学会の中のハンター博物館で展示されている。ここは、人体標本を展示してある博物館である。これについては、『ワールド・ミステリー・ツアー13①ロンドン篇』などに詳しく載っているが、ものすごい情熱で、人体の標本を集めた人である。
 ヒルヘッド通りには、ハンター美術館とマッキントッシュ・ハウスがある。前者は、ハンターが集めた美術品を無料で見られる。レンブランドやピサロの作品がある。特にホイッスラーの作品については世界一の収集量という。画家のホイッスラーは、日本美術を収集していたようで、彼の日本趣味があらわれた作品も多く所蔵されている。
 マッキントッシュハウスは、マッキントッシュ夫妻の部屋を再現した美術館である。マッキントッシュは、スコットランド生まれで、建築家・デザイナーであった。夫妻の部屋は個性的なアートな部屋である。入場料は2.5ポンド。美術館ショップもある。マッキントッシュは、グラスゴウのクイーンズ・クロス教会やヒルハウス、教育博物館、ウィロウ・ティールーム、グラスゴウ・アートスクールなどを設計した。
 また、グラスゴウ大学のキャンパスの南には、大学の動物学博物館があり、ここも無料で見られる。
 グラスゴウ大学のキャンパスの南の方には、川をはさんで、ケルビングローブ美術館と博物館がある。巨大な建物で圧倒される。ここも無料で名画を楽しむことができる。その隣には、グラスゴウ交通博物館などもある。

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2)ガードネイバル王立病院

 グラスゴウ大学の精神科と臨床心理学科は、ガードネイバル王立病院にある。  クイーンストリート駅からタクシーで15分。グラスゴウ大学のある地下鉄ヒルヘッド駅から歩くと30分はかかる。  グレート・ウェスタン通りに面して、ガートネイバル総合病院がある。グラスゴウ大学の大学病院である。巨大な建物で、グラスゴウ市の医療の中心となる病院である。  そこから少し奥まった丘の上に、ガートネイバル王立病院が建っている。この病院は、単科の精神病院で、郊外の静かな丘の上に建っている。赤レンガの古い建物と,新しく建てられた病棟群からなっている。塀などもなく、自由に敷地に入れる。広大な敷地のほとんどが牧草地になっている。  中には大学の心理医学科(精神科)の建物がある。グラスゴウ大学の精神科には、以前、ジャン・スコットがいた。うつ病の認知行動療法で有名である。スコットは、ニューカースル大学で精神科医となり、アメリカのベックのもとで認知療法を学んだ。グラスゴウ大学の精神科の主任教授をつとめていたが、2002年から精神医学研究所の教授となった。2000年にはイギリス行動認知療法学会の会長をつとめた。著書には、『気分不安定を乗り越える:自分でできる認知行動療法』や、ベックやウィリアムと共編の『臨床場面における認知療法』がある。邦訳された論文としては、ドライデンとレントゥル編『認知臨床心理学入門』(丹野義彦監訳、東京大学出版会, 1996年)に「抑うつ」がある。  臨床心理学の博士課程(臨床心理士の指定校)は、この病院の心理学的医学部の中に設置されている。4名の教授をはじめとして、23名のスタッフがいて、毎年16名の学生を受け入れている。教授は神経心理学を専門とする教授が多い。

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3)ストラスクライド大学

 グラスゴウには、もうひとつ大きな大学がある。ストラスクライド大学である。  1796年にアンダーソンズ・インスティテュートとして創設され、王立工学カレッジ、王立科学技術カレッジと名前を変えた。工学では以前から有名な大学で、ロンドン大学のインペリアル・カレッジやマンチェスター工科大学と並び称される。1964年にはスコットランド商科カレッジと合併して、ストラスクライド大学となった。現在、学生数は14000名(うち大学院生は4000名)の中規模大学である。  建物は新しく、グラスゴウ大学とは対照的である。クイーン・ストリート駅から歩いて5分。ジョージ通りとカテドラル通りにはさまれて、キャンパス全体が斜面に建っている。

ストラスクライド大学心理学科

 ジョージ通りに面したグラハム・ヒルズ・ビルの6階に心理学科がある。
 教員は24名で、認知神経心理学、発達・教育心理学、道路交通心理学、交互学習研究、応用社会心理学の5つの領域の研究グループがある。
 ここはスコットランド教育心理士の指定大学院にもなっている。筆者は、2005年に、英国学校心理士研修に参加し、上級講師で教育心理士コースの責任者であるジム・ボイルの話を聞いた。スコットランドでは、ニュー・ラーニング・コミュニティという制度ができ、幼稚園から高校までの連携を密にするようにしたという。そのひとつのコミュニティの校長の話も聞いたが、この人も教育心理士とのことである。
 また、ストラスクライド大学の心理学科は、産業心理士の指定大学院ともなっている。
 なお、2000年の英国認知行動療法学会は、ストラスクライド大学で開かれ、筆者は初めてこの学会に参加した。大学には学寮があり、そこで安く宿泊できた。当時、グラスゴウ大学の精神科の教授はジャン・スコットであり、この大会の開催委員長をした。
 グラスゴウでの英国認知行動療法学会に参加した時の驚きと喜びは忘れられない。それまでは、筆者の思い描く臨床心理学の姿は現在の日本では異端であり、筆者ひとりの独断にすぎないのではないかという不安があった。しかし、この学会に出て、筆者が求めていた臨床心理学の姿がここにあったと感じた。しかもこれこそが世界の主流なのである。大いに意を強くした。日本では臨床心理学系の学会といえば事例報告が主であるが、英国認知行動療法学会では事例報告はほとんど見られなかった。多くは多数例研究や治療効果研究や実験研究であり、日本との違いに驚いた。サルコフスキスやバーチウッドと初めて会ったのもこの学会である。講演やシンポジウムをみると、実証にもとづく臨床(エビデンス・ベースのアプローチ)ということが当然のこととして語られていた。筆者にとっては、実証にもとづく臨床心理学はストラスクライド大学での体験から始まったのである。

ストラスクライド大学の見所

 ジョージ通りを一本登ったリッチモンド通りには,コリンズ・ビルがあり、ここにアートギャラリーがある。ジョン通りには、学生組合のビルがある。入り口には親切な受付の人がいて、2階以上には食堂や銀行やショップがあって、ここではストラスクライド大学のグッズが買える。トイレも利用できる。カテドラル通りには大学のブックショップがある。
 カテドラル通りに近く、キャンパス東側には、ビレッジ・オフィスがあり、ここの1階はビジター・センターの受付になっていて、地図などをもらうことができる。2階は食堂になっている。
 東側に歩いていくと、セント・ニコラス・ガーデンというきれいな庭がある。東側のはずれは、バロニー・ホールという古代教会風の建物(講堂)がある。
 さらに、大学の東側には、グラスゴウ大聖堂の巨大な建物が見える。ここは、グラスゴウの観光で必ず訪れる場所であり、ストラスグライド大学からは歩いて5分くらいである。大聖堂に隣接して、宗教美術博物館も併設されている。

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