認知行動療法を学ぼう世界の大学と病院を歩く丹野研究室の紹介駒場の授業
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8.ブロードムア(イギリス) 2005年5月29日更新

 ブロードムア病院は、イギリスで最も有名な精神科の病院である。イギリスには、危険な暴力的・犯罪的行為をなす人々を治療する高度警備病院が4つある。ブロードムア病院、ランプトン病院、アシュワード病院(以前のモス・サイド病院)、スコットランド州立病院である。こうした病院は、殺人や性犯罪などを犯した人を治療するために、最大限の警備体制を敷いている。これら4つの病院全体で、2000人ほどを収容している。内務省が実質的に管轄しているが、資金的な責任は、1959年からは保健省が持つようになり、1996年からは地方自治体が持つようになった。
 これらの施設では、精神科医や臨床心理士など多くの職員が働いている。とくに、臨床心理士は、治療において中心的な役割を果たしている。患者6人に対してひとりの心理士が配置されているということである。心理士の仕事は、再犯のリスクのアセスメントや心理学的介入などである。心理学的介入としては、精神病への認知行動療法、怒り制御法、弁証法的行動療法などがおこなわれている。
 日本でも、2003年に「心神喪失者等医療観察法」が成立した。これによって、殺人など重大な犯罪行為をしながら心神喪失などで刑事責任を問えない人を受け入れる指定入院機関を作ることになった。2005年から、国立精神・神経センター武蔵病院と国立肥前療養所を手始めとして、将来は各都道府県に最低2カ所が作られる計画である。この機関には、必ず臨床心理士が配置されることになっており、再犯のリスクのアセスメントや、心理学的介入の仕事をするようになる。
 ブロードムア病院は、特殊な病院なので、公式のホームページはない。写真もないし、どんなところかもわからない。ホームページで知り得た断片的な情報と、ロンドンのスタンフォード地図店で買った地図を頼りに行ってみた。
 ロンドン・パディントン駅8時半発の列車に乗り、レディングで乗り換えて、9時半にはウォキングハム駅に到着した(運賃は往復で25ポンド)。ウォキングハム駅は、ロンドン・パディントンからレディング経由か、ロンドン・ウォータールー駅から直行で頻繁に電車が出ている。ウォキングハム駅前からタクシーに乗って、ブロードムア病院まで15分の距離である。病院の最寄り駅はクロウソン駅だが、駅からは4キロくらいあり、歩くのは大変なので、タクシーを使うしかない。クロウソン駅は1時間に一本くらいしか便がないし、タクシーもなさそうなので、ウォキングハム駅でタクシーをひろう方が良いだろう。タクシーで林や牧場の中の道を通って病院の入り口に着く。
 住所はBroadmoor Hospital, Cricked Grove Road, Crowthorne, Berks RG45 7EG
 ブロードムア病院の入口はガラス張りになっていて、中に受付が見える。扉は開いている。しかるべき手続きをふめば、中を見学できる。ガラス越しに受付の写真を撮っていたら、女性の職員から「写真はダメ」と言われた。
 そこで、病院を外から見ることにした。病院全体が5メートルくらいの高い塀で囲まれている。塀越しに高い建物の上の方だけが見える。病院というよりは刑務所という感じである。広大な敷地だが、全体が高い塀で囲われている。
 外から病院の塀や案内板などの写真を撮っていたら、男性の職員が出てきて「病院の写真を撮るのは禁止されている。そういう法律がある。正式の許可を持っているか?」と聞いてきた。撮った写真を見せろというので、デジカメの写真を見せたら、その場で消去せよという。一枚ずつ写真を見せて、「これはイエス、これはノー」とチェックされて、ノーの写真はその場で消去させられた。案内板だけの写真は残してよいが、病院の写っているものは消去された。消されなかった写真も数枚残った。5メートルくらいの高い塀があり、上の方に高い建物の屋根だけ見える。
 その日は日本に帰る日だったので、内部に連れて行かれて住所を聞かれたりしたら、時間をとる。それは困る。素直に従ったら、その場で許してもらえた。
 美術館や博物館で写真禁止というところはあるし、学校などでは子どもの写真を撮るのを禁止されている、しかし、人を写していないのに公道で建物の写真を撮るのを禁止されたのは、イギリスでは初めての体験である。(かつて、中国の故宮を見物していて、コーヒーのスターバックスがあり、そこの写真を撮ろうとしたら、係員から写真禁止といわれたことはある。しかし、その場で写真を消去しろとは言われなかった。) かなり厳しい規制である。高度警備ユニットというのは、内側に厳しいだけでなく、外側の警備も厳しいのであろう。インターネットにブロードムア病院の写真や情報が少ない理由もわかる。
 待たせていたタクシーに乗り、病院を一周してもらった。かなり広大な敷地である。病院の周りには、ソーシャルワークの建物や図書館、作業療法の建物などがある。運転手の話では、同じような高度警備病院は、ケントとリバプールにもあるとのこと。ウォキング駅に戻り、レディング経由で11時にはロンドン・パディントン駅に戻れた。飛行機にも間に合った。
 レディング駅は、ロンドンからオクスフォードに行く途中にあるので、興味のある方は、途中下車してみるのもよいだろう。クロウソーンの駅の近くには、ウィリングトン・カレッジがある。また、ウィンザー城もこの一帯である(スラウ駅経由)。

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